第50話 故郷



「セクトール、お前何をしているのじゃ…」


「ナジム村長、俺は目を覚ましたんだ…息子も俺もセレスに凄く迷惑を掛けた…それなのに彼奴は税金を肩代わりして俺に若い嫁迄くれたんだ」


「確かにそうじゃな、それとこれ…どう繋がるのじゃ」


こんな大きな石を削って何をしているのじゃ…


「俺はよう…こんな奴だが、この村の村人だ…村で偉いのは勇者でもなんでもない…村に貢献した人間が偉い、違うかな?」


「その通りじゃ…」


「なら、村長や相談役や俺に迄嫁を世話してくれて…村に仕送りをし、来るたびに寄付をするセレス…彼奴が一番偉い…だから此処にセレスの石像を作ろうと思ってな…」


「成程のぉ…お前がノミを持つのは墓石以外じゃ久しぶりじゃな」


「まぁ畑仕事以外じゃ、これしか出来んからよ」


「セレスの像を作るなら反対はせね…だがちゃんと村長の儂には許可をとるのじゃ」


「ああっ、済まない」


「良いんじゃ…少しでも償おうとする、その気持ちは儂は嫌いじゃない」


しかし、変われば変わるものじゃ…畑仕事以外、暇さえあれば、この岩を削っておる…大きなセレスの像…完成するまでどの位掛かるか知れんが…随分恩に感じたようじゃな…


完全なクズでは無かった…そういう事じゃな。


◆◆◆


「シュート、お前はまた閉じこもって書き物ばかりしているそうじゃないか?」


「村長…僕なりにセレスくんがこの村にしてくれた事を調べて書く事にしたんです…ほら…凄いですよ…あの道も、あの橋も全部セレスくんの寄付から出来たんですよ…」


「そうか…そんなの調べてどうするつもりじゃ」


「これは村長に相談するつもりだったんだけど、ゼクト達は魔王を倒して歴史に残るのに、セレスくんには何も残らない、だから村の歴史の中にセレスくんの偉業を残しても良いかなと思ったんだ…あと許して貰えるなら、あの一番大きな橋を『セレス橋』、あの大通りを『セレス通り』と名前を付けてあげたくて…どうだろう村長」


「ああっ、セレスには世話になった、ゼクトなんかよりずうっとな…相談役と相談しなくちゃならんが、誰も文句なんか言わんじゃろう」


「ありがとうございます」


なんだかんだ言っても、セレスは村の皆に好かれているのう。


◆◆◆


「カズマはやはり出て行くのか?」


「村長世話になったな…それでこの食堂だが…もう戻れないから…セレスの物って事にして置いてくれないか?」


「そのまま自分の物にして置けば良いじゃないか…」


「いや、俺は恐らく王都に行ったら帰ってくるつもりはない、だが彼奴はこの村が好きだから、今は他で暮らしてもいつかは戻って来るかも知れない…此処があれば住むところに困らない」


「そうだな、じゃがお前だって失敗するかもしれん…この食堂は儂が預かり、お前とセレスの物にして置こう、どちらかが戻ってきた時に渡してやる…それでどうじゃ?」


「それでお願いします」


カズマは村を出て行くのか…村民が少なくなるのは悲しいものじゃな。


◆◆◆


「カイトはそれか…」


「儂の嫁は元傭兵じゃ…そこからの伝手で、此処に冒険者ギルドを誘致しようと思ってな、村長のあんたに相談しようと思っていたんだ」


「今迄、無くても問題は無かったじゃろう?」


「そうだな、だがセレスは、農業より冒険者の仕事が好きじゃろう…だから此処にギルドがあれば、将来帰ってきた時に助かるんじゃないかな」


「確かにそうじゃな」


「ああっ、嫌な言い方になるが、儂もセレスに嫁いだ嫁も良い歳だ、恐らくはセレスが儂の歳になる頃には儂も嫁いだ嫁も居ない…きっと彼奴は最後にはこの村に戻ってくる…儂はその時迄にこの村を彼奴の住みやすい村にしたいんだ」


「確かにセレスは村が好きじゃからな、未だに律儀に村にお金や珍しい物を送ってくる…あの子は最後には此処に戻ってくるだろう…他の子とは違う、お前達には悪いが、四職だなんだ言っても村に何もしない子とセレスじゃ…セレスの方が村じゃ大切な子じゃ」


「それは解る…儂の娘は便りも送らんのに、セレスからは手紙は勿論、未だに珍しい物や美味しい物が送られてくる、どちらが村に大切な子か解る…娘は帰って来なくても、セレスはいつかこの村に戻る…その時彼奴が過ごしやすい様にしたい」


「解ったわい、冒険者ギルドの件は儂も手伝う…少しは儂もセレスの為になにかしてやらんとな…爺として」


セレス…この村はお前の故郷じゃ…疲れたらいつか戻ってくるとええ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る