第40話 傭兵少女とカイト



シュートには長老達と同じように買い物に出かけて貰った。


「これで4人目だ、本当に助かった」


「いや、サービスして貰っているし、テント迄貸して貰って本当に助かったよ」


「沢山買って貰っているんだ、服位サービスさせて貰うぜ」


しかし、奴隷商に凄く信頼されているんだな。


ほぼ今回の仕切りは全部オークマンがやっている。


『奴隷ハーレム冒険者』の肩書は伊達じゃない。



昔の勇者パーティに一時入っていたから複数婚の資格もある…そして追い出された。


まるで俺みたいだな…


俺は静子たちに走り、オークマンは奴隷に走った。


少し違いはあるが、親近感がわく気もする。


「それじゃ、次を連れてくるよ」


「ああっ、任せておけ」


◆◆◆


「シュートの奴の相手は決まったのか?どんな奴じゃ」



「まぁカイトさんの好みじゃない、それだけは言えますね、シュートさんに似た感じ…」


「青瓢箪に似ているなら、儂の好みじゃないからええ」


「解っていますよ、カイトさんの好み、大柄で働き者でボンキュウッボンですもんね」


「流石はセレスじゃ、良く解っておる…頼んだぞ」


「頼まれました」



◆◆◆


「なぁ、セレス…本当に良いのか? これは酷すぎると流石に思うぞ! 傭兵なんて…冒険者なら兎も角、村人の相手には普通は選ばんだろう? しかも此奴は…」


「『人を殺している』…だろう? それは任務だから仕方ない、冒険者だって盗賊の討伐を受ければ殺す」


「ああっ、だが…一般人がそれを受け入れるか?」


俺がカイトの相手に望むことは『カイトと殴り合い』が出来る女性だ。


カイトは良く暴言を吐くが、それで止まるのはサヨが従順なタイプだからだ。


もし、普通の女性だったら手が出る筈だ。


つまり、カイトの嫁になる人間に望むのは『働き者でボンキュウッボン』そして『殴り合いが出来る』そんな人間が必要だと思う。


俺は、それをしなかったが、冒険者や騎士なら殴り合いの延長線上に恋や友情が芽生える事がある。


カイトに必要なのは、そんな付き合いが出来る女性だ。


◆◆◆

時は少し遡る。


「あんたが、あたいを買おうって言うのかい?」


彼女もまた買う人間が限られる。


傭兵で暴れ者だと、トラブルの原因になりかねない。


もし、奴隷紋で縛っても発動より先に殺されてしまっては意味が無い。


熟練の傭兵や冒険者が武器を持っていたら…間に合わない場合もある。


だからこそ、こういう奴隷を持つなら『自分もある程度の実力者』じゃないと危ない。


恐らくは彼女位の女性を奴隷として選ぶ冒険者はD級以上だろうし、貴族や騎士は「傭兵風情」と馬鹿にして買わない。


実に、買い手に困る存在だ。


まぁ、オークマンの受け売りだがな。


「まぁな、だが、君と一緒に生活するのは俺じゃない」


「なんだぁ~お前じゃ無いのか? あんた、結構あたいの好みなんだけどなぁ…まぁ良いや? それで何であたいなんだ?」


「ああっ、結構粗暴な人でな口が無茶苦茶悪いし、もしかしたら暴力を振るうかも知れない」


「なんだ、そいつ最低な奴じゃないか?」


「ああっ、だが、心根まで悪いとは思えないんだ…俺は孤児だったんだが、自分の子みたいに接してくれた…優しい面もある」


「成程ね、それであたいは買われた後はどうなる? 傭兵しかしてないんだぞ! 戦う事しかあたいは知らねー」


「それについて聞きたかったんだ、俺があんたの相手に選んだ人間は腕っぷしは強いが、農民だ…農業やってみる気はないか?」


大雑把で投げやりに思えるが、此奴は妙に人を引き込む魅力がある。


気がつくと俺は、最初は『君』と呼んでいたのに『あんた』に変わっていた。


嫌な言い方だが、冒険者でも無く傭兵になるって事は、元が貧しくてそれしか生きる道がなかった筈だ。


だれも好き好んで『死』が付き纏う傭兵なんかならないだろう。


「あんたさぁ、あたいに『戦い』以外の生き方を望むのかい? そんな奴は居なかったよ…あたいに他の奴が望むのは『戦い』と『体』だけさ」


「あの…あんた幾つなんだ」


「14歳だ…それがどうかしたか?」


14歳…その年齢で…こんな話になるんだ、かなりの過酷な人生だったんだろうな?


