第27話 クズでも…思い出はある



俺は、今領主様の屋敷に来ている。


「久しいなセレス殿…竜種を倒し続けるなど凄いじゃないか? 流石は『ドラゴンスレイヤー』の称号を持つだけの事はある」


勇者パーティに所属している…それは凄く便利だ。


Sランクとはいえ只の冒険者が、面会も申し込まずに貴族に会える。


この土地の領主、ガメルダは伯爵。


普通の平民には雲の上の存在…本来なら村長を通さなければ村人は会えない。


勿論、村長に恥をかかせてはいけないから、ナジム村長にお金を払い、一筆手紙を書いて貰った。


しっかりと顔を立てないと嫌われる。


これが村社会の現実だ。


こう言う小さな事を省くと、何処かで大きくしっぺ返しが帰ってくる。


妬みはある意味、魔王なんかよりも本当に怖い。


「ありがとうございます、今日はこれをお届けに参りました」


俺は収納袋から、水竜の鱗を数枚出した。


竜種を狩った時に、俺は鱗を数枚抜く。


鱗を数枚抜いた所で買い取りの価値は余り下がらない。


だが、綺麗な竜種の鱗は結構高値で取り引きされ、貴族が調度品として欲しがる。


「それは…水竜の鱗では無いか? しかも5枚…金貨100枚で良いか?」


「これはお届け…献上品です、お金は要りません…これは俺が初めて倒した竜種の首の付け根の鱗です…大恩あるガメルダ様にいつか差し上げようと思っていた品です」


『初めて倒した』これを強調する事でこの鱗の評価は更に上がる。


ちなみに村長にも村の大老たちにも1枚ずつ渡してある。


「そんな貴重な物を無料で貰う訳にはいかぬ、それに儂はセレス殿に何かしてあげた記憶は無い」


「ありますよ、ガメルダ様、ジムナ村です…私は孤児でして小さい頃から村で1人で暮らしていました…村の人達は優しく俺を育ててくれて1人前になれました…ガメルダ様の治世が良いからそれが村長に伝わり、皆が優しい…もし俺が他の方の治める地で生まれたならきっと奴隷になっていたでしょう…ナジム村長は言っていました、ガメルダ様が優しいからこそ儂も優しくなれるのだと…」


そんな事を村長は言っていない。


だがこれで…もし領主が村長に声でも掛けたら…村長はきっと喜ぶ。


こういう根回しが大きく後の生活につながる。


「ナジムがそんな事をの…それで今日は何のようじゃ、ただ世間話をしに来たわけじゃあるまい」


「税金を払えなかったセクトールという村人ですが…私が税金分を払いますのでどうにか鉱山から返して貰えないでしょうか?」


「セクトールか、あれは村でも悪評がたっていて誰も助けなかった男だ…勇者の親の癖に酒とギャンブルに嵌まり、お金を使い果たしたと聞く、更に非道にも妻すら奴隷に売った…そんな男をセレス殿は助けるのか?」


クズなのは俺も知っている。


静子の事を考えたら見捨てた方が良い。


だが、嫌な事にクズだが楽しい思い出もある…


少なくともセクトールはクズだが、子供の時の俺を可愛がってくれた。


だから…その分の恩は返しておく…


俺はゼクト達に恨みなんて本当に無いが…何かしないと静子たちが納得しない。


皆には『復讐の駒』に使う…そう言えば納得してくれるだろう。


「先程話した通り、ガメルダ様の治世のおかげでムジナ村で俺は楽しく過ごせました、セクトールは良い人物ではありませんが…子供の時に遊んで貰った記憶があるのです…父親の様に接してくれた…その事実に一度だけ、手を差し伸べようと思うのです」


「随分と心が広いのだな…水竜の鱗の代金代わりに、セクトールの税金の未払いを許そう…それで良いかな」


「お手数を掛けます」


「仕えている者に連れて来させるから…そうだ旅の話でもしてくれぬか」


「はい」


◆◆◆


流石に何時間も話し続けられないし、領主だから仕事もある。


俺は貴賓室に移り寛がせて貰っていた。


勇者パーティでも無ければ、平民の俺がこんな部屋に入る事はまず無いな。


俺が眠くなり、うとうとしていると扉がノックされた。


「セレス様、セクトールを連れてきました、ガメルダ様は『執務があるので挨拶出来ぬが連れ帰って良い』と言われました」


「セレス…すまない…」


俺が見たセクトールは、かっての面影は何処にもなく、どう見ても乞食かスラムの人間にしか見えない。


「すまないじゃない…俺は貴方がした事は許せない…村へ帰ろう」


「許せないなら…なんで助けてくれたんだ」


「良いから村へ帰るよ…鉱山よりはマシだろう…」


「ああっ…」


「それじゃガメルダ様に宜しくお伝えください」


「畏まりました」


俺はセクトールを連れ、村に向かった。


◆◆◆


セクトールは話さないで黙ってついてきた。


「静子さん、売ったんだよな…あの時はまだ金があったんだろう…なんでだよ…もし売るにしても俺が先約だろう…」


「確かに、セレスが子供の時に、そんな約束をしたな…お前は静子の事が好きだった…マセガキ…そう思っていたよ、まさかまだ好きだったのか…売ったのは、今となっては魔が差したとしか思えない…すまない」


ギャンブルや酒は人を腐れる。


ただの農民が大金を掴んで狂った…そう言うことだ。


『なれない大金を掴んで身を滅ぼした男』それだけの事だ。


前世にもいたな、金を無くして家族を風俗にうった馬鹿が。


「運命のめぐり合わせで、静子さんは俺が買って妻にした」


「そうか…」


「本当なら殺したい位、憎いんだろうな…だがな、俺はどうやら、マザコンでババコンだけじゃなく…どうやらジジコンでファザコンでもあるらしい…」


「まさかお前、俺を…」


「違う…馬鹿じゃねーの…あんたのやった事はクズだが…昔のあんたは違った、実の息子のゼクトと同じように俺を扱ってくれた」


「そうだったか…」


「俺とゼクトに酒を飲まして静子さんに怒られたよな」


「ああっ…」


「あの時の恩があるから…助けるよ…今回はなセクトールおじさん」


「まだ…そう呼んでくれるのか…」


「ああっ…だが二度目は無いからな」


「二度と馬鹿はしない…約束する!」


クズなのかも知れないが…恩も思い出もある…


鉱山で此奴が死ぬ…そう思ったら、なんか切なくなった。


静子に…どう説明しよう…


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