第14話 村長宅にて



ジムナ村に着いた。


静子は此処に到着する少し前から笑顔に陰りがある。


当たり前だ、此処には静子を売った、セクトールが居る。


ついてすぐ俺たちは村長のナジムに挨拶にいった。


貴族が出てこない限り村長は王様に近い。


村という社会から出ない限り、その権力は絶大だ。


このジムナ村でもそれは同じ。


ちなみに村の名前を逆さまにした名前は村長を受け継いだ者が代々名乗る風習がある。


だからこそ一番最初に村長に挨拶、これが村社会では当たり前だ。


「お久しぶりです村長様」


「お久しぶりですね」


静子と一緒に挨拶に行った。


「静子さん、あんた生きていたのかい? セクトールからは死んだと聞いたのじゃが、セレス、お前はゼクト様達から離れて良いのか…会えるのは嬉しいが、何かあったのかのう」


この世界で、俺の両親が亡くなった後、孤児である俺を村の皆で育ててくれた。


これはこの村が如何に豊かであるかが解ると思う。


親のいない子が売り飛ばされもしないで生活が出来た。


それだけでもこの世界じゃ凄い事だ。


「静子さん、俺から話そうか?」


「いえ、良いわ、私から話すから…」


静子さんは、たんたんと自分の身になにが起きたのか話した。


強いな。


本当にそう思った。


「そうか、それは大変じゃったの…あの腐れ外道の犯罪者め、もしこの村におったら利き腕を斬り落として追放してやるのじゃが…残念な事にこの村にはおらんのじゃ」


妻や子供をお金の無い…本当に困った時に売るのは、何処の村でも仕方が無いでとおる。


だが、お金に余裕がある状態で奴隷として売るのは殆どの村じゃ犯罪だ。


孤児になった俺ですら養ってくれるジムナ村では更に罪は重い。


「いったい、セクトールに何が起きたのですか?」


「大した事じゃない…あの馬鹿は税金を払わなかった、だから領主様に連れて行かれた、それだけじゃ」


「うふふふふっ、あはははっそうなりましたのね、ハァハァうふふふふっ」


「静子さんや、気を確かに」


「静子さん」


静子さんは暫く、気がふれた様に笑っていた。


だが、すぐに正気を取り戻した。


「もう大丈夫です、ハァハァ取り乱したりしてすみません、そうですか…一発位殴ってやろうと思いましたが、勝手にそれ以上の地獄に落ちたのですから…もう良いわ、本当に見苦しい所をお見せしました」


「良いのじゃ気持ちは解るからのう…だが今は幸せじゃろう? その年でそんな若いツバメを捕まえたのだからのう」


「ええっ怖い位に幸せですよ」


「そりゃそうじゃ、セレスもまぁ、凄いもんじゃな、子供の頃に言っていた事は『子供の戯れ』じゃなかったのじゃな、まさか本当に娶るとは思わなんだわい、ふあっははは別の意味で勇者じゃな」


この世界に『姉さん女房』という言葉は無い。


『男性が高齢で女性が若い』そういう夫婦や恋人は多く存在するが、逆に『女性が高齢で男性が若い』そういう夫婦や恋人はまずいない3つ年上の女房を貰うだけで『そんな女を貰うなんて』と家族から反対が出る位だ。


「ナジム村長、これを」


俺は金貨60枚(約600万円)入った袋と金貨20枚(約200万円)が入った袋を村長に渡した。


「これはすまぬな」


「勇者パーティから離れましたが、皆さまのおかげでこうして冒険者として生活をさせて貰っていますから、これは俺からの恩返しです」


「何を言うのじゃ、儂はお前を孫の様に思っておるよ、気等使う必要は無いのじゃ、セクトールの去った後の家を自由につかうと良い、此処はお前達の故郷じゃ、好きなだけ居るとよいぞ、静子もな」


「ありがとうございます」


「うふっ、ありがとうございます」


「今は丁度忙しい時期じゃが、旅立つ時にはささやかな宴をしてやろう、今日はもう遅いから、家に帰って寛ぐが良い」


「重ね重ねありがとうございます」


「ナジム様、ありがとうございます」



「長旅で疲れておるのじゃろう? ゆっくり休むが良い…最も、結婚したてじゃから、これからもっと疲れる事をするのかのう?ふあっははははっ」


顔を赤くした静子の手を引きながら俺は村長の家を後にした。


◆◆◆


この世界の村社会は『同情はしてくれるが、人の成功は喜べない』ある意味妬みの社会でもある。


例えば若者が商人になったとしよう。


失敗して帰ってきたら慰めてくれる。


だが、成功して帰ってきて『村に何もしない』と確実に妬まれる。


だからこそ、付け届けが必要だ。


金貨60枚は村の為に用意した。


恐らナジム村長が「村の為にセレスが寄付をしてくれたぞ」と皆に話し「流石はセレスだぁ~」と皆が温かく迎えてくれる。


これで誰も静子と俺が結婚した事を咎めない。


恐らく、このお金を入れなければ。


「良い歳して恥ずかしい女」


「なんであんな婆ぁと結婚しているの」


等、凄く嫌な話が飛び交うことになる。


冒険者として成功しているからこそ、妬みには気をつけないといけない。


金貨20枚は村長へのお金だ。


これで『孫のような自慢の子供』になる。


殆どの人が村から出ないで農民として暮らしているからこそ、そのプライドを傷つけたら大変な事になる。


最も『この村の人は子供の俺に凄く優しかった』だから俺は帰る事があれば手土産は用意しよう…そう思っていた。


セクトールが自滅してくれた事で実はホッとしている。


大切な静子を売り飛ばした事は許せないが、そんなクズでも気が向くと、子供の俺やゼクトを釣りに連れていってくれたり、僅かだが良い思い出もある。



きっとセクトールはもう終わりだ。


税金を納めなかったのだから、鉱山に送られて期間限定だが奴隷にされるだろう。


恐らくは10年単位で働かされ、もし村に帰って来てももう居場所は無い。


税金が払えなければ、普通は村長が立て替えてくれて時間を掛けて返す。


これが普通だ。


だが、それをしなかったという事はセクトールは皆に嫌われたんだ。


ゼクトが勇者になり大金を手にした。


それなのに、村に何も還元せず、自分で全部使ってしまった。


妬まれた状態で落ちぶれていったんだ、助けるわけが無い。


もう人生は終わりだ。


◆◆◆


「静子さん、これで落ち着いたかな?」


「ええっ、もう大丈夫よ、今が凄く幸せだしね、うふふふっ村長の言葉ならこんな若いツバメを捕まえちゃったんだもの」


「それを言うなら俺が静子さんを捕まえたんだよ、時間が随分掛かったけどね」


「うふふっそうね」


「今日は久々にお風呂に入ってゆっくりできる」


「うふふっゆっくりでいいのかなぁ~、村長のいう『疲れる事』はしないでよいの?」


確かに野営していたからご無沙汰だ。


「それじゃ、今夜は眠らせてあげない」


「うふふっ それじゃ私も眠らせてあげない」


久々にしたから二人とも燃え上がってしまい気がついたら、朝になっていた。


◆◆◆


これで良かったんだ。


幾らセクトールが嫌な奴でも思い出は俺にも静子にもある。


復讐なんてしたら…きっとこんな笑顔では居られない。


うん、これで良い。


※ 次回二人目のヒロインを出す予定です。



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