第101話 【閑話】勇者ゼクトのやり直し



ガルバン帝国に来た。


お金は有るし、その気になれば士官は簡単だ。


騎士には簡単になれる、そして俺なら出世して騎士団長位にはなれる。


俺には名乗る資格はない…だが『勇者』のジョブはあるんだ。


この位の出世は今でも簡単だ。


だが…それが何になる?


幼馴染で親友のセレスは英雄だ。


そして、ゆくゆくは王配になる…いやもしかしたら『帝王』や『王』になるかもしれない。


その時、俺はセレスに仕えなければならない。


俺は彼奴に沢山の借りがある。


これからの人生で、それを返していかなくてはならない。


『セレス、お前はすげー奴だよ』


心から今は思っているんだ…だが、俺の中にそれ受け入れる心と『負けたくない』そういう心があるんだ。


親友だからこそ、負けたくない。


だが…俺は本当に何をしているんだ…


冷静になり、時間を置けば置くほど『自分の愚かさ』が良く解る。



一緒に居た幼馴染を捨てるように飛び出した。


馬鹿だな…確かに彼奴らは『俺よりセレスの方が好きだ』それは解る。


だが、今のセレスがそれを簡単に受け入れられるだろうか?


答えは『ノー』だ。


母親と結婚している以上、幾ら法的に問題が無いとはいえ、彼奴らは妻にはなれないだろう。


それなのに…俺は、そんな彼奴らを置いて出て行った。


今なら母さんが怒った意味が少しは解る。


俺は…彼奴らを見捨てたんだ。


だから、怒られた。


心が離れたから…敵を怖がり戦わないからと、あいつ等をどこかで嫌い…足手纏いだと思っていたんだろうな。


『そんな足手纏いはもう要らない…これでも此処迄は俺なりに頑張ってきたんだ、ちゃんと面倒も見てきたんだ…もう許して欲しい』


面倒を見た…よく言えたもんだ。


良く考えずに戦い…負けた挙句、仲間の心を折られた。


ただ、無謀に戦い…仲間を壊しただけ。


それも全部俺のせいだ。


『俺がセレスを追放しなかったら』マモンより強いセレスが俺達の傍に居た。


そうすれば、三人の心は折れなかった。


いや…怪我や惨めな思いもさせないで済んだ。


きっと今も…5人でいられた。


男勝りで生意気な剣聖 リダ


やたらと大人ぶっている聖女マリア


大人しく控えめな賢者メル


その心を壊したのは俺だ…


俺は…あそこに何をしにいったんだ…


俺はセレスを仲間にしてもう一度やり直す為にいった筈だ。


素直に謝り…それで無理なら…どうするのが正しかったんだ?


今なら正解が解る…『三人を連れ出て行く』それが正解だ。


壊してしまった原因が俺にあるなら…俺が三人を時間を掛けて立ちなおらせる義務があった筈だ。


それなのに…俺は


『好きだと言った幼馴染を捨て』更にセレスに沢山の借りを作り…逃げ出した。


俺は何をしているんだ…勇者の名前から逃げて、幼馴染から逃げた挙句…その責任を全部セレスに負わせた。


母さんが怒る筈だ。


故郷だってそうだ…同じように仕送りをしたり、支援する事は出来た…だが『出来た』なんて後悔を今更しても仕方が無い。


『やらなかった』それが正解だ。


なんだ…俺は。


これが母さんが言っていた


『手放した者の大きさをいつか知る時がくるわ、その時貴方はきっと後悔する』


なんだろうな…


沢山の物を失った。


何が『世話になったなセレス…じゃぁな」だ…


そんな彼奴に


『ゼクト…いつかまた酒でも飲もうぜ…』


だとよ…


勝てないな…こんな俺にまだ居場所をくれるのか。


次にセレスに会う時はきっと…少しは真面な男になっていよう。


そうしないと…あわす顔が無い。





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