250話 裏側
「ようよう! 久しぶりだなお前ら! ……って、知らん間に人が増えていやがるな! いつの間にか、結構な大所帯じゃねぇか」
ガハガハと笑いながら俺たちの
ちなみにこの男とは、地味にこの世界に来たばかりの時に縁があった。
……世話になったとは死んでも言いたくない。
なんて言っても、いきなり喧嘩させられた上に、アルカが入ったバイザーを壊されたからな。
結果的にアルカは生き残って魔晶に意識を移せることが発覚したけども、それはあくまで結果論。あの時の恨みは忘れん。
「……現地人で正式にこの艦の中に招き入れたのは、アンタが初めてだよ。……はぁ」
そうであっても、今はこの男に頼らざるを得ないのが現実だ。
だから、誰も通したことのなかったアルドラゴの中にも入れるさね。
だが、当のラザムはアルドラゴのブリッジ内部を見渡して、特に感慨も浮かべなかった。
「まあ確かに、訳のわかんねぇ機械がびっしりですげぇところだが、もっとすんげぇものも見てみているからな」
意外な言葉が返って来た。
だが待て。ここよりもすげぇ機械がある場所ってのは―――
「もっと凄い? ……それはひょっとして……」
「おお。お前さんたちがこれから行こうとしている、ディアナスティ王国……通称竜王国だ」
おっと! 俺はてっきりゴルディクス帝国の事かと思ったぞ。
でも、竜王国に機械が?
『機械……ですか? ドラゴンが支配している国だというのに?』
アルカの言葉に俺も同意した。
ドラゴンと機械……ファンタジーとSFの世界観がどうにもミスマッチだ。
いや、俺らが言えた立場じゃないけど。
「まあそれは実際に行ってのお楽しみってところだ」
今明かすつもりは無いようだ。
まぁ気にはなるが、それが一番聞きたい事でもないので今は良い。
『ところでさ。ぼくとしてはまず最初に聞きたい事があるんだけども……』
おずおずと手を上げたルークに視線が集まる。
それで俺も思い出した。
「おおそうだ。どうして、ルークの身体からアンタの声が響くんだ?」
「おお、そいつは簡単だ。お坊ちゃんの核としている魔晶には、俺が長年注ぎ込んできた魔力がびっちり溜まっているからな。そいつを中継地点にして、声を反響させて……ってな感じだ。結構魔力消費が激しいから、しんどいけどな」
そういや、ルークが核にしている土の魔晶は元々ラザムが持っていたものだったな。
そんな言葉を聞いた後、ルークは顔を引きつらせて呟いた。
『……後で掃除しよ』
いや、そんな手を洗うみたいな感覚で掃除とかできるもんなんでしょうか?
ともあれ、謎の一つは解決した。
後はもう一つの問題だ。
「で、どうやって竜王国に行くんだ? アンタなら自由に行けるって事なのか?」
「いや、行きかたは知っているが、俺でも自由に行き来できるわけじゃない。ところで、お前さんたちは竜王国が何処にあるのか、見当はついているのか?」
そう言われ、俺は目の前に広げられている3Dマップに視線を向け、そのマップ上を手で示す。
「……今のところ、大体この辺の海域に秘密があるんじゃないかと思っているが……」
例えば、霧に包まれた空間の先に謎の島があった……とか、よくある展開だ。
が、俺の考えはすぐに否定される。
「ふむ。考え方としちゃ間違ってねぇな。だが違う。竜王国は海の上には存在しねぇよ」
「海の上には無い!?」
『という事は、アクアメリル王国のように海底にあるという事でしょうか?』
俺たちが以前訪れたアクアメリル王国……いくつもの島が連なった海域全てが王国だと言われていたが、その実態は海の中にあった。
海底に王国の首都が存在し、そこから地上の都市に指令が伝わるというものだった。
アクアメリル王国が獣王国との戦争において、絶対の自信を持っていたのはこれが原因である。
確かに、陸上の生物である獣族が海の底にある首都に対して、攻撃など出来ないだろう。
尤も、それは海族に対しても一緒で、彼らは水の無い場所では著しく活動に制限がかかる。
もし、あのまま戦争が勃発していとしたら、とんでもなく長期に渡って争いが続いたことだろう。
話がそれた。
アルカに言葉に、ラザムは首を横に振る。
「いや、海の上でも海の中でも、ましてや空の上でも無い」
天空島サフォー王国のような可能性すらも否定されたか。
となると……選択肢が無くなったぞ。
「正解は……此処だ」
と言って、ラザムは俺たちの足元を指差した。
即座に俺たちは警戒態勢に入る。まさか、本当に俺たちが滞在するこの島が竜王国だとでもいうつもりなのか?
すると、俺たちの反応を見てラザムはまたしてもガハガハと笑い声を上げた。
……このヤロウ。やりやがったか。
「ハハハ! 驚かせたみたいだな。別にこの場所って事じゃねぇよ。……いや、ある意味ではそうか。この島がそうであり、それ以外の場所……それこそエメルディア王国やルーベリー王国だって竜王国の一部でもある」
さっぱり分からん。
なんだそれは。禅問答ってやつか?
俺が混乱していると、やがてアルカがポツリと呟いた。
『……なるほど。という事は、我々が居るこの世界の裏側に竜王国は存在するという事ですか?』
「裏側?」
「流石だな! その通り、竜王国の場所……それは、俺たちが住むこの世界とは違う次元に存在している。確かに、裏側の世界だな」
「違う次元!」
おいおい。
それこそ元々は俺たちが求めていた別の世界へと渡る魔法……時空魔法ってヤツじゃねぇのか?
