235話 烈火&吹雪の戦い




「はん、学習だと?」「そんな付け焼刃のものが、どう役に立つ!」


 烈火吹雪の宣言を聞き、朱鬼蒼鬼の二人は豪快に笑い飛ばした。

 それも当然である。

 コンビネーションのコの字も知らなかった者たちが、この者の数分で自分たちと同等レベルになるはずが無い。

 烈火吹雪の二人は、そんな彼らを見てにんまりと笑みを浮かべた。


『さあ、それは……』『見てのお楽しみってね!』


 二人は同時に駆けだした。

 朱鬼蒼鬼はそれぞれ迎え撃つべく構えるのであるが、二人は予想外の行動に出る。

 烈火吹雪は走っている最中に軽く跳びあがり、互いの足の裏を合わせ、それを反動にする事によって左右へと跳ぶ。

 更に狭い列車内の壁や天井を蹴り飛ばす事で朱鬼蒼鬼の身体を飛び越え、二人の背後へと着地したのだ。


 しかし流石歴戦錬磨の猛者である朱鬼蒼鬼。

 大きく動揺する事もなく振り向くと同時に背後に向けて拳を振り払う。だが、それを烈火吹雪は身体を反らして回避した。

 いや反らしただけではなく、そのまま連続バク転によって車両後部へと到達する。


「何」「を?」


 やがて烈火がバク転を止め、吹雪はバク転の体勢のまま車両後部の壁……いや車両部のドアを蹴り飛ばし、その反動によって正面の朱鬼蒼鬼に向かって跳んだのだ。


『うらあぁぁぁっ!』


 通常の人間よりも圧倒的に身体能力の高い吹雪の身体は、約5~6メートルの距離を一瞬で詰め、渾身の跳び蹴りを放ったのである。


「ふん」「舐めるな」


 朱鬼蒼鬼は咄嗟に一列に並び、前方に立つ蒼鬼がガードの姿勢に入り、後方の朱鬼は身体を支える役割を担った。

 その言葉通り、吹雪渾身の蹴りは強固なガードによって阻まれ、二人の身体を僅かに後退させたに過ぎなかった。

 逆に飛び蹴りを放った体勢の吹雪は大きく隙を作る形となってしまう。

 万事休すかと思われたが、吹雪の蹴りをカードした蒼鬼が見たのは、吹雪の背後より烈火が同様に飛び蹴りを放つ姿であった。


 烈火の跳び蹴りはガードの及ばない顔面へと命中し、大きく身体を後退させる結果となる。


「チッ!」「この程度……」


 なんとか体勢を整えようとする朱鬼蒼鬼であるが、そんな暇は与えられない。

 即座に吹雪が足払いをして、まず前方の蒼鬼の身体を大きく崩す。


「ぐっ! 貴様ら……」「確かに……動きが……」


『ハッハッハッ! 見たかーっ!』

『まだまだこれからだッ!』


 確かに二人の動きは変わっていた。

 粗削りではあるがパワーに秀でた吹雪が一撃で体勢を崩し、スピードとテクニックに秀でた烈火がその隙をつく。

 これまでのようにバラバラの動きではなく、互いの力……強みを活かしたコンビネーションを発揮している。

 しばしの間、そのようにして朱鬼蒼鬼の攻撃のチャンスを与えないようにしていたのであるが、敵も決して弱いわけではない。受けるダメージは最小限にとどめ、反撃のチャンスを虎視眈々と狙っている。

 やがてじれったく感じてきた吹雪が大きな行動に出ることにした。


『この際だ、ストライクブラストの新機能見せてやる!』

『おま……まぁいいか』


 一瞬止めるべきか迷った烈火であるが、この状態ならば問題ないと判断し、フォローに回る事に決めた。


 吹雪はストライクブラストの両端部分を連結させる。すると、ストライクブラスト同士が光のロープによって繋がれる。

 これぞ、ストライクブラスト・ツインロッドモード……要はヌンチャク形態である。

 天空島で戦いの折、アルカの協力によって疑似的に表現したものであるが、それを基本性能として取り込んだものである。


『アチョーッ!』

「な、なんだその掛け声は!?」

『知らねぇのか、異世界の英雄様の掛け声だぜ』


 リー師匠がこれを知ったらどう思うかはさておき、吹雪は華麗なるヌンチャク捌きを披露。

 何をするのかと警戒していた蒼鬼であるが、吹雪の持つ武器の不可思議な動きに思わず目を奪われた。その隙をついて、ヌンチャクの一撃が蒼鬼の顔面へとクリーンヒットする。


「ぬおっ!」

『まだまだ続くぜーッ!!

