第125話 【閑話】勇者ゼクトのやり直し⑪ 芋掘り
勇者とは一体どんな者の事を言うのでしょうか?
前は凄く悩んでいました。
出世欲が強く、女癖が悪そうな顔だけが良いだけの人間。
そんな人間が勇者なんて、女神は何を考えているのでしょうか?
本当にそう思いました。
『俗物』その言葉が良く似合います。
以前、あった大司教は『勇者とは世界を救う人物』なのです。
そう言われていましたが『この様な人間に世界など救えるのですか?』
そこ迄思えてしまう俗物。
幼馴染三人と陰でイチャついている様子も何回か見ました。
有能な幼馴染を自分の我儘で追い出した無能。
それが私の知るゼクトという人物でした。
婚約者候補だから何回かお茶をしましたが、話も面白くない、ただただ自己の自慢しかしない人物。
それが、何故此処迄変わったのでしょうか?
今のゼクト…いえゼクト様は見ていて凄く心地よく、戦わないのに『勇者』に見えます。
◆◆◆
「それじゃ行くぞ、うりゃぁぁぁぁぁー――」
「うりゃぁ…」
「あのゼクト様、今日は何を?」
「何をって、芋掘りだが? さぁマリンもやってみようぜ!うりゃぁぁぁー-ってな」
今日の俺達は芋掘りに来ている。
今現在、冒険者の仕事で真面な狩りは無い。
精々がゴブリンやスライムの狩り位だ。
ホブゴブリンですら魔国に帰り居ないのだ。
結局、今現在の冒険者は『何でも屋』に近い。
俺はこれでも村で暮らしていたから畑仕事は一応は出来る。
芋掘りなら、ルナやマリンも出来るし、楽しみながらやれそうだから、これを受けた。
最も、二人は真面に出来ないだろうから、事前に『1人分』という話をして置いた。
まぁそれなら文句は出ないだろう。
「うりゃ…」
「うらやぁぁぁぁー-っ、こうですか?」
別に掛け声まで真似なくても良いが、まぁ子供時代の俺位には出来るな。
別に監視も居ないし、かご12個分で銅貨7枚(7000円位)の仕事だ。
俺が頑張って二人には仕事に慣れるのと楽しんで貰えれば良いだろう。
「なかなか二人とも筋が良いじゃねーか」
「お芋掘り…楽しいから」
「こういう体験は初めてです、ですが何故ゼクト様は、雑用をされるのですか?」
元は農夫の息子だからな。
「勇者なんて言っても、元は農夫の息子だぜ!貴族でも何でも無い。だから体を動かすのはそんなに嫌いじゃない! 俺の親友のおかげで勇者は必要なくなった。世界が平和で勇者が必要ないなら他に出来ることをしたい。それだけだな!」
「それなら貴族や領主、騎士などになる。そう言う事は考えなかったのですか?」
俺が貴族や騎士?
無理だな。
「俺は一人で城位簡単に落とせるんだぜ、そんな奴が傍に居たら、王様も宰相も貴族も気を使って大変だろう? ネズミの中に1匹だけ狼が居る、幾らこちらが手を出さなくても内心はきっと怖いと思う筈だ」
俺がマモンを恐れた様に、一般人から見たら俺もマモンも同じだ。
「確かにそうかも知れませんね」
「ルナは怖くない…」
この二人は凄いのかどうか解らないが、俺を普通の人間と変わらず接してくる。
この距離感が気持ち良い。
「ルナありがとうな!王族のマリンがそう思うんだから間違いじゃない筈だ…今の俺はもう勇者じゃない! 戦いの中に生きる必要が無いなら『普通に生きる』それも良い気がする…どうだ?」
「そうなのでしょうか?」
「普通…解らない」
「今の俺は自由だ、自由と遊び惚けるは違う…と俺は思うんだ。ルナは勿論の事、マリンも王女じゃ無いから『好きに生きて良いんだ』」
「自由ですか?」
「ああっ、なりたければパン屋の店員にもお針子だってなれるんだ、まぁ、なる必要は無いが『なる事も出来る』選択肢がある事は結構良い事だぜ」
「あの私は貴方の妻です」
「ルナも…」
「マリンもルナも一緒に生活をしているからそれも、勿論有りだ。だがマリンもルナもまだ永く一緒に居るわけじゃ無い、本当に『好き』その気持ちが固まった時に本当の意味で『妻』になってくれれば良い、例え妻でなくても、もう家族だとは思っているから『守る』そういう気持ちは変わらない」
「ゼクト様…」
「ゼクト」
これで良い筈だ。
多分俺は恋や愛という事に疎い。
だが、短期間で築けるものじゃないのは解る。
セレスとの絆も時間を掛けて出来たものだ。
セレスは俺があんな事をしたのに最後まで味方だった。
ちゃんとした絆が出来るにはまだ時間が短か過ぎる。
「とりあえず、手を動かそうぜ」
「そうですね」
「…うん」
今はただ、この心地よい時間を一緒に過ごせるだけで俺は幸せだ。
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