第113話 元聖女



はぁ~なんで私は教会に行かなくてはならないのでしょう…


聖女を辞めてもう関わることは無いと思っていたのに…


本当なら楽しく今日は買い物する筈だったのに…


「マリア、貴方不服そうな顔をしていますね」


「そんな事はありません…」


「そうですか? なんか嫌そうな顔をしていますよ?」


「それは…私は聖女なんて呼ばれていましたが、戦っていただけで教義すらあまり詳しくないんです…教会なんて無縁な生活でしたから…」



「貴方、聖女の癖に信仰心が無いのですか?」


「村でお祈りをした位です…」


「聖女の力は信仰心に左右されるのですよ…魔王軍に負けた私が言えた義理じゃありませんが…信仰心と優しさを持った方が良いわ」


「あの、セシリア様、私はもう聖女を捨てた身です。今更、教会に用はありません」


「貴方…馬鹿ですか? なら身一つで何処へでも行けば良いと思います」


「幾らセシリア様でも言い過ぎです! そこまで言われる理由はない筈です」


幾らなんでも此処迄言われる謂れは無いわ。


「ありますよ? セレス様は『英雄』です…聖教国を含み三国が認めた至高の存在…信者によっては『女神の代理人』とすら呼ぶ方も居るのです…そして貴方はセレス様の『家臣』になったのですよね?そんな貴方が教会を否定して良いんですか? 良いですか? 貴方は『家臣』なのです! 主であるセレス様へ忠義を捧げる存在ですよ? 『英雄保護法』に守られているセレス様の家臣の貴方が教会を否定するなら、貴方には家臣の資格はない…そう思いませんか?」


言っている事は解るよ…


確かに言われてみれば…そうなのかも知れない。


「確かにそう思います…」


「それで、貴方はどうしますか? 私も元聖女です…私だって魔王軍にパーティが負けて生きて帰ったから…その後の扱いは大変でしたよ…『負け犬聖女』そう呼ぶ者もいましたし、街を歩けば石を投げられた事すらありました…生き恥を晒す位なら死のうか…そう思った事すらありました。でも、それで終わっちゃ駄目…そう言い聞かせて頑張ったのです。その結果、教会や聖教国に認められる様になったのです…マリア、貴方はどうしますか? もう頑張るのを辞めますか? 可哀そうだから『出ていけ』というのはやめますが、私は貴方を『只の使用人』としか一生見ませんよ?」


私が幾ら否定してもジョブは『聖女』だ。


私から『回復』という特技を奪ったらなにが残るのだろう。


きっと何も残らない…だからあの場に居られない…そう思った時に、その道で生きようと考えたんじゃないかな…


今更他の事なんて、私には出来ない。


だったら…『英雄』であるセレスが、仲間が傷ついた時に後悔しない様にヒーラーとしての腕を磨く…そういう覚悟が必要だ。


「私、教会に行きます! セレスや仲間が傷ついた時に助けられる様になる為に頑張ります!」


「そうね…でもセレス様の仲間には私が居て『黒髪の癒し手』の静子さんがいるから…まぁ暫くは出番が無いよ…私達の実力は解っていますよね?」


「うっ…解っています」


「まぁ良いわ、随分と顔つきが変わったわ…それで充分!それじゃ行きましょうか?」


「はい!」


結局、私にはこれしか生きる道はない。


だから…頑張るしかない!


◆◆◆


「新しい教会って素敵ですよね、空気が違います!」


確かに新しい家と同じで綺麗だし…良い匂いがします。


思った以上に大きいし…


近くで見ると大きさはそこらの教会とは比べ物にならない位大きいですね。


「セシリア様にマリアじゃないか?」


「マーブルおばさん」


「あら嫌だよマリア…此処じゃシスターマーブルって呼ばれているんだ…司祭様が決まるまで、一応責任者をしているんだよ」


「そうなんだ…」


「そうさ、なかなかだろう!」


「そうね」


セシリア様は、セシリア様、私はマリア…同じ元聖女でもこんなに差がある。


「それで、シスターマーブル『白銀の祝杖』は届いていますか?」


「はい、それなら此方に…」


かなり立派な杖…しかもこんな杖は聖なる武器以外では見たことが無い。


「マリア、これは聖女以外が持てる杖では最高の物です…まぁ私や静子には及びませんが、教えるべき事は教えました…あそこで教会を完全に拒絶するなら渡さないつもりでした。本来は治療院の主になった時に渡すつもりでしたが…その機会は無くなってしまったので今差し上げます…技術は教えました…あとは努力で心と力を身につけなさい」


「ありがとうございます…精進します」


「大丈夫です! 今後も静子と私が鍛えて差し上げます! 歴史に残るようなヒーラーに必ずしてあげますよ…死ななければですが…」


「はい…お願いします」


私は…もしかしたら選択を間違ったのかもしれません。








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