 ホワチャ! ホワチャ! ホ~ッワチャッ!!』


 流れるようなヌンチャクの連撃が全て蒼鬼の顔面に命中。この世界にはヌンチャクと言った概念の武器は存在せぬため、その不規則な動きに対応できなかったのだろう。


「貴様! よくもそうを!!」


 タコ殴りにされている蒼鬼を助けるために朱鬼が吹雪に飛び掛かろうとしたのだが、その動きは突如として阻害される。

 その原因は、いつの間にか自身の足首に巻き付いていた光のロープであった。


『おっと……アンタの相手は私だ』


 ロープの正体は、当然ながら烈火が取り出したヒートロッドの炎の鞭である。

 ただ、現在は列車内に火が燃え移らないようにと炎熱の効果は低くなっている。触れれば熱い事は熱いが、用途は普通の鞭と変わらない。

 だが―――


『うおらっ!!』


 烈火はヒートロッドを朱鬼の足首に巻き付けたまま、思い切り振り回す。

 烈火よりも大柄な体格の朱鬼は軽々と振り回され、天井や左右の壁へガツンガツンと大きく激突させられる形となる。


「ぬおおっ!?」


 もし第三者がこの場に居て、烈火の体格を見れば、どこにそんな力がと驚くことだろうが、彼女の正体はアンドロイド。アルドラゴ特製の強靭なボディによって見た目以上のパワーを誇る。


『愚弟!』

『おお姉貴!』


 烈火がヒートロッドを巻き付けた朱鬼の身体を車内中央部に向けて放ると、吹雪もそれに合わせて蒼鬼の身体を蹴り飛ばす。

 二人の獣族は列車中央部でぶつかり合うが、それでダウンする事もなく、互いの身体で支えあってなんとか立ち上がろうとした。

 が、それよりも早く烈火吹雪の追撃は始まっていた。

 いや、これはむしろフィニッシュホールドである。


 吹雪はストライクブラストのツインロッドモードを解除し、うちの一つをコンパクトに折り畳んで自らの脚部のアタッチメントへと取り付ける。

 そのまま、助走と共に跳躍し、蒼鬼に向かって跳び蹴りを放つ。


 烈火は自らの右腕に装着されていたガントレット……ボルケーノブラストを右腕そのものを覆うボクシンググローブのような形状へと変形させる。

 すると吹雪とほぼ同時に飛び出し、朱鬼に向かって拳を突き出した。


 吹雪の足からは冷気が―――烈火の拳からは炎が噴き出し、破壊力を高める。


『『ツイン・マキシマムブレイクッ!!!』』


 そして、互いに背中合わせになって逃れようのない朱鬼と蒼鬼の二人に激突した。

 インパクトの瞬間に小規模ではあるが爆発と激しい爆裂音が車両内に響き渡る。


「ぐ……」「……ふっ……」


 二人の獣族は口元から煙を吐き出し、そのまま倒れ伏した。


 念のための解説ではあるが、必殺技フィニッシュホールドの対象が人間である場合に限り、命中の寸前に衝撃波とダミーの爆発が発生し、攻撃のダメージを半減させる仕組みだったりする。

 つまり派手に倒されたように見えるが、決して致命傷は与えないという計らいなのだ。

 もしこの対象が魔獣や無機物だった場合、完全に粉砕されている筈である。それ程の攻撃力が今の技には秘められていたのだ。


 ……なんでわざわざそんな機能を仕込んでいるかと言うと、単なるハッタリである。

 摸擬戦や決闘などで人間相手の戦いにおいても、派手な技を披露したい……でもまともに命中したら確実に殺してしまう……。

 そんなジレンマを解消するために仕込まれた機能なのだ。


 もっとも今回は見物人も居ないので、披露する意味も無かったのだが。


 ともあれ、烈火&吹雪にとってタッグバトルの正式な初陣……そして初勝利である。

 二人は喜びを隠しきれず、にまにました笑みを浮かべながら互いに歩み寄り、そのままハイタッチをしたのだった。




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