第74話 英雄絶対主義



私は驚きを隠せない。


今、通信水晶でセレス殿の戦いを見ていた。


全然歯が立たず、負けが濃厚になり、世界が終わった。


そう思っていたら…突然、セレス殿が逆転し始めていた。


だが、問題は…


「ば化け物だ…一瞬で手を生やすなんて…」


「ミスリルより強固なマモンを食べるなんて…人じゃ無い」


中央教会の中で皆で映像を見ていたのが仇となった。


セレス殿が人間でないと言い出したのだ。


確かに人間が一瞬で手を生えたりするようなことは無い。


私から見ても悍ましい化け物に見える。


「確かにこれは人間じゃない化け物だ、セレス殿いやセレスは英雄じゃない化け物だ」


私はどうして良いか解らなかった。


だが、この様な化け物を『英雄』と扱って良い物なのか…


「この戦いが終わったら…」


「いま、何を言おうとしたのかね?ロマリス教皇!」


「貴方はロスマン名誉教皇」


「何をって、セレスが化け物に…」


「今の言葉は聞かなかった事にする…聖騎士、いまセレス様を化け物と言った大司教とシスターを斬り捨てよ! 今後は『殿』ではない『様』と言うように…」


「馬鹿な…それ位で、それ位で…」


「聖騎士、早く斬り捨てよ」


「はっ」


私の目の前で大司教にシスター4人の首が飛んだ。


「名誉教皇、此処迄、なぜ此処迄するのですか? あの化け」


「そこから先を言うのなら、貴方も許しません」


狂っている…


「何故です、何故…」


「ロマリス教皇…なぜ『勇者保護法』が出来たと思う? 勇者とはなんだ」


「勇者は『女神の使い』ゆえに敬う存在…の筈です」


「違う…それは表向きだ…『勇者とは魔王すら倒しえる人類最強の兵器なのだ』暫く、本当の勇者が生まれなかったから忘れたのですね『勇者保護法』はセレス様みたいな『本物』にこそふさわしい法律なのだ…良いか『最強の兵器は心を持っている』もし勇者の心が落ち込み負けたら人類に大きな損害が出る…だからこそ『心を守る為に』作られた法律なのだ」


「ですが…」


「ですがではない! マモンが相手では国単位ですら勝てない…我々は虫けら…蟻の様な存在なのだよ! その蟻のような存在を大きな獅子の様な存在が助けてくれるのだ…蟻は全てを捧げる必要がある…権力、お金、女…全て捧げる必要がある…セレス様は『英雄』だから『勇者保護法』から『英雄保護法』にかえるのです…この世界で一番偉いのはセレス様なのだ、ロマリス教皇貴方はもう一番じゃないセレス様なのだ!」


知っていた…自分でも言っていた。


『本気で怒ったら城に正面から乗り込んで王を斬り捨てて笑いながら帰る。それが出来る存在、それを忘れてはいけません』


そうか…そういう存在に守って貰う為の法律…それが『勇者保護法』


今のセレスは、国で対処しても敵わない。


もとから誰も縛れない。


縛れない存在に自分達を守らせる術…それが勇者保護法だったのですね。


確かに『魔王すら倒せる化け物』が味方になり…騎士数万以上の犠牲を防げるなら…女でも金でも権力でも差し出しても…御の字だ。


「この世で最も神聖な存在、至高の御方はセレス様だ! 目を背けるでない、その雄姿を見、祈りを捧げよ!」


「ロマリス教皇…それで良いのだ」


『魔王すら倒し得る兵器』の本物が現れたのだ…敬うしかない。


◆◆◆



「教皇様、あの方がセレス様なのですね…ああっ素晴らしいわ、あの方こそが私が生涯仕えるに相応しい方です…ああっ」


あの悍ましい姿を見て、何故顔を赤く出来るのですか。


「セシリア、あの方こそが貴方の伴侶にふさわしい方です」


「ロスマン名誉教皇様…この戦いが終わりましたら、縁を是非繋いでくださいませ」


「勿論です、街を救う為にヒーラー部隊を派遣する予定ですから、一緒に参りましょう…」


「回復なら…私の見せ場です、ええっ行かせて貰います」


彼らの欲しかった『真の英雄』


勇者絶対主義が英雄絶対主義として此処に復活の狼煙があがった。






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