第106話 勇者らしく!ゼクトらしく!




「セレスくん、最近なんだか、リダちゃんとばっかり…遊んでいるよね」


「ふ~ん、確かにセレスは小さい頃からリダと仲が良かったからね…でも少し構いすぎじゃない?」


なんだか目が怖い、静子は目が座っているし、ハルカは口答えしたらビンタされそうな気がする。


「静子さん、姉さん…リダは俺にとって親友のポジションだよ…知っているよな?」


「それは知っているわよ、だけどこうも毎日じゃ文句も言いたくなるじゃない?」


「セレス、私達まだ新婚なんだから…もう少し私も構ってよ!」


「セレスさんが優しいのは解るし、リダさんが親友なのは解るのよ…だけど、親友と奥さん、どちらが大事なのかな?」


「セレスちゃん…友達付き合いも大事かもしれないけど、リダちゃんは家臣でもあるの…主のセレスちゃんが1人の家臣と遊んでばっかりじゃしめしがつかないじゃない…」


「静子さん、姉さん、サヨさん、ミサキさん…すまない」


リダと目が合ったが、釣り竿を置いて逃げた。


こういう時の逃げ足は速いな…剣聖の俊足を使って逃げるなんてズルいよ。

家臣は主を守る者じゃ無いのか?


まだ家臣は2人居る…マリア、メル。


昔のパーティ時代を思い出して目配せをした。


二人してこちらを見た。


よし…これで…


「ママの言う通りだわ、大体同じ家臣なのにいつもセレスはリダとばかり、私やメルとは一緒に居てくれないわ」


「そうだよね…いつもリダとばかり、酷いよ!」


ああっ敵が二人増えたようなものだ。


幸い、マリアーヌ達は4人で出かけている


今ここに居るのは6人…帰ってくるまでに決着をつけないと不味いな。


「セレスくん、謝るのは良いのよ…それより今後どうするのかな?」


「そうそう、それを聞きたいな!」


「セレスさんは今後どうするのかな? 謝ったって事は悪いとは思っているのよね」


「悪いと思ったら、謝るだけじゃなく、償いが必要よセレスちゃん!」


こういう時の母親モード…可愛いけど、少し怖い。


仕方ない、こういう時こそ『オークマン式恋愛術…その①』だ。


《回想》

※家臣になる前の話なのでため口です。


「いいかセレス、もし妻達と揉める事があったら、寝室を一緒にする事を提案するんだ」


「それで、なにかあるのか?」


「ああっ、大体沢山の妻を持った奴は『寂しい思いをさせる』そういう失敗が多い…だからこそ、一緒に寝る事は必要だ…ただ一緒に寝ているだけだが、女にとっては一緒に過ごした時間が凄く増えた事になる…かなり有効なんだぜ」


《回想終わり》


「そうだな、確かに、皆と過ごす時間が最近凄く少なかった気がする、俺にとって、皆の事は凄く大好きで愛しているけど、やっぱりちゃんと態度に表すべきだった…本当にごめん…それで今考えてみたんだけど、一緒に過ごす時間が少ないのが良くない…そう思ったんだ。だから、今日から妻である皆と一緒に寝ようと思うんだけど、どうかな?」



「セレスくん、それってどういう事かな?」


「え~とセレスどういう事?」


「今迄バラバラで寝ていたけど、全員のベッドをくっつけて夫婦全員で寝ない? そうすれば一緒に居る時間が増えるし眠くなるまで話も出来るし…どうかな?」


「セレスくん…それ良いかも知れない」


「セレスにしては考えたね…うんうん」


「セレスさん…それ良いわね」


「セレスちゃん、それ面白そうね」


「それ良いわね」


「うん、良いと思う」


流石、オークマン、コハネに行ったらお礼を言わなくちゃな。


「喜んでいるけど、マリアとメルは妻じゃないから別部屋だ…付き合わなかった分は買い物でも付き合うからから、それで許してくれ」


なんで、そんなにがっかりするのか解らない。


「そうね…解ったわ」


「私、欲しい物沢山あるから、買って貰うからね」


「解ったよ、少し位贅沢しても良いよ」


「折角だから、その買い物も皆で行きましょう、セレスさん」


「ちょっとママ大人気ないよ」


「そうだよ! ミサキさんやお母さんは毎日一緒に寝るんだから良いじゃない!」


「メルさん…新婚のお母さんの邪魔をして楽しいのかな? お母さん怒るわよ…」


「お母さん、そうだね、うん絶対皆の方が楽しいよね」


「良い子ね」


大人気ないけど…こういう所が可愛く思えるんだよな。


◆◆◆


いきなりドアが開いた。


「ハァハァ、大変な事が起こったんだ、セレス様」


「大変なのですわ、ハァハァセレス様」


フレイとマリアーヌが息せききらして帰ってきた。


王女二人が走って帰ってくるなんて珍しいな。


特にマリアーヌは普段、走ったりしない。


「一体どうしたと言うんだ、そんな息せききらして…」


「セレス様、元勇者ゼクトが私の国の城に攻めこみました」


ゼクトの奴、まさか血迷ったのか?


