第112話 アンサラー
「いらっしゃい…リダか久しぶりだな」
「なんで、ヨーゼフおじさんが武器屋なんてしている訳? 確かに似合っているけどさ…」
ヨーゼフおじさんは禿げ頭に筋肉ムキムキで冒険者か傭兵に見えるが、元はれっきとした農夫だ。
「はははっ此処は英雄の故郷だぜ! そりゃ武器屋位なければ、恰好がつかないだろう? 王都にも無いような物やレトロな物まで一応集めてきたんだ! まぁ見ていってくれ」
「へぇ~確かに変わった物が沢山あるね」
「フレイ様、確かに変わった物が沢山ありますね」
「ああっ、レアな物も結構あるから見ていってくれ」
フレイ様は隅々まで食い入るように見ている。
確かに、田舎にしては凄い品揃えなのかも知れない。
だけど、そこ迄の物があるのかな?
「あれっ、この鎧は見たことが無いよ…綺麗…」
「リダ、それはスターフィールド製の軽装鎧だ、綺麗だろう」
「だけど、こんな薄くて耐久性はあるの?」
「無いな…だから潰れたんだあの工房、最後はセールでたたき売りしていたから買ってきたんだ」
「意味ないじゃん」
「いや、戦わないで女の前で恰好つけるなら最高だぜ!」
駄目じゃん。
「この魔剣、なんで水魔法が刃に掛かっているの?」
「それこそが、現代を生きる若者のリーサルウエポン 水冷ソードだ」
「それでどういう効果があるの?」
「カッコいいだろう? それで戦うと女にモテるんだ」
ヨーゼフのおじさんは腕を組んでどや顔しているが…意味ないじゃん…それ。
「それってカッコいいだけで意味がないんじゃない?」
「今の世の中魔族と停戦しているんだぜ? 強い装備は必要ない…そう思わないか?」
「確かにそうかもしれないけどさぁ…」
確かにそうかも知れないけど…なんだか寂しいな。
「流石に聖剣はないが、業物や魔剣もあるから色々見るが良い」
「そうさせて貰うね」
◆◆◆
「フレイ様は何をしているんですか? そんな樽の中を見て」
「こう言う樽の中にある、安物の剣の中に意外な掘り出し物があったりするんだ、喋る剣とかベルンドの作った試作品が見つかった事もあるんだよ」
しかし、この店随分と樽があるな10個もあるよ。
「そこにある武器は全部銀貨5枚のセール品だ、ジャンク扱いだから保証は無いな…まぁ中には堀出し物もあるから目利きが出来るなら、良い品もあるからお得な買い物が出来るぜ」
ジャンク品、ゴミ扱いという事だね。
「錆びた剣や欠けた剣ばかりですね」
「そりゃそうだよ…これなんか元は良い剣だったのかも知れないけど、今じゃ見る影も無いな」
「ガラクタばかりですね」
「その中から、業物を見つけた時が嬉しいんだよ」
「フレイ様はお姫様なのにですか?」
「姫らしくない…そう皆は言うけどね」
「剣聖らしくないと僕も言われるから一緒ですね」
「だな…折角だからリダも樽の中の剣を調べてみると良いと思うよ」
「僕はもう戦えないし、戦いたくないから」
「そう…同じ元剣聖なのに、勿体ないな、私といい線まで戦えるのに…」
「心が折れてしまいましたから…」
「そう? 今はそれで良いかも知れないけど…いつか後悔する時が来るかも知れない、そうだな、例えば家族や愛する人が死に掛かっている時に『剣が使えたら』そういう後悔する時が来ないとも限らない…好む、好まないは自由だよ…だけど女神が君を『剣聖』に選んだんだ、最低限鍛えていた方が良いよ」
「それで、あんなに鍛えて下さっているのですか?」
「ああっ私も偉そうな事は言えないけどね…魔王軍に負けた無様な勇者パーティの無様な剣聖だからね、リダと同じだよ、多分、もう一度魔王軍と戦う事があっても…多分勝てない…それでも『元剣聖』騎士より遥かに強い『やれる事はある筈だ』そう思うんだよ。ましてリダのジョブは『剣聖』のまま、きっと君にも出来る事がある筈だ」
「僕がやれる事があるのかな?」
