第62話 勇者ゼクトの決意



あの無様な戦いの後、私達とゼクトの間に大きな溝が出来た。


『責められる』


そう思ったが…意外な事にゼクトは私達を一切責めなかった。


マリアもメルも殴られる…その位の覚悟はしていたのに…


ゼクトは何も言わない。


最初は怒って『喋ってくれない』そう思っていたのに…違うようだ。


その証拠に話かけると返事は帰ってくる。


「マリア…どうすれば良いんだ」


「どうする事も出来ないよ、あんな失態したんだから」


「それより、皆は大丈夫なの? 確かに竜は怖かったけど…これから先もっと険しくなるよ」


「「うっ…」」


「そうだな、あれ程の失態だ…きっとゼクトもかなり責められただろうな」


「どんなペナルティが課されるのかしら?」


「それもそうだけど…この先どうするの?」


「「…」」


私達にはもうどうして良いか解らなかった。


こんな時にセレスが居たら…そう思うのは私だけじゃない筈だ。


◆◆◆


俺はセレスに守られていたんだ…


そう考えると本当に情けない…


彼奴は俺に本を読めと良く言っていた….


『勇者の俺には関係ない』と言って何もしなかったが…もし、知識があれば違った結果があったかも知れない。


彼奴は良く俺達に『今のお前じゃ無理だ』と言っていたが…その通りだった。


俺は勇者だから…ジョブのせいで元から強い。


彼奴は俺についてくる為に暇があれば訓練をし装備迄気を使っていた。


もし、俺が同じ事をしていたら…何かが違ったかも知れない。


あの場に彼奴が居ても…戦局は大きく変わらない。


だが、3人を守り元気づける…そこ迄はやった筈だ。


そうすれば、あんな無様な負けは無かった。


恐らくは竜の出鼻を挫いたかも知れないし…


勝つためでなく、彼奴なら逸らす戦いをした筈だ。


本当の所は解らない…だが、彼奴ならもしかしたら…そう思えてならない。



あははははははっ…居なくなってまで『守られてやがんの』


彼奴がしっかり教皇達と話し合い俺達に責めが来ない様にしてくれていた。


教皇様を含め…教会の重鎮相手に…あの失敗の時に、喧嘩腰で交渉していたんだな…


出来るかよ…そんな事。


教皇だぞ…世界で一番偉いんだぞ…


それに喧嘩売るような交渉なんて王だって出来ない。


それを彼奴はやった…


何で出来るんだ。


解らない…だが理由は解っている。


『俺達の為だ』


彼奴は俺達の為に…頑張ってくれていた。


それだけだ…


◆◆◆


考えが纏まった。


だから、三人を呼び寄せた。


リダ、マリア、メルは緊張した顔をしている。


当たり前だ、あれ程の失態をしたのだ、きっと俺が怒ると思っているのだろう…


「そんなにしょげる事は無い…あの件は俺も悪い…今回はそれに関する事だが…責める話ではない…セレスがな」


俺は今回、教皇様から聞いたセレスの話をした。


「こんな事があったんだ…」


「セレスが…そんな事を」


「本当にセレスは…」


「セレスが…」


「ああっ、彼奴がしっかり話をしてくれていた為に何も責任は追及されなかった…それでな、俺なりに考えたんだ…しっかり話しをしたい」


「「「解ったわ」」」


「これは俺の考えだがもしセレスが戻ってくれるようであれば、パーティのリーダーは辞める、俺は只のパーティメンバーになり、セレスにこのパーティのリーダーは譲るつもりだ…今更ながら俺にはその器で無い事に気がついたよ…」


「そうか…ゼクトがそう言うなら仕方が無い」


「そうね…」


「そう」


まぁ三人も薄々そう思っていたのだろう…目を伏せてはいるが反対は無いようだ。


「それでな…まだ、俺はパーティリーダーだ、俺がパーティリーダーであるうちに一つだけ命令を下す事にした…マリア、リダ、メル3人をこのパーティから近く追放する!この間の竜との戦いで思ったんだよ…お前達は女の子だったんだってな、小さい頃は泣き虫で俺やセレスが何時も助けてやっていたよな…この間、泣いていた三人の顔はその時と同じだった…もう戦うのを辞めた方が良い…村に帰っても良いし、セレスの元に行くのも良い」


「ゼクト、お前の気持ちは嬉しい、責めて無いのも解った…だが三職(聖女、賢者、剣聖)の追放なんて出来る訳ない…」


「聖女の追放なんて出来ないわ」


「賢者も同じだよ」


『セレスが本を読め』そういった意味が良く解った。


「まぁ、話を聞いてくれ! まず剣聖のリダだが、問題なく割と簡単に追放が出来るかも知れない…時代により勇者、聖女、賢者の3人しか存在しなかった時もあるし、追放されて自由気ままに生きた剣聖も存在した、次に賢者のメル、これは少し難しいが、賢者は『聖属性』じゃなく魔法を極める存在…案外ごねればどうにかなるかも知れない…問題は聖女のマリアだ…これはどうにもならない」


「私とメルだけなんて出来ないよ」


「私の事は気にしないで」


「駄目だよ、マリアだけ残すなんて…それにゼクトはどうするの?」


この三人はなんだかんだと仲が良い…マリアだけ残すとは思えない。


「皆の気持ちは解った、セレスは教皇様達の話のなかで『やりたくも無い命がけの仕事を押し付けて…失敗したら責任を取れ…なら、勇者辞めさせるよ!』そう言ったそうだ、あのセレスが根拠もなくこんな事を言ったとは思えない…何か辞められる方法があるかも知れない…マリアも一緒に三人を抜けさせる方法がきっとある筈だ、それを俺は探す…すぐに無理だが必ず三人はパーティから抜けれられる方法を探すから…安心してくれ」


セレス…お前ならきっと泣いている此奴らに戦いなんてさせないよな…


俺もそうする…今は出来なくても必ず辞めさせてみせるよ…


「待ってゼクトはどうするの?」


「1人じゃ何も出来ないわ」


「そうだよ」


あはははっ締まらないな。


「俺は…どうしたら良いか…セレスに聞いてみる」


それで無理なら俺が1人で戦って死ねば良い4-1は3。


その方がまだ良い…









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