第28話 深く考えない
村に帰ってきた。
本来は村長の所に連れて行くのが正しいが、先に静子の所に連れていく。
勿論、これは村長のナジムには許可を貰ってある。
「セレス…頼むよ、そばに居てくれないか?」
「セクトールおじさん…それは駄目…俺も怖い、子供の頃1度だけ怒らせて、俺もゼクトも泣いた位怖かったから…」
ちなみ俺は1度だが…ゼクトはかなり怒られていた。
今思えば、ゼクトは随分と図太かったんだな…あれを
何回も食らって止めないんだから。
「なぁなぁ、そんな事言うなよ…俺はお前を息子のように…」
「ごめん…諦めて」
流石に大好きな静子の般若の様な顔は見たくない。
俺はセクトールの腕を掴んで家のドアを開けた。
「セレスくん…おかえり…セクトーーーール!貴方良く顔が出せたわね…」
「セレス、何で此処に此奴がいるんだ! 此奴は鉱山送りになったはず」
「セレスさん…なんで連れ帰ってきたのかな…こんなクズ…」
「セレスちゃん…優しいのは良いけど…クズは捨てないと駄目…この人だけはクズ過ぎるわ」
こうなるのは解っていた。
4人は何時も優しく女神のようだけど…怒らしたら凄く怖い。
恋人で姉で妻だけど…俺の子供の頃の母親代わりでもあるんだ…その怖さは充分知っている。
「確かにそうだけだ…ゼクト達への仕返しに必要だから連れ帰ってきた…流石に死なれちゃ寝覚めが悪いから…殺さなければ好きにして良いから…それじゃ、セクトールおじさん…頑張って」
「おい、セレス嘘だろう? なぁ頼むよ…助けてくれよ…なぁ、なぁ」
「おじさん」
「助けてくれるのか、ありが…」
「鉱山に居たら死ぬけど…此処なら半殺しで済む…よかったね」
「セレスくー-ん、そう、殺さなければ良いのよね、解ったわ」
「セレス…片手が無くなる位は許容内?」
「そうね…鉱山より恐ろしい目に合わせてあげればいいのよね、セレスさん」
「そうか…そうね…自分の手でした方が良いわね…そういう事なのねセレスちゃん」
「セレス嘘だろう?なぁなぁ、助けてくれなぁ」
「それじゃ、外に居るから、終わったら声かけて」
「「「「解った(わ)(よ)」」」」
「嫌だー――嫌だー――っ」
俺は扉をあけ外に出た。
◆◆◆
この村は本当に良い…緑が豊富で空がきれいだ。
家のそばで直ぐに横になり空を見た。
人生ってわからないな…
子供の頃から好きだった人は全員が幼馴染の母親だった。
普通なら諦める筈の恋だったが、未だにひきずっていたら、その恋は叶ってしまった。
しかも4人全員という夢の様な形でだ。
この4人の中の一人で良い…自分の恋人になってくれるなら結婚してくれるなら死んでも良い…子供の頃そう思った事がある。
セクトールに年とった静子なら金貨1枚で譲ってやるよと言われた時…カッコ良い男なら飛び掛かるだろう。
だが、俺は『本当に譲ってくれるのか』そっちを考えてしまった。
静子さん達は『ゼクト』が許せないらしいが…彼奴は偶然だが、俺にとっての前世でいう『愛のキューピッド』だ。
彼奴が勇者になり、俺をパーティに誘わなければ俺は一般人。
婚姻相手は1人のみだ。
彼奴が俺を誘い…パーティに入れたからこそ『勇者保護法』やその特権に俺もあやかって『複数婚』の権利を得た。
確かに苦労はさせられたけど…充分すぎる報酬だと思う。
だが、俺がどう説明しようが…駄目だな。
傍目には、かなりゼクト達が俺に酷い事したようにしか思えない。
逆の事を考える必要がある。
『ゼクト達には大した事ではなく…周りからしたら酷い事に見える』
そういう事を探さないとな…
しかし、さっきから悲鳴がすごいな…
だが、その位は…仕方ないよな。
◆◆◆
暫くたって悲鳴が聞こえなくなってきた。
もう終わったのか…
俺が扉をあけなかを見るとセクトールが倒れていた。
「セクトールおじさん」
顔を叩いても反応がない。
髪は真っ白になっていた。
「セクトールおじさん! セクトールおじさん! セクトールおじさー――ん!」
「うふふっ大丈夫よセレスくん、回復魔法で回復済みだから…」
「セレス、うん平気..1回死に掛けていたけど、静子は回復魔法の達人だから…問題ないわ」
「セレスさん、少しやりすぎだったわ…その位だから気にしないで」
「セレスちゃん…鉱山なら全死だもの、半死や、死に掛けならお得でしょう」
怖くて何があったのか聞けない…
髪の毛が真っ白になる位の恐怖があったんだ…只事じゃない。
だけど…うん、忘れた。
女神の様に優しい四人がそんなにひどい事なんて…絶対にしないよな。
「それじゃ、村長さんの所に連れて行ってよい?」
「「「「ええっ良いわ」」」」
俺はセクトールを担ぐとそのまま村長の所に連れていった。
◆◆◆
村において貴族や領主が絡まない限り村長の権限は限りなく王に近い。
何かあれば裁くのは最終的には村長だ。
法律以外の村の掟をつくるのも村長だ。
つまり村長は司法と立法の最高権限を持っている。
「よくもまぁ馬鹿な事をしたもんじゃ…この村じゃ貧乏な時は仕方ないが裕福な時に家族を奴隷として売るのは掟が許さぬ」
凶作等で税金も払えず、生活が出来ない状態で泣く泣く家族を売るのは村人である以上は仕方が無い…だがこの村では裕福な人間が家族を奴隷として販売する事は固く禁じられている。
「罰は受けるつもりです」
「だがな、こんな事が知れたら村としても困る…幸いこの村には教会も無い…だから今回の事は罰しない…だが、お前の畑は今回の不始末で取り上げさせて貰う、家はセレス達が去ったあと返してやる…自分で荒れ地を開墾してまた手に入れるのだな…」
この村は裕福で開墾されていない土地はまだある。
だが1から耕すのは大変な事だ。
そんな事言いながらもこの村は『困っている者には優しい』セクトールが本気でやり直すなら、きっと誰かが手を差し伸べてくれる。
「はい…そうします」
「心を入れ替えがんばるのじゃな…あと領主様に話をつけたセレスに感謝するように、儂からは以上だ」
「よかったですね」
「ああっ、ありがとうセレス」
村長も顔に出さないが驚いているよな。
セクトールの髪が真っ白なんだから…深く考えるのは良そう。
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