「絶対にある! それは私が保証するよ!」
『君の剣は此処にいるよ!』
「いま、声が聞こえた気がする」
「リダ…それは気のせいだ…私があんな話をしたから、そう感じただけだろう?」
「だけど、聞こえた気がします…そうだ、この樽から…凄い」
僕が見た剣は凄い飾りがついた一見聖剣に見える位綺麗な剣だった。
「ヨーゼフおじさん、樽に間違って凄い剣が入っているよ…」
「それ、見た目凄いけど訳ありなんだ、鞘から抜いて見ろ」
僕は鞘から剣を抜いてみた。
神秘的に青白く輝く刀身が凄く綺麗に見える。
「抜いたけど…」
「まさか抜けるのか…たまげたな…それ誰も抜けなかったのに…もう一度鞘に戻してくれるか?」
「解ったよ」
鞘に戻してヨーゼフおじさんに渡した。
「やっぱり抜けねーよ…なにかコツがあるのかな…」
「どれ私に貸してみてくれ」
「ああっ」
「リダ…これは私にも抜けない…元剣聖の私に使えない剣など、本当はない筈なんだけどな…この剣の細工は何処かで見た気がする…これは魔剣『アンサラー』だ」
「アンサラー」
「主人を選ぶ剣で他の人間には扱うことが出来ない…そしてこの剣は主人の代わりに戦うんだ」
「「主人の代わりに戦う?」」
「そう、この剣は主人の代わりに戦うんだ…まさに今のリダにはうってつけの剣だよ…私が買ってあげよう…はい銀貨5枚」
「毎度…まだ町に居るんだろう? また来てくれよ」
「解った、またくるよ」
僕は剣を受け取り店を後にした。
◆◆◆
僕達は今近くの野原に来ている。
「さぁリダやろうぜ!」
「やろうぜと言われても、僕は出来たら戦いたくないんだ…木刀なら我慢出来るけど、真剣は嫌です…それに」
あの時からそうだ。
僕はもう駄目なんだよ。
マモンに負けて…絶望を味わってから僕は真剣を使おうとすると手が震えるんだよ。
「大丈夫だよリダ、その剣アンサラーは『戦いたい』そう願うだけで剣が勝手に戦ってくれる…主のリダには、その起動用のワードが解る筈だ」
「だけど僕…そんなの知ら…」
頭の中にワードが浮かんできた…
こんなセリフを言わないといけないんだ…
『我は如何なる強敵にも怯まない…この剣と共に!』
僕は剣を抜いて構える。
「我は如何なる強敵にも怯まない…この剣と共に!」
手の…体の震えが止まった。
しかも、剣が僕の意思とは別に動き出す。
僕は剣の邪魔をしないようにただ剣を持っていれば良い。
素早い動きでフレイ様に剣を斬りつけていた。
「凄いな…まさかアンサラーとはそこ迄の剣だったのか…」
だが、それで止まらない。
二撃、三撃と次々と勝手に斬りつけていく。
「僕は剣を持っているだけなんです」
「それで、これなんだ…凄すぎるな」
ヤバいかも知れない。
剣が凄い技を出そうとしている。
「不味いです、フレイ様…剣が何か必殺技を出そうとしています…逃げて下さい」
「リダ…舐めすぎだよ…どんな技か受けやる」
『ソニックブレード』
「ソニックブレード」
今迄に見た事無いスピードで僕は剣を振った。
剣の先から凄まじい剣戟が飛んでいく。
「ぐっ…うわぁぁぁぁぁー――――っ、ハァハァ危ない…死ぬかと思った…」
フレイ様の剣は魔剣だからこそ耐えらえたが…剣ごと吹き飛ばされ近くの巨木に体が少しめり込んでいた。
此処で止めないと…
『次元刀』
「次元刀…待って、待ってもう戦わないで良いから…止めて、頼むから…」
剣は光がおさまり、僕の腕は力が抜けた。
剣は何事も無い様に自分から勝手に鞘に収まった。
「それとんでもないわね…私は剣の腕を磨きたいから要らないけど…どうしたらその剣を持ったリダに勝てるか思いつかない」
「確かに、自分でも信じられません」
「それじゃ、今度は私に稽古をつけて…リダ」
僕まだ…剣から逃げられないの…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます