第76話 【閑話】治療




通信水晶で見た彼の雄姿『本当にたまりませんわ』


私は一度魔王に戦いを挑み、惨敗しました。


その時に一緒に戦った勇者と魔導士はあっさりと殺されてしまいました。


『私も死ぬんだ』そう思ったのですが…私の師匠の静子や『涙目の氷姫』サヨが魔王に何かしたおかげで剣聖のフレイと一緒に帰らせて貰えたのです…


あの時から、思ったのよ、戦う事に『卑怯は無い』ってね。


まぁ、その後はろくでもない縁談ばかりだから…男が嫌いになり修道女になったのよね。


教皇様がこの歳の私になんの因果か婚姻の話を持ってきたのよ。


しかも歳は私の半分にも満たない男の子。


美少年だし『可愛い』そう思った。


竜殺し…確かに凄いと思う。


もう齢だし、こんな子が望むなら、そう思っていたけど…


この子凄すぎ…静子師匠とあの三人を妻にしていたなんて…


もしかしたら只者じゃないのかな…そう思っていたましたが…


本当に、それだけじゃ無かった。


私が共に戦いたかった本物の『真の勇者』


何者も恐れない勇気…理不尽な程の力。


教会が、私が心から望む『本物』の勇者。


心が躍る…見ているだけで絶望が希望に変わる…素晴らしい存在。


多分私は今、本当に恋をしています。


本当に…心の底からお慕いできる存在に出会えたのです。


◆◆◆


「ヒーラー部隊、マモンが離れました、突入して人々を救うのだ」


英雄セレス様が翼を広げマモンを連れ去りました。


恐らくはその神々しい力で必ずや勝利する事でしょう。


多くのヒーラーは今、ロスマン名誉教皇の命令で街の人を救いにいっています。


私やロスマン名誉教皇は…


天幕の中にゴミ4つと一緒にいます。


「さて、この人達はどうしますか? ロスマン名誉教皇様」


「どうしますかね? 勇者や聖女ならエリクサールで元通りに治して差し上げるのですが…一般人ですし、普通にヒールでも掛けて放り出しますか」


「そんな、助けてくれ」


「助けてくれ、頼む頼むよ」


「手を足をお願い…お願いします」


「助けて」


「おや?義務を放棄した癖に何故?勇者の権利を欲しがるのですか? エリクサールは国宝、王とて滅多な事では使えない秘薬なのです…元勇者…今は一般人の方々!」


「そんな…」


「お願いだ、これじゃ普通の生活も送れない」


「お願いします…」


「助けて下さい…お願いです」


本当に惨めですね...勇者であれば無条件で助けて貰えるのに...


「私は静子やサヨには恩があります…そうですね、条件付きであれば助けてあげなくも無いですよ?」



「「「「お願いします…」」」」


「それじゃそうね…私とセレス様の恋の橋渡しをしなさい! 義理とはいえ将来の息子や娘の為なら…そうね…考えようかしらね」


「いや、それは無理だ…セレスは年増が好きなんじゃない…俺の母親が好きなのは…子供の時から自分の母親の様に慕っていたからこそ…痛い痛ぇぇぇぇぇー――やめろー-っ」


「年増ですって? どうやら貴方は手足が要らないの? 何だったら『間に合わなかった』と泣きながら死体でセレス様の前に置いても良いのよ?」


「解った、解ったからゼクトの手から足をどけてくれ」


「応援するから、貴方の恋が実る様に応援するから」


「解ったよ…お義母さん…お義母さん…これで良い」


「うん、解ってくれるのね、お義母さん、良い響きですね、嬉しいわ…それじゃロスマン名誉教皇様、宜しくお願い致します」


「仕方がない…ほらエルクサール1つです、貴方ならこれで充分ですね」


「はい、それじゃ行きますよ」


私は少量のエリクサールを4人の手足にかけました。


そして…


「パーフェクトヒール」


私はパーフェクトヒールは完璧には使えません。


その足りない分をエリクサールで補い治します。


見た感じ…どうにか上手くいったようです。


「約束は守って下さいね」


そう伝え、ロスマン名誉教皇と私は天幕から外に出ました。


◆◆◆


「それでこの人達が背信者なのですか?」


「はっロスマン様」


「あの…なんで私達だけ治療も受けられず此方に来させられたのでしょうか?」


「お母さんの所に戻してよ…足が痛いの治してよー――」


「なんで僕だけ此処なの」


「何故、儂らは治療が受けられんのじゃ」


「そんな事も解らないのですか? 貴方達はセレス様を化け物扱いしたからですよ…ちゃんと1人1人にセレス様をどう思うか確認した筈ですよ」



「そんな、手を一瞬で生やしたり、魔族を食ったり、あんなの化け物じゃ…ないか」


「人じゃ無いのは明らかです…」


「そうですか? 貴重なご意見をありがとうございます…聖騎士この二人を斬りなさい!」


「はっ」


ロスマン様の命令で背信者二人は一瞬で斬られました。


まぁ当たり前ですね。


「良く考えて下さい…貴方達の命を守るために死にもの狂いで戦ってくれたセレス様が化け物? そんな事をいう存在こそ『魔族側の人間』なのです…貴方達が今生きているのは誰のおかげですか? セレス様が戦ってくれたからでしょうが…セレス様が来なければ、皆さんは死んでいた筈です…助けてくれたセレス様を化け物と言うなら…『皆さんには来なかった世界』にしましょう…すなわちそれは死の世界です…さぁ皆さん、それを踏まえて、セレス様はどんな方なのでしょうか?」


流石はロスマン様、良い事を言いますね。


「セレス様は救世主です、今後女神様の前で、毎日感謝の言葉を捧げて祈ります」


「改心されたのですね…誰かこの方をテントに戻して治療を受けさせて下さい…その気持ちを忘れぬように…さぁ他の方も改心したならどうぞ、こちらへ」


これで良いのです…ちゃんとセレス様を『英雄』として敬うのであれば態々犠牲を出す必要はありません。


殆どの方が改心して下さって良かった…


セレス様の為とはいえ人を殺すのは辛いのです。


私はホッとした思いで杖をしまいました。







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