233話 四獣奏
文字にすると実にあっさりとしたものだが、食堂車での人質解放戦はあっという間に決着がついた。
まぁ、地球でよくやってるテロリストとかと違って重火器とか持ってねぇもんな。
下手すりゃ低級の魔獣より弱い連中が相手だ。
この世界の技術レベルを大幅に超えるテクノロジーを持つ俺らが本気になれば、相手にもならんか。
だが、戦闘とは違った問題っつうのが出てきた。
……解放した人質たちである。
「ガハハハ! よくやったお前ら! ヒト族というのは気にくわんが、褒めてやろう!」
「見たところハンターのようだが、これからは儂が雇ってやろう」
「何を言う! 部屋の隅で震えていたジジイの癖に! このハンターたちは私が雇う!」
「ふざけるな私たちだ!」
「おい貴様ら! 100万レン払うから、こいつ等を大人しくさせろ」
「何を! ならば、私は200万レンだ!」
「儂は500万払うぞ!」
「ならば私は501万……」
と、何やら競り市のように俺たちを誰が雇うかで言い争いが続いている。
この乗客たちは、獣族の金持ち集団。
これまで戦争の被害回避の為に隣国のエメルディアに退避していた連中が、帰国しようとして早々に今回の事件に巻き込まれたらしい。
いや、むしろこういう連中が集まっているからこそ、この列車は狙われたのかもな。
とは言え、俺たちはこいつ等を守りたいから戦っている訳じゃあない。
守るべき対象はセルアだけで、こいつ等はあくまでついで。こいつ等がどうなろうと知ったこっちゃないのだが、だからと言って見捨てられるほど冷血でも無い。
「あー……
『はいはーい』
「不本意だが、お前はこの車両に残ってこいつ等守ってやって」
『えー?』
物凄い嫌そうな顔をされた。
いや気持ちは分かる。
たが、次の俺の言葉を聞いてパッと明るくなる。
「何か面倒な事を言い出したら、解剖して構わんから」
『ええっ!? まーじですかー!?』
「一応言っとくけど、殺しちゃだめだからね」
『ウケケ……遂に……遂に解剖が出来る……こうなったらもう選り取り見取り……』
いつもの朗らかな美人女医さんの顔から、趣味狂気全開のマッドドクターと変貌する。
本当にね。詐欺だよね。
てな感じで面倒な富豪たちは日輪に丸投げして、俺たちは先頭車両に向けて突き進むことに……。
すると―――
「ケッ! せいぜい甘い考えを抱いていろ」
「ああ、この先の車両に居る“
「ん? しじゅーそー?」
捕まえた獣族のテロリストたちの口から、気になる単語が聞こえてきた。
「獣族の中でも、選りすぐりの精鋭たちだ」
「アイツらはAランクハンターレベルだ」
「てめぇら程度が束になった所で、敵うレベルじゃないね」
……いや、俺も一応Aランクハンターなんすけどね。
しかし、なんだその厨二チックな名称は。
まぁ帝国の十聖者といい、そういうのは何処の世界にもあるのかな?
『おい舐めた口を利くな! 先生はあのチーム・アルドラゴのリーダーだぞ。貴様らのようなテロリスト風情が―――』
「あ、烈火ストップ―――」
「「「「な―――」」」」
食堂車中にその名前が響いたようだ。
あーあ、出来ればその名前は言ってほしくなかった。
「チ、チーム・アルドラゴだと!? 貴様らが……あの……!?」
「せ、戦争勃発を阻止した……伝説の……」
いやいやいやいや。
つい一か月前の事を伝説にされても困る!
