第49話 英雄




今日は静子達と一緒に狩りに行く予定だったんだが…


俺達のアパートメントの前にユニコーンの馬車が止まっていた。


嫌な予感しかしない…ユニコーンの馬車はザマール王家専門の馬車。


幾ら高級アパートメントとは言え、それは市民の中の話…貴族は貴族エリアに住んでいるから…王族関係が用事のある相手は俺の可能性が高い。


もっと早くから出て行けば良かった。


「今日の狩りは中止かも」


「えっ、セレス、それは一体どういう事? 今日は狩りに行く約束だよね…場合によっては…」


「姉さん、違う…アレっ」


俺は窓の傍から馬車を指さした。


「王家の馬車…」


「セレスくん…あれって」


「間違いであって欲しいけど、このアパートメントで、王家が用のある相手は俺位しか居ないと思う」


憂鬱だ…どんな用事なんだ。


たしかに勇者パーティだから偉い人に偶に会うが…俺は只の村民だ。


出来る事なら王族に等会いたくも無い。


『勇者パーティに籍が残っているからお前も魔王討伐しろ』


『せめて四天王の1人位セレス殿が倒してくれ』


最悪、その位の事を言われかねない。


口先一つで人の人生を左右し、死地に送り込む。


それが、貴族や王族だ。


トントントン…


やはり来た。


「はい、どうぞ」


俺はドアを開けた。


「セレス殿、国王ザンマルク4世の使いで参りました、同行をお願い致します」


悪い予感は俺の場合はかなり当たる。


「皆、悪い狩は明日に延期だ…ちょっと行ってくる!」


「「「「セレス(くん)(さん)(ちゃん)」」」」


余り酷い話じゃ無いと良いな。


◆◆◆


「よくぞ参られた、セレス殿」


嫌な予感は当たったようだ。


宰相のドーベルに腹心のオータまで居る…そしてその傍には王女まで居る。


この状況で…無理難題じゃない確率は低い。


「はっ、ザンマルク王にはご機嫌うるわ…」


「良いよい、今回はセレス殿の活躍を称える為に呼んだのじゃ、無礼講で良いぞ」


機嫌は良い。


これなら…そう無理難題を押し付けられる事も無いだろう。


「ありがとうございます」


「それでな、セレス殿、本来ならドラゴンスレイヤーの称号は勲章と一緒に渡すのじゃ、王都に来たので、勲章を渡そうと思ってな…」


「有難き幸せ」


王が態々玉座から降りてきて俺の胸に勲章をつけてくれた。


普通はドーベル宰相がつける筈だが…自ら付けにくる。


これは…何かあるのか…


「しかし、凄い戦歴であるな…竜種を百以上、しかも上位種まで含むとは獅子奮迅の活躍じゃ、貴族の間でも『王国の守護者』とセレス殿を呼ぶ者も多い」


「それは…そう偶々でございます」


「セレス殿、謙遜することは無い、王の言う通りだ、その活躍は宰相の私の耳にも入っております…人によっては『真の勇者』そう呼ぶ者も多くおりますぞ、なぁオータ殿」


「私も聞いた時には驚きでした」


「それでな余は考えたのじゃ…此処迄活躍をしている者にジョブが魔法戦士だからって何も『称号』が無いのも如何なものかと」


嫌な予感がする…


「そこで、この国にはその昔ジョブとは別に称号を与えた者が少なからず存在した…その称号の名は『英雄』生まれながらのジョブに関係なく、国や民に尽くし活躍した者に与えらえた称号じゃ…今のセレス殿の活躍…ドラゴンスレイヤーでも足りぬ、故にこの古の称号『英雄』を与えるものとする」


「そんな大それた称号頂く訳には参りません」


「セレス殿、王は何時も、其方の不遇を憂いでいたのだ…あれ程の活躍や勇者と共に戦い、活躍をしながら支援金も貰えず…正当な評価をされないセレス殿を…貴方は四職以上の活躍をした、ならばと四職と同等とされる『英雄』の称号を与えようとしたのです…お受け取り下さいませ」


「ドーベル宰相様…その称号を持つと何かあるのでしょうか?」


「それは余が話そう…その称号はジョブでは無いが4職と同等…つまり『勇者にも逆らえる』そしてザマール国においては有事の際に余や余の家臣、貴族に直接協力を頼める…簡単に言えば、手続きを一切踏まずに余や貴族に会いに来て、協力を頼めるという事じゃ」


王や貴族に何時でも会えて、協力を頼める…破格だ。


まるで、そう勇者の権限すら越えている様に思える。


「その様な称号…」


「良い、余は其方に期待しておる、働き次第では王女との婚姻、貴族位の授与も考えておる…これからも励むが良い」


可笑しい…マリン王女は魔王討伐後にはゼクトとの結婚が決まっている…他に姫は居ない筈だ。


「その様な…」


「セレス殿、これは王ばかりでなく私も含むこの国の貴族全員の同意を持って決めた事です」


これを蹴ったら…もうこの国には居られない。


「有難き幸せにございます、謹んでお受けいたしますが、マリン王女は勇者ゼクトの妻になる予定…問題になるのでありませんか?」


「其方が活躍した際にとらす姫はマリンではなくマリアーヌじゃ、セレス殿の女性の好みは把握しておる…これからのセレス殿の活躍期待しておるぞ…『英雄』よ」


「セレス殿…これで貴方は4職と同等、頑張り次第では勇者以上の厚遇を手にするチャンスが手に入ったのだ…このドーベルも期待しております…困った事があったら何時でも私を訪ねて下さい」


そうだ、活躍しなければ良い…


そうすれば『英雄』の称号だけで終わる…


それが良い…


呆然とする俺を尻目に…話は終わってしまった。







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