「それで?」


「王城が半壊して、帝国に大きな被害が…」


「それで死人は出たのか?」


「それは不思議と出ていないらしいですわ」


それなら、ゼクトは血迷ったりしていないな。


「それなら、ゼクトは多分悪い事してないな…恐らく帝国側が悪いんじゃないのか?」


「セレス様…城が半壊したんですよ!」


「あの…フレイも元は剣聖だから解るだろう? 勇者が本気で戦うなら、多分、皆殺しまでは行かなくても千から万単位の死傷者が出る筈だ…それが出ないならゼクトはしっかりと手加減していた筈だよ」


俺は黄竜だから別格だが、四職を止めるには数の暴力で押すしかない。


恐らく一番戦闘力の低い聖女だって騎士団位壊滅に出来る。


それが死人一つ出さないで済ましたなら、しっかり手加減したという事だ。


「だからって城が半壊して騎士に怪我人が出ているんですよ…幾ら何でも酷いと思いませんか?」


フレイは幼馴染じゃないからな…ゼクトを知らないんだな。


「良いかフレイ…ゼクトは女癖も悪いし、性格も良くない」


「やっぱり、そうじゃないか」


「だが、彼奴はそれでも勇者だ…正義の味方なんだよ!だから理由も無く、そんな事はしない」


「そうね、うちの息子は更に馬鹿で中途半端もつくけどそこ迄悪い事しないわ、精々が小悪党かな」


「そうね、ゼクトは静子が怖いから『本当に悪い事』はしないよ」


「ゼクトさんは性格こそ悪いけど、本当の悪事はしないわね」


「ゼクトちゃんはそんな酷い事理由も無しにはしない筈よ」


彼奴は本当に嫌な面が多い。


だが…根っこは『勇者』なんだ。


無謀だが、竜の大群に戦いを挑み、負けはしたがマモンとも戦った。


そんな彼奴だから…俺は信じられる。



「まぁ、あれでも勇者だわ」


「そうだね」


幼馴染だからこそ解る事もある。


「それで、どうなったんだ? ゼクトが戦ったのならもう結果は出ているだろう…」


「それが悔しい事に帝王である、私の父が謝り『S級冒険者ゼクトとその奴隷を貶した者は牢獄送り1年とする』という触書を出したらしいです」


なんだ、そう言う事か?


「その奴隷は女なんじゃないか?」


「そうらしいです」


「それで、その触書には経緯も書いてあるんだろう…見せてくれないか?」


俺は触書を見ると、全てを理解した。


静子やマリア達も覗き込んでいる。


「あらまぁ、あの子らしいわね」


「うんうん、ゼクトらしいね」


「これじゃ仕方ないかな?」


「ゼクトちゃん…らしい」


フレイが可笑しな者を見る目で見ている。


マリアーヌも同じだ。


「ほら、奴隷の女の子の為にやった…それだけだよ」


「ですが、たった1人の為に城を半壊させるなど酷すぎます」


「そうか? だったら俺だって同じだ…もし此処にいる仲間が同じ目にあったら…同じ事をするかも知れない…だから間違ってないよ」


「そう言う事ですわね、私が酷い目にあった時にセレス様はゼクトと同じ事をする…そういう事ですわね…ならゼクトは悪くありませんわよ」


「マリアーヌ、貴方まで」


「それじゃフレイに聞きますわ、もしセレス様が酷い目にあった時に貴方は剣を抜かないの?」



「そうか抜くよ確かに…あはははっ…仕方ないな…うん私も同じ事するかもな」


「なら、貴方もゼクトを責められないですわよ」


「仕方が無い…納得したよ…まぁ帝国は強い男が偉いんだ…身内とはいえグチグチ言っちゃいけないな」


「納得してくれて良かった」


ゼクトはゼクトらしく生きているんだな…


元気そうで何より頑張れよ!
















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