第126話 【閑話】勇者ゼクトのやり直し⑫ 太陽はルナの敵
「勇者様ぁ~良かったらアッポル持っていってくれ!」
「あんがとよ! おっちゃん足の方はどうだ!」
「お陰様でこの通りだ!」
「何度も言うが、俺は勇者じゃない! いい加減覚えろよな、ゼクトって呼んでくれ」
「お前さんは勇者だ、誰がなんと言おうと俺はそう呼び続けるぞ」
「だ.か.ら.ぁ~」
「はははっ、それじゃぁな! 勇者様」
慣れてくれたのは良いんだ。
気さくに話してくれるも悪くない。
だが、俺は教会認定の『元勇者』
勇者じゃない!
なのに、帝都の人間は未だに『勇者』と呼ぶ。
「勇者様、炊き出しに治療、本当に精が出ますね」
「シスター、幾ら何でも教会の関係者がそう呼んじゃ不味いだろう?」
「教会として正式な場所では不味いかも知れませんが、個人として呼ぶのは問題ありませんわ。人々の為に頑張る貴方は正に勇者です!」
「なんだか、こそばゆいから出来たら止めてくれ!そういう言葉は俺の親友にこそ相応しい…俺には似合わない」
「自分では解らない物です、貴方が幾ら否定してもきっと皆が貴方を『勇者』と呼ぶ事でしょう、それでは私は失礼します」
俺は正式に勇者を辞めた人間だ。
しかも俺が勇者を辞められたのは、セレスが俺が困らないように手を回してくれたからだ。
そんな人間に勇者という言葉は似合わない。
勇者は誰よりも勇気がある。
俺はそこだけは自信がある。
だが、竜に負けた。
魔族の幹部に負けた俺に誰が希望を感じるだろうか?
だからこそ『俺は勇者じゃない』
ジョブは勇者だが勇者じゃない。
本当の勇者はセレスだ。
◆◆◆
今の帝都は住みやすい。
もうルナが此処での生活に困る事は無くなった。
マリンの身元も既に知られる事になったが、仲間として生活しているからか、もう受け入れられている。
これなら『ジムナ村に帰る』そういう選択はしないで良いだろう。
だが、俺は大きなミスをした。
ルナにはもう一つ気を使わなければならない事があった。
「ごめんなルナ」
「ゼクトは悪くない…それに大した事じゃない…寝ていれば平気」
傍でマリンは手ぬぐいを搾ってルナの額に当てている。
王女の割には凄く気が利く。
俺はすっかり忘れていたんだ。
ルナが『アルビノ』だという事を…
ちゃんと奴隷商は説明していた。
『体も弱く日焼けにも弱いらしいので値段はつかない品です』と。
それなのに俺は炎天下のなか一緒に芋掘りなんてさせていた。
日焼けに弱いのにそんな事をさせたら、体を壊すに決まっている。
「いや、完全に俺のミスだ! 今日はルナはゆっくり休んでくれ! 悪いがマリンはルナの看病を頼むな」
「ゼクトは…」
「はい任せて下さい」
「ちょっと出掛けてくる」
◆◆◆
道具屋に来た。
「いらっしゃい、何かお探しですか?」
「麦わら帽子は売っているか?」
「有りますよ」
「それなら、それを3つくれ」
「毎度」
自分が丈夫だから忘れていた。
子供の頃日射病に掛からないようにと母さんは良く俺に帽子をかぶりなさいと言っていた。
村で農業する時は皆、いつもかぶっていたじゃないか…
まぁ俺やセレス、リダはカッコ悪いとかぶらなかったがマリアやメルは夏場はいつも良くかぶっていたよな。
「ありがとう」
俺はそう伝えて道具屋を後にした。
次に来たのは薬屋だ。
「勇者様じゃねーか? 回復師としての腕を持つあんたが珍しいな」
確かに狩りすら真面にしないんだからポーション類はほぼ必要ないな。
「俺が欲しいのは日焼け止めだ、あるか?」
「ああっ女性用の化粧品も扱っているから有るよ」
「なら、それを2本くれ、あとはドリンク剤を2本」
「ヒールが使えるのに?」
「ああっ日射病だからな」
ヒール系の呪文は怪我も治るし病気にも効く。
だが、何故か日射病には効かないんだよな。
理屈はマリアやセレスじゃねーから知らないけどな。
「ああっそれじゃ必要だな」
「まぁな」
俺は代金を払い薬屋を後にした。
後は…氷菓子でも買って帰れば良いか。
氷系の呪文は俺は苦手だから買うしか無いな。
◆◆◆
「今帰ったぞ」
「…お帰り」
「お帰りなさい、ゼクト様」
ルナの顔色が少し良くなった気がする。
「少しは元気になったみたいだな」
「だから…言った…寝ていれば治る」
「その割には、ゼクト様が居なくなってから、ゼクト、ゼクトォォーってうなされていましたよね?」
「…マリン煩い…私は大丈夫」
「我慢はしなくて良い、取り敢えずこれを買ってきたから、これから外に出る時はかぶれよ! マリンもな、それと日焼け止めも買ってきたから外に出る時には必ず事前に塗っておけ」
俺は麦わら帽子と日焼け止めを渡した。
「…ありがとう」
「私もですか?」
「ルナお礼は良い、マリンお前だって元王女だ、日差しの下には慣れて無いから必要だ、ルナはドリンク剤を買ってきたからすぐに飲んでおけ」
そう言いドリンク剤の瓶をルナに渡した。
ルナはぐぃっとドリンク剤を飲み干した。
「…苦い」
「良く飲んだな! さぁ氷菓子も買ってきたんだ、皆で食おうぜ」
二人に氷菓子を手渡した。
「冷たくて甘くて美味しい…」
「これも初めて食べましたけど冷たくて美味しいですね」
「マリンは氷菓子を食べた事無いのか?」
「ええっ話には聞いていましたが、体の調子が悪くなるからと食べさせて貰えませんでした」
王女って言うのも案外不自由なのかもな。
今はカーテンをしめているがこの部屋は日当たりが結構良い。
それに二人なら兎も角、三人だと少し狭い。
一軒家なら日当たりの悪い部屋も普通にある。
ルナの為にも家を買うのもありかも知れないな。
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