第100話 故郷
「此処が、セレス様の生まれた町ですのね」
「随分ひらけた町なんだな」
「まさか、こんな町があるなんて知りませんでしたわ」
俺だって知らないよ?
俺が育った時はまだ村だったんだから。
しかも、今のジムナは街なのか町なのか解らないらしい。
今現在は商業都市として進んでいる為、商業地域は『街』なのだそうだ。
その反面、住宅、住宅地も増えていて『町』とも呼べる。
その為『ジムナ町』『ジムナ街』どちらも正しい。
最も、急速に成長したせいか、未だに『ジムナ村』と『村』で呼ぶ者もいるみたいだ。
町長も偶に『ジムナ村』とか『村』と言っているから仕方ないな。
「俺が住んでいた時は、普通の村だったんだけど、随分ひらけたみたいだな」
今日は、静子達が気を利かせてマリアーヌ、セシリア、フレイを連れて散歩している。
静子達はナジム村長ともう少し話すそうだ。
「しかし、凄いですわね…セレス広場に英雄の噴水、セレス橋にセレスの広場…そしてセレスの像…沢山の物にセレス様の名前がついていますわ」
「本当に凄いよな…こんな名前がついている人は他には居ないよ」
「本当にそう思いますね、聖人の中でも別格ですよ」
俺は大した事してない。
ただ、村に仕送りをしていただけだ…
しかも、ナジム町長から
『流石にもう仕送りは良い…充分皆肥えた、もうお前には恩ばかりで生涯返せんからな』
そう言われてしまった。
領主様や教会…更に国までもが今やこの街に支援してくれているらしい。
これでこの村、いや町に俺がする事が無くなってしまった。
それが凄く寂しい。
俺の名前はあちこちにあるけど…此処は俺が知っているジムナ村じゃない。
「別に大した事してないよ…ほんの少し頑張って仕送りしていただけだよ」
本当にそれだけだ。
「そんな事ないですわ」
「そうそう」
「ええっ…ほら皆さんこちらを見ていますよ」
そうか…村は変わってしまっても、変わらない…
「セレスくん、流石に王女様たちと一緒だと声かけずらいんだけど、今日の夜でも一緒にお酒でも飲まないか?あとほら、セレスくんの提案で作ったライスボール沢山持ってきたからはい…」
「シュートおじさん」
「おいおい、飲むならうちのギルドの酒場に来てくれ、好きなだけ飲んで食わしてやるからよ」
「俺は顔をだしずらいんだが、その…世話になったな」
「カイトおじさんに、セクトールおじさん」
「あのセレス様、この方たちは?」
「随分、親しそうだな…」
「身内の方ですか?」
ちゃんと言った方が良いだろうな…
「俺の奥さんの元旦那で…親友みたいな人で…なにより俺にとって『お父さん』みたいな人達なんだ」
「「「セレス(くん)」」」
「お初にお目に掛かります、セレス様の妻になりました、マリアーヌと申します」
「同じくフレイです…冒険者ギルドの方なら知っているよな」
「同じくセシリアと申します、宜しくお願い致しますね」
王女二人に元聖女に挨拶されて、恐縮しているけど…
自分の息子や娘も元四職なんだけど…忘れてないか?
すっかりと雰囲気はかわり…元の面影はないけど…
知っている人は沢山いる。
あのおじさんも、あのおばさんも皆、知っている。
なんだ…ここは『俺の知っているジムナ村』じゃないか。
つい口から出てしまう。
「ただいまー-っ」
「「「おかえり、セレス(くん)」」」
うん、此処はやっぱり俺の故郷だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます