第60話 セレスVS黒龍 ② 敗北と死


「さぁ、何時でも好きな時に掛かって来い」


黒竜が人に戻り俺に言ってきた。


糞…周りには木々すらない。


このクレーターの中には岩場があるだけだ。


「空歩――っ」


人は空を飛べない…だがこのスキルは少しの間、空を歩くことが出来る。


俺はその技を使い…岩場に駆け込み岩陰に隠れた。


小さい頃、川で蟹取りをした事を思い出した。


捕まえてゴメン…凄く怖かったのだろう…小さいハサミで立ち向かってきた蟹…それが今の俺だ。


「何処に隠れたのかな?」


嘘だろう…炎を吐きながら迫ってくる。


しかも…その炎で岩が溶けている。


良く解らないが、岩が溶ける温度は確か2000度近かった筈だ。


あんな物食らったら、岩ごと体が溶けてしまう。


あんなの勇者でも敵わない。


多分、竜化した姿なら宇宙から来た特撮ヒーローでも殺される。


熱い…岩が溶けて気温が上がってきているせいか距離があるのに熱い。


「おい、いつまで隠れているつもりだ! いい加減にしないと全ての岩を溶かすぞ」


嘘だろう…羽をはやして空に舞いあがりやがった。


そんな事されたら、見つかるし、あそこから炎を吐かれたら確実に死ぬ。


「待て…竜化はしない約束だ…人は空を飛べないし、その羽は竜のものだ!」


約束を守らない奴なら…この瞬間死ぬ…だが此奴はプライドがあり、約束を守るタイプだと…思いたい。



「確かに…この羽は竜の物だ…悪かった降りるとしよう」


羽をしまって降りてきた。


だが、この場所はもう見つかった。


少しでも早く逃げないと…


思いっきり走った、心臓が張り裂ける位…全速力中の全速力で...


俺のこの世界での速さは恐らく前世のオリンピック選手を遥かに上回る…恐らく100メートルを7秒台で走っているような気がする。


これはうぬぼれでなく、勇者のゼクトより速い。


「ハァハァゼィゼィー――、少しは」


「残念ながら…遅いな…その程度じゃ逃げられないぞ」


俺は対魔王軍ように4つの対応策を既に考えていた。


だが、その内の3つは考えただけで黒竜には使えない。


使えると思われる1つも時間稼ぎしか出来ない。


こんな序盤で使う事になるとはな…


「必殺…」


「ほう…少しは攻撃をする気になったか…良いぞ受けてやる!」


「対魔族対抗技…キャロライナアタックー――っ」


俺は用意しておいた、この世界で一番辛い唐辛子やワサビを粉にした物を黒竜の顔面に投げつけた。


まぁ名前の由来は前の世界で一番辛い唐辛子からだ。


どうだ…


「なんだこれは…うがぁぁぁぁぁぁ辛れー――痛い、目が目がぁぁぁぁー――げへごほっ」


唐辛子は前の世界では痴漢撃退用のスプレーに入っていた。


そして驚く事なかれ大昔には猛獣の撃退にも使われた実績があり、ライオンにすら効く…それの応用だ…


毒を使えば…そう思うだろう?


毒は意味が無い…この世界には魔法があり、例えばマリアなら呪文1つで無効に出来る…当然魔物や魔族にも簡単に無効にする方法がある。


だが…味覚は無効に出来ない…これは偶然気がついた事だ。


恐らくただ辛いだけでは『状態異常』と魔法が考えず…効かないのかも知れない。


正に…この世界の魔法の弱点をついた技…なのかも知れない。


まぁ…相手は竜だ…真水で流すか、暫くすれば治るだろう…


今は少しでも早く…逃げる事だ。


苦しんで悶絶して蹲っている…黒竜をそのままに森に向かって全速力で走った。


他には…もう何もない。


対魔族ように考えた方法は…まだあるが絶対に黒竜には通じない。


黒竜はまだ動かない。


「空歩空歩空歩空歩空歩空歩空歩空歩空歩――――っ」


連続して使い、あと少しで森という所までたどり着いた。


「ハァハァ糞糞糞―――っ貴様よくもやってくれたなー-っ死ねっ」


黒竜の爪が俺を上下に引き裂いた…上半身と下半身が離れていき…体から内臓が飛び出していた。


終わりだ…もう…だが…


「卑怯者―――っ、その爪は竜の爪じゃないかー――っ、そして此処はもう森だー-っぐふっぐあああああー-っ」


目の前が暗くなる…下半身は千切れて俺の横にあった…


多分俺は…死ぬ



◆◆◆


不味い…此処はもう森だ…そして俺は爪で此奴を殺した…


五大竜公の俺が…苦しさから勝者を殺してしまった。


凄く不名誉だ…


だが、死んでしまった物は仕方が無い…


竜公に勝った…その栄誉を与えよう…


『勝者であるセレス…お前にその証である、俺の肝と血を与える』


俺は肝を自分の体から抜き出すとセレスの口に無理やり突っ込み押し込んだ…そして体には俺の片手を斬り落とし血をまんべんなく振りかけた。


これに何の意味があるのか知らない。


だが、大昔から、本物の竜に勝った人間が『血』と『肝』を欲しがった。


これは勝者であるセレスが当然受け取る物だ…


俺は『約束を破った分』の償いをしなくてはいけない。


本来、生きられる此奴の命を奪ってしまった。


流石の俺でも、完全に死んでしまったら蘇らせられない。


死後の世界は『冥界竜バウワー様』の世界だ。


償いとして黒竜の…俺の加護をやろう。


俺の関係者だと解れば…バウワー様の統べる世界だ、少しは融通してくれるだろう…


恨むなよ…セレス。


俺はセレスを土に埋め埋葬した。





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