第34話 もう戻れない




「それじゃ、皆はそれで良いんだな」


「ああっ、それで構わない」


「私も、それで良いわ、ゼクトがそうしたいんでしょう」


「私は少し違う…ゼクトが話してセレスがOKしたらの話だよ」


「それなら、大丈夫だ! あいつなら断らない!」


セレスが断るわけが無い。


俺とは違い、彼奴は村が好きだった。


此奴らをまるで宝物の様に世話していた。


そんな彼奴が此奴らを手に入れられるチャンスを見逃すわけが無い。


どうせ、4職だからイチャつく事は出来てもそこから先は無い。


そこから先が出来るのは魔王討伐の旅が終わってからだ…その時には、俺は王女を正室に迎え貴族の縁談がきている。


問題は無い…寧ろセレスに旅の間は…娼婦と遊ぶお金をねだれば良い。


部屋を別にとってやればWINWINだ。


顔が緩む…駄目だ、笑顔を漏らしていけない。


俺は何か言いたそうに見つめる三人に…


悲しそうな顔を作り…謝った。


「俺が不甲斐ないばかりに済まない」と…


◆◆◆


俺達は教会にきている。


怒られるのは覚悟の上だ…魔王城に向かっている勇者パーティの俺達が、引き返すのだから…


「司教はいるか? 今日は重大な報告に来た」


ギルドを通して時間が掛かるより、教会に報告した方が早い。


冒険者ギルドの話では守秘義務があるからと細かくは教えてくれなかったが、セレスは家事奴隷を買って、本当に田舎に向かったようだ。


『大人しく村に帰って田舎冒険者にでもなるか、別の弱いパーティーでも探すんだな』


言うんじゃなかった…まさか彼奴が真に受けて本当に田舎に帰るなんて普通は思わないだろう。


一刻も早く、ジムナ村に向かわないと…


「これは、これは勇者ゼクト様、よくぞいらっしゃいました、聖女マリア様に剣聖リダ様に賢者メル様…全員で来られるとは、重要な話ですかな?」


「ああっ、極めて重要な話だ…セレスを連れ戻しに行きたい」


俺は、これまでの経緯を話し、セレスを追いかけたい、その旨を説明した。


今迄笑っていた司教の顔が怖い顔に変わった。


さっきまでの優しい雰囲気が消えた。


「なりません」


頭ごなしに否定をされた。


だが、俺は此処で引き下がるわけにはいかない。


「だが、俺にとってセレスは必要なんだ」


「なりません」


「私から頼んでもだめですか?」


「こればかりは聖女マリア様のお願いでも聞けません」


「そうか、俺は勇者だ、もう良い勝手にさせて貰う」


「ザマール国、国王ザンマルク四世様からも『勇者たるもの停滞や後退は許されぬ、歩を進めろ』と勅命を預かっております…」


嘘だろう勅命だと…


「だが、俺にとっては…」


「勇者様―――っ」


何だ、此奴急に土下座等して…


「勇者様、どうかどうか…歩を進めて下さい! お願いします…お願いですから…」


「だが、セレスが俺には必要なんだー-っ」


「お願いでございます…もしどうしても戻ると言うのであれば、このダイモンを斬り捨ててからお戻りください! 斬りなさい!斬れー――っ」


「私も…」


「私だってー――っ」


どうしてこうなるんだよ。


俺はただセレスを迎えにいきたいだけなんだ…


その後はちゃんと…する。


「ちょっと待って、何でそんな物騒な事になるの、解るように説明して」


「メル様…周りを見て下さい!」


メルは周りを見て青ざめた顔をしている。


別に貧相な子供と女が居るだけじゃないか。


「これがどうかしたのか?」


「近くの村から逃げてきた者でございます…」


「逃げてきた?」


「貴方は勇者様ですよ…だから文句は言わない、そう決めておりました…ですが、もし勇者様がこの街で停滞などしなければ、恐らくあの村は無事でしたよ…勇者様達が此処でまごまごしてなければ、きっと村に立ち寄ってオークの巣の事を聞いて、貴方達は討伐していた筈です…誰も死ななかった筈ですよ…」


「そんな…私達は…」


「リダ様、貴方1人でもオークの巣など簡単に潰せますよね…貴方だけでも向かっていたら、この子たちは孤児に未亡人にならなかった…この先に沢山の不幸な人間が貴方達を待っている…貴方達は皆の希望なのです…お願いします…」


「だが、俺たちは、この通りなんだ…」


「勇者様や聖女様達が血だらけだったり、汚れていても誰も笑ったりしない! 自分達を守る為に汚れた姿を見て笑う者など居ませんよ! もし居たら、教会が罰します…気になるならその都度教会に来てください! 何時でも暖かい湯に食事、清潔な服に寝床、ご用意させて頂きます」


「ゼクト止めよう…私達が悪かったわ」


「だが、マリア」


「駄目だ…よく見ろ、周りを…すまなかった」


「リダ…」


「ごめんなさい、私達が悪かった…救えなくてごめんなさい…ただ仇は私達がとるから…それしか言えない」


「賢者様メル様…ううっ、ありがとうございます」


「多分、オークはもう居ない…貴方達の無念はこの剣で魔物や魔族全部に思い知らせてやる…約束する」


「リダ様」


「ほら、ゼクト行くよ」


「ああっ、俺が間違っていた…司教済まなかった、頭を上げてくれ」


「では解って下さったのですか?」


「ああっ、俺が悪かった…明日にでも直ぐに旅立つよ…」


駄目だ…


引き戻す事はもう出来ない…










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