そんなもんがあるのなら、いよいよファティマさんと最初に会った時、なんでスルーしていたのかって話になるぞ。
「ああ。なんか期待しているところ悪いが、お前たちが求めている物とは近いが違うものだぞ。そもそも、魔法じゃねぇし」
「魔法じゃない?」
『つまりは、テクノロジーによるもの……という事ですか?』
アルカの答えにラザムは頷く。
「その通りだ。なんでも、太古の昔にとんでもねぇ科学者が居て、次元の壁とやらに穴をあける機械を発明しちまったらしい。そんで、その穴の先にある世界の住人……ドラゴンたちと交流を持つようになったって事らしいな」
なんか、さらっととんでもない言葉を聞いた気がする。
「ちょっと待った! って事は、ドラゴン……竜族ってのは、元々この世界の住人じゃないって事なのか!?」
「らしいな。まぁそれもずいぶん昔の話だから、知っている竜族も少なくなったらしいな。だから、この話は人に話すなよ」
「そんな話をなんでアンタが知っているんだ?」
「そりゃあファティマから聞いたに決まっているだろう」
ああ、そう言えばこの人ってファティマさんの旦那さんだったよな。
それにしても、この世界に来た当初はそういうもんかと思って深く考えていたけども、今更ながらに思わざるを得ない。
なんでまた竜族の神であるファティマさんと、魔術師とはいえただの人間であるこの人が夫婦なんて関係になっているんだ?
……まぁ、今更そこに突っ込むのも違うだろう。
それに先に優先すべきことがある。
俺はフルフルと頭を振って思考を切り替えた。
「この世界の歴史についても興味あるが、今は竜王国の行き方についてだ。話を聞く限りだと、簡単に行ける場所じゃないんだろ?」
「ああ、正直言って、こちら側から竜王国に行く手段はない。それはどんな手を使っても無理だ」
「マジか」
元々簡単ではないとは思っていたけども、完全に行く手段はないときた。
となると、いよいよもってこの人に頼らざるを得ない。
「となると、竜王国に行くための方法はただ一つ。あちら側から、次元に穴をあけてもらうしかない」
次元に……穴。
アルカたちが使うゲートの魔法は空間と空間を繋げて使う魔法だ。なんとなく、今回もそのようなものを想像しているが……どうなんだろうな。
「何はともあれ、行く手段はあるんだな。それなら別にいい」
「言っとくが、今回の事はあくまで特別処置だ。竜王国なんて、普通の人間が行ける場所じゃねぇんだぞ」
「ああ、俺たちも普通にゲイルを返してくれればそれでいいんだけどさ。そういうわけにもいかないんだろ?」
「まあファティマの話だと、なんかお前たちにやらせたい事があるらしいからな。だから、俺がこうして案内役に選ばれた訳だ」
そもそもの話として、交換条件として人質扱いとなっているゲイルをどう返してもらうかという話なのだ。
だが、海神ムーアや獣神メギルの時と違って、竜神ファティマからはまだ何の仕事をしてほしいとか、そういった話が来ていないのだ。
だから、俺たちが直接向かう事になっている。
それは別にいいのだが、振り返ってみるととんでもない回り道をさせられているみたいだな。
まあ、これも自分で選んだことだ。
だから、仕方ない。
「仲間を迎えに行くだけだから、それは構わないさ。で、どうやって行くんだ」
「今日の3時33分33秒。お前たちが言っていた海上のある地点に入り口が開く。開いている時間はわずか3秒だ。その時間にその入り口を抜けないと、二度と竜王国に行ける手段は無くなる」
なんだその3にやたらと拘った演出は。
それにしても3時か。この世界においての3時だから、ド深夜である。
まぁ3秒間もあれば十分か。
「ちなみにこのでっかいドラゴンは抜けられないな。穴のサイズはせいぜい5メートル程度だと思っとけ」
「くそ、アルドラゴは留守番か」
という事は、全員で竜王国に乗り込む事は不可能だな。
アルドラゴの管理という事で、チームを二つに分ける必要がある。
最強戦力であるアルドラゴが使えないし、戦力が減ってしまうのは不安でもあるが、こればかりは仕方ない。アルドラゴをこっちにほったらかしには出来ない。
拠点を守る意味でも、こちらに残る者は必要だ。
竜王国での移動手段は《リーブラ》を使うからいいとして、まずはチームメンバーか……。
管理AIが一人は必要だから、留守番組まず一人は……
「ルーク……悪いが、お前は居残りだ。そんで、アルカとフェイには同行してもらう」
『分かりました』
『了解です』
『ちぇーっ。わかったよう』
そんで他に同行メンバー……ルークが居ないので回復薬は必要だな。という事は、
「ナイア、お前も同行してくれ」
『はいはーい。竜族さんの身体がどうなっているのかすんごく楽しみですねー』
後は……まぁ仕方ないか。あの二人に限っては、居残りした所で意味もないし。
「烈火、吹雪は同行。悪いが、月影と
『仕方ないですね』
『……うす』
「そんで、最後にノエルだな。行けるか?」
「ふにゃ!」
俺のジャケットの内側よりぴょこんと顔を出して返事をする。
今回の問題の発端となったノエルを連れて行くかどうかは迷ったのだが、ノエルは今のところ最大の切り札でもある。
戦力としては、やはり確保しておきたい。
「さて、時間も限られているから手早く準備を進めよう。《リーブラ》に持っていけるだけ装備を詰め込むぞ」
竜王国に対して喧嘩を売りに行くわけではないが、これだけは絶対に言える。
ただの観光にはならない。
絶対に何かしらのトラブルが起こる!
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