第127話 【閑話】勇者ゼクトのやり直し⑬ 家、無料
俺は冒険者ギルドに来ている。
「勇者様、今日もまた雑用探しですか?」
「今日は違う、少し大きな家、屋敷が欲しくてな、幾つか見せてくれないか?」
「屋敷ですか? 確かにそろそろ住まわれても可笑しく無いですね、それでどのような家をお探しですか?」
「そうだな、日当たりが悪くて、ジメジメしている様な場所が良いな! 理想的なのは、そうだ魔王城だ!」
勿論、本物の魔王城が欲しいわけじゃ無い。
暗くてジメジメしていて涼しい。
そう考えたら頭に浮かんだだけだ。
「冗談ですよ! 揶揄ってますか?」
「いや、そんなことは無い、例えで言っただけで、魔王城が欲しいわけじゃ無くて、日当たりが悪くてジメジメしているのが良いんだよ! あっそうだ可能ならレンガか石造りで」
木だと壊れそうだからな。
「あの、勇者様、一般的には家は日当たりが良い場所を探しますよ? 本気で言われているのですか? 日当たりが悪くジメジメしていると言うのは欠点です」
言われてみればそうか?
俺はこちらの事情について説明した。
「そうですか…ルナさんの事情なんですね!解りました、探してみます。それで勇者様は買われるのですか?借りるのですか?」
「帝国は住みよいから、この際良い家があったら買おうと思う」
家の斡旋もギルドの仕事だ。
受付嬢の女の子は、真剣に書類とにらめっこしている。
よく考えればマイナスポイントだ。
書類には載ってないかも知れないな。
「幾つか目ぼしい物を選びました、ですが書類に載っていないので自分の記憶頼りです、間違っていたらごめんなさい」
「いや、無茶を言っているのはこっちだ気にするな」
「そう言って頂けると助かります。物件の方はどうなさいますか?」
「そうだな、皆で住む家だから、皆で見たい。明日にでも案内して貰えるか?」
「明日ですね、解りました。誰か案内をつけますね」
「頼んだよ」
俺はお礼を言いながらギルドを後にした。
◆◆◆
次の日、すっかり元気になったルナとマリンと共にギルドに来た。
「今日は宜しく頼むな」
「任せて下さい、僕が責任を持って案内しますから勇者様」
結局、冒険者ギルドでも『勇者』か。
もう慣れたけどな。
「家...買うの?」
「今から楽しみです」
相変わらずルナは感情が薄いな。
マリンは何だか嬉しそうだ。
【1軒目】
「此処がそうです」
確かに薄暗くて日は当たらない。
そしてジメジメしている。
条件的にはあっているな。
家も館と言えるほど大きい。
ただ、結構ボロボロだ。
だが、それは直せば良い。
「どうだ? 結構良さそうな気がする」
「私は此処でも良いわ…」
「あのゼクト様…此処は止めましょう」
「どうかしたのか? マリン、まだ家の中を見て無いのに」
「いえ、ゼクト様、どうかしたのじゃありませんよ! 此処墓地の隣りですよ?」
墓地の隣り?
何か問題があるのか?
「ルナは此処は嫌か?」
「ルナは問題ない…」
「あの、墓地の横は気持ち悪いから止めましょう」
「マリンが言うなら仕方ないな、悪いが次を紹介してくれるか?」
「確かに一般の方は嫌がりますね」
「そういう物なのか?」
「確かに勇者様には解らないですよね」
俺やマリアは聖魔法を使うから、基本嫌な場所とかは感じにくい。
普通の人間からしたら嫌なんだろうな。
よく考えて見れば、俺も子供の頃はお化けとか苦手だった。
『常識』
俺もルナもそれを覚える必要があるな。
「それじゃ次を案内してくれ」
【2軒目】
「ハァハァ、なかなか良い物件でしょう?」
「建物は良いな…だが駄目だ」
「…ルナは此処でも良い」
「確かに不便ですね」
建物は良いけど、此処は森の中だ。
帝都から遠すぎる。
俺は構わないが、二人が帝都に行くのに時間が掛かりすぎる。
「悪い、次を紹介してくれるか?」
「ハァハァゼィゼィ…解りました」
案する人が疲れているのは解る。
結構歩いたからな。
ちなみにマリンやルナは俺が時々おぶっていたせいか疲れて無さそうだ。
こんな森の中に良く家なんて建てたもんだな。
その後、数件案内して貰ったが、どうも『これ』という家は見つからなかった。
「しかし、なかなか良い家は無い物だな」
「はははっそうですね」
「ルナはゼクトが居るなら…何処でも良い」
「私はもう少し街の近くの方が良いです、これじゃ私やルナさんには不便すぎます」
「確かにそうだな…帝都の中には無いのか?」
よく考えたら何で街から離れた物件ばかり紹介するんだ。
「成程! 受付嬢も私も考え違いしていたみたいです…次は良い物件紹介します」
「頼んだよ」
◆◆◆
帝都の門の中に戻ってきた。
「ここなんてどうですか?」
灯台下暗し。
今紹介された家は、今俺が借りている宿のすぐ傍だ。
この館も大きいが周りに大きな建物があり囲まれているから日が当たらない。
この場所なら今と何も変わらない生活が送れる。
「立地は最高じゃないか」
「此処は凄く良い…」
「此処なら問題ないですね」
ルナもマリンも気にいったようだ。
「それじゃなかも見せてくれないか?」
「はい…只今」
新しいとは言えないが、そこ迄酷くない。
俺の実家より余程新しい。
「部屋が凄く大きい…」
「良さそうじゃないですか」
部屋数は6部屋。
キッチンに大広間もあるし、風呂もトイレもしっかりある。
それに何より日が当たらない部屋が多い。
まさにベストだな。
だが、この家は帝都の中でも日当たりは悪いが立地は凄く良い。
結構な金額なんじゃないか?
「皆も気にいっているようだから此処に決めようかと思うが幾らだ?」
「勇者様、無料でございます」
「何の冗談だ?!こんな立地が良い屋敷が無料の訳ないだろう?」
「それが、帝王様が、もし勇者様が家を求めてきたら代金はこちらで払うから無料で渡すように頼まれていたんです」
そうか?
そういう事なら素直に貰っておくか。
「それなら、ルナもマリン気にいったようだから、喜んで貰わせて貰うよ、帝王様にもお礼を言っておいてくれ」
「解りました」
無料ほど怖い物は無い。
多分、この借りは…いつか返さなくちゃいけないんだろうな。
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