第82話 ごちゃごちゃと
凄く大きな音や怒鳴り声が聞こえる。
「静子達に任せておけば大丈夫ですわ…事対人に関して言うなら、交渉から戦闘まで問題はありませんわ…それで宜しければ紅茶など入れて貰えませんか?」
マリアーヌは笑顔で紅茶をねだってきた。
俺は言われるまま紅茶を入れた。
「あ~美味しいですわ」
満面の笑みでマリアーヌは紅茶をすすっている。
こうしてみると、マリアーヌは本当に綺麗だ。
だが、王女様だ…今迄遠くから見たことはあるけど話した事などない。
「…」
「あ~美味しい、セレス様、私がどうにかしましたか?」
「いや…何でもない」
しかし、横から怒鳴り声と大きな音がこれ程聞こえてくるのに良くノンキにお茶を飲んでいられるな。
流石は王女というべきか。
どの位時間がたったのか…音や怒鳴り声が聞こえなくなった。
「そろそろ終わったみたいですわね…行きましょう」
そう言ってマリアーヌは俺の手を引っ張った。
◆◆◆
両方の頬っぺたを腫らしたゼクトが立っていた。
「ハァハァゼクト…貴方は本当にセクトールそっくりだわ…安易に女の子の事考えて…自分の事ばかり、もう良い、本当に我が息子ながら情けないわね、貴方はもう自由に暮らしなさい! その代わりもう縁を切らせて貰います、これで良いわよね?」
「ああっ…それで良い、そんな足手纏いはもう要らない…これでも此処迄は俺なりに頑張ってきたんだ、ちゃんと面倒も見てきたんだ…もう許して欲しい」
「あんた、まだそんな事を…」
「ちょっと待って…リダ、あんたはそれで良いの?」
「私はもう戦いたくないよ…ゼクトがどうこうじゃなくて…もう嫌なんだ」
「マリア、貴方も良いの?」
「メル、貴方もそうなのね…」
「「…」」
「はぁ~もう良いわ、静子、悪いのはゼクトくんだけじゃないわ、うちのマリアも悪いのよ、縁切りはやめてあげて」
「そこ迄する必要は無いわ…結局はうちのメルと縁が無かったそれだけよ…それじゃ、今までありがとうねゼクトさん」
「皆がそれで良いっていうなら解ったわ…ゼクト、絶縁は取り消すわ…皆が良いって言うならもうこれで良い…自由にしなさい! ただ貴方が手放した者の大きさをいつか知る時がくるわ、その時貴方はきっと後悔する…さぁ出て行きなさい!」
「母さん…」
「ゼクト…」
「世話になったなセレス…じゃぁな」
「あの自尊心の塊だったゼクトの背中が随分小さく見えた」
「ゼクト…いつかまた酒でも飲もうぜ…」
ゼクトは右手を挙げてヒラヒラして去って行った。
問題はこっちだ…
◆◆◆
「リダ…貴方は今迄、剣聖だったから、他の事は何も出来ないのよ…自覚はある? セレスの恋人になりたいと言ったわね? 今の貴方にはセレスはおろか、だれの恋人にもなれないわ」
「あの…母さん」
「うちのマリアも同じだわ、真面な家事一つ出来ないわね」
「ママ…」
「そうね、メル、普通の子は貴方の歳には家事一式出来るのよ? 貴方達は勇者パーティだから他の子が家事を覚える時期に何もしないで暮らしていたのよね…此処に居るなら、みっちり教え込むわ」
「お母さん…私は…その修行」
「あのね、よそ様の子に余りキツイ事を言いたくはないわ…だけど静子にミサキにサヨ…勿論、私も冒険者出身だけど全員家事は出来るわ…大方セレスに全部させて自分達は何もしなかったから、出来ないんでしょう? キツイ言い方だけど、貴方達は『花嫁修業』すら出来ていない状態なのよ…それでどうかな? 静子、ミサキ、サヨ…此処に置いてみっちり修行させるって言うのは?」
「私は自分の子じゃないから任せるわ」
「そうね…確かに聖女を辞めて冒険者すらしたくないなら、家事は教えないと、明日から、いえ今からビシバシ行くしかないわね?」
「メル、明日から5時起き…母さんがみっちり教えてあげるわ」
「「「お母さん(ママ)」」」
「あらっ、なんで青い顔しているのかな? リダ、今から娘とは認めてあげるわ…しっかりと花嫁修業をして貰って1人前と私が認めたら、もう一度セレスが好きなら告白でも何でもしなさい! あとカズマに泣きついても駄目よ…もう若い嫁貰って楽しく生活しているから居場所はないわ」
「そうね…マリア、今迄私も甘やかしすぎたから…しっかりと叩き込むわ…覚悟してね、パパも同じ再婚して生活しているから、貴方の居場所は此処しかないわ…取り敢えず、1人前の女性にしてあげるから…死ぬ気で頑張りなさい!」
「メル、特に貴方は覚えが悪いから明日から厳しく教えるから覚悟しなさいよ!」
確かに、三人とも家事と言うなら凄く下手だ。
他の女の子の半分も出来ない…特に掃除は壊滅的に下手だ。
勇者パーティとして戦う事を中心とした生活を送ってきたし…
更に俺が率先して家事をしていたから…苦手なのは当たり前だ。
ヤバい、三人と目が合った。
「「「セレス」」」
「母娘の間の事に口は出さないよ! 静子さん達と結婚した時に『娘』にする…そういう覚悟はしているから、面倒みるのは別に構わないよ…ただ、俺は甘やかしそうだから、口出しはしない…此処は王都だから、仕事には困らない…やりたい事があるなら応援するよ」
「セレス…そのやっぱり娘じゃなくて嫁の方が…」
「あの、セレス、私良い奥さんになるよ…本当に」
「沢山娶るんだから、幼馴染も嫁で良くないかな? お母さんと一緒に娶るなら…ほら仲良し全員が嫁で楽しいよ…ほら娘だと私やマリアやリダを送り出す時悲しいよね…それに私は元はセレスと結婚する…」
「それはゼクトを選ぶ前の話だよな、それにリダ、マリア、本当にゼクトは良いのか? 俺が去った時の流れじゃ魔王討伐後は結婚して4人で暮らすような雰囲気だったじゃないか?」
「「「それは…」」」
多分、三人は本当の意味で俺が好きな訳じゃない。
俺の傍なら、楽して暮らせるから…だから俺の嫁になりたい、それだけだ。
「まぁ良いよ、暫くは此処に居て良いから、好きな仕事を探すなりすれば良いよ、姉さんたちも色々教えたいそうだから、料理や掃除色々と勉強すれば良いさ…はっきり言って、今告白されても心が動かない…もしその気持ちが本当だと言うなら期間を置いてから言ってくれ、その時が来たら考えるよ」
結局、ゼクトも三人も恋愛をしていなかった。
そして勿論俺も同じだ…
多分だが三人は『恋愛』が何かも知らないのだろう…
今の三人は聞いた話ではかなり心は壊れている。
手足をもがれて晒し物にされれば心は折れる。
『心の傷が癒されるまで』
そこ迄面倒みれば…もう俺になんて関心は無くなる…
返事をする時などきっと来ない。
三人は何か言いたげな目でこちらを見ていたが…俺はその場を立ち去った。
◆◆◆
ドラゴンウィングで空を飛んでお城の塔に腰かけた。
空を飛べるのは案外気持ちが良い。
明日には帝王様と教皇様が此処に来る。
幼馴染か…
村で暮らしていた時が懐かしいな…あの頃は凄く楽しかった。
黄竜…この状況で本当に運が味方しているのか…
信じられないな
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