「ああっ、悪いな…それで、何で、あんたは奴隷に売られたんだ」


「ああっ、あたいは馬鹿だから仲間に騙されて売り飛ばされた…散々、戦わされて、夜も相手してやって、最後は、ぽいだ」


「そうか…なぁ、あんたに紹介する相手なんだが、30位のおっさんだ…恐らく、口も悪いし、手も出す、そういう人間だ、だが一つだけ言えるのは『殺し合い』の世界じゃない、平和な世界で暮らせる…それだけは約束出来る…どうだ?」


「あのさぁ、あたいは傭兵だったから手を出して来たら、ぶん殴るよ? 流石に命までは取らないけど…」


「それで良いんじゃないか? 本当に優しくて根は良い人なんだ、ただ…」


「不器用な人…そう言いたいのか?」


「そう、それだ」


「まぁいいさぁ、あたいは不器用な奴や頑固な奴は嫌いじゃない…此処に居るよりましだし、また買われて戦いの日々も嫌だ…少しは真面な人生が送れるならそれで良い…傭兵やり続けていつか死ぬ人生よりはましだ」


「ああっ助かるよ」


「それで、あたいは、その暴言や暴力癖をなおせば良いんだな?」


「ああっ、そうしてくれ…あと過去は極力仲良くなるまで」


「ああっ内緒にしとくんだな、解った…まぁ、あたいが傭兵流のやり方で、叩きなおしてやるよ」


「ああっ、お手柔らかにな…あと、村人として新しい事を沢山勉強すると良いぞ」


「なんだか、経験者みたいだな」


「ああっ、俺は元孤児だ、もしあの村に生まれなければ、あんたと似たような生活を送っていた…あの村は弱い人間に優しい、きっと新しい事が沢山みつかると思うぞ」


「そうか?」


「直せなかったり、つまらない、そう思ったら逃げ出してくれて構わない」


「あんた、滅茶苦茶だな…良いのかよ…それで」


「ああっ奴隷紋で縛ってないから、逃げたくなったら逃げて良い」


「あたいはこれでも約束は守る…いいぜ、その男が暴言を吐かない、暴力も使わない…そうしてやるよ」


「ああっ頼む」


「あんた、セレスだろう? 確か勇者パーティの?」


「元な…」


「それじゃ、戦士と戦士の約束だ」


「ああっ頼んだよ」


「初めて会ったが、あんたはあたいの憧れだった…まぁ仲間への誘いじゃないのは残念だけどな…絶対に約束は守るから」


傭兵は皆が思っている程、粗暴じゃない。


荒くれの様に見えて、自分なりの矜持がある。


カイトにはお似合いだと思う。



◆◆◆


「連れてきたぞ」


「はじめまして、あたいの名はエレノールだ」


ビシッと背筋を伸ばした綺麗な挨拶だな。


「セレス…凄くめんこいじゃないか? スタイルも良いし、働き者そうで…気に入ったぞ」


「気にいって貰えたかな」


「ああっ気にいったとも、まさか自分の息子みたいに思っているお前に嫁を紹介されるとは思って無かったぞ」


「カイトさん、それより挨拶」


「ああっ、儂の名前はカイトじゃ、宜しくな」


「こちらこそ、宜しく」


もし揉める事があったら、思う存分殴り合ってくれ。


多分、カイトには気の弱い嫁は向いてなかったんだ。


気が強くて殴り合いのできる…そういう人間じゃ無いと駄目だったのかも知れない。


多分、上手くいく…そんな気が俺はする…



サヨや静子には暴力が通じない位の相手を選んだ。


そう言えば…多分大丈夫だ。









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