ともあれ、その名を聞いた富豪たちが余計に声を上げて俺たちを引き留めようとしたのだが、彼らが物理的に俺たちに殺到する前に、日輪のバリアビットによって行く手を阻まれる。
『はいはーい。皆さんは危険ですから、この車両より出ては駄目ですよー』
「そ、それはいい。貴様らがチーム・アルドラゴだというのなら、いよいよもって儂の家の専属護衛に―――」
といって富豪の一人が日輪の肩に手を触れたのであるが……
『はい、タッチしましたね。一点減点でーす』
と、やんわり手を払いのけて朗らかに宣言した。
「な、なんだ減点というのは……?」
『私独自の採点方式によって、このポイントが五点になった方より、解剖を実施させていただきます。あ、大丈夫です。決して死にはしませんから。どうか、医学の発展と私の知的好奇心を満たすための犠牲になっていただければと―――』
「ふ、ふざけるなー! 解剖とはあの解剖の事か! 何故、生きている者がそんな事をされなきゃならん!」
「そ、そうだぞ! 貴様らは儂らを誰だと……」
『ええと、実験対象???』
と、やんわりとした笑みで返す日輪であった。
まぁこれからのやり取りが気にならんではないが、ずっと見ていても仕方がない。
「そんじゃ、行くか」
と、俺が烈火吹雪の二人を促すと、何やらひきつった顔で後ろの日輪劇場を見ていた。
『だ、大丈夫なのか、アレ』
「あれでも医者だから、命にかかわるような真似はしないだろう。とにかく、俺たちはやる事をやるぞ」
さて、次の車両であるが……うん、また有象無象だな。
「な、なんだてめぇら!」
「乗客は全員拘束したんじゃなかったのか!?」
「おい、前の車両の仲間たちはどうした!?」
この車両のテロリストは三人。
特に強そうな気配は感じられない。
そんじゃまた、蹴散らすとしましょう。
ただ、今回は前の食堂車と違って、座席が集まっている分余計に狭い。こうなると、列車っていうのは実に戦いづらい場所だ。
まぁ今更文句を言っても仕方ない。
今は、やる事をやるだけだ。
「さぁて、行くか―――」
そう言って取り出したのは、近未来的な装飾が施された……一本の短剣である。
その名も―――
「
そう、セブンソードの六番目の剣の初お披露目である。
狭い車内であるから、セブンソードの中で一番刀身の短いコイツの出番となった。
俺は、奇声を上げて向かってくるテロリストの剣を正面から受け止め―――はせず、そのまま正面から打ち払い、相手の剣を半ばからスパっと切り裂いた。
「んな!?」
「そんな事にいちいちびっくりするな」
そのまま剣で斬りつけたら流石に死んでしまうので、ボカッと殴って沈黙させる。
フォトンエッジの特性……言うなれば、レーザーソードである。
刀身に光のエネルギーを蓄え、切れ味を倍増させる。
その気になれば光刃を離れた場所へ飛ばす事も出来るが、ここでそれを披露するとオーバーキルになってしまうので自重。
とりあえず、そのレーザーソードの機能によって邪魔な座席をスパスパ切り裂いて、広く動けるだけのスペースを確保。この列車を作った人には申し訳ないが、非常事態だし気にしないでおこう。
「お前ら、出番だぞ」
『おおう!』
『よっしゃあ!』
全員俺がシバいても構わんが、せっかくなので烈火吹雪の二人にも活躍してもらう。
俺の両側面から飛び出した二人は、それぞれ左右に位置しているテロリストに肉薄した。
吹雪は専用武器のストライクブラストでもって敵を殴りつける。
冷気機能はオフにしているのか、相手は凍り付きもせずに三度の打撃によって沈黙する形になった。
そして一方の烈火は―――
「ひ、ひいぃぃっ! 剣が……剣が燃えている!?」
『ふふん、これこそが私の新武装……ヒートダガーだ!』
烈火が両手に構えているのは、炎のような装飾が施された二振りの短剣だ。
その名もヒートダガー。
機能としては俺が使っていたヒートブレードの短剣版であるが、新たな機能として刀身から炎が噴き出す形になっている。
それによって大きく攻撃力が上がるわけではないが、ハッタリが利いて格好いい。
烈火も特に気に入っているしね。
ともあれヒートダガーによって烈火は相手の武器を弾き飛ばし、そのまま頭突きによって沈黙させる。
うむ、ちゃんと可能な限り殺すなという指示は守っているな。
他に敵の気配は無い。
この車両は制圧完了だな。
さて、次の……
……と思って車両と車両を繋ぐ扉に手を掛けた時だった。
俺に備わっている危機察知能力が反応する。
この先に居る奴……危険だ。
「噂の四獣奏って奴かな」
この反応からすると、さっきの奴らが言っていた事もあながち誇張って訳でもなさそうだな。
「烈火吹雪……気を引き締めろ」
俺の言葉に、二人も目つきを険しくする。
この先に居る奴は、さっきまでみたいに楽に勝てる奴じゃない。
俺自身も警戒を強くし、改めて扉を開いた。
次の車両は、前の車両のように座席はなぜか存在せず、何もないだだっ広い空間となっていた。
そして、その空間の中心にそいつ……いや、そいつ等は立っていた。
「待っていた」「強い者たちよ」
腕を組んでまるで仁王像のように立ちはだかっているのは、二人の獣族。
一人はまるで炎のような赤毛を持つ獣族。
もう一人は、対照的に青い体毛を持つ獣族。
二人とも、地球上じゃ存在しない体毛だろう。これまで見た獣族の中にも、こんな体毛の奴らは居なかった。……染めてんのかな?
いや、そんなことはどうでもいい。
アイツら、待っていたとか言っていたな。
って事は、俺たちの存在に気付いていたって事か。
「俺たちの事を仲間たちには知らせず、律義に待っていたって事か」
俺がそう言うと、二人は同時にニヤリと笑みを浮かべる。
「列車強盗に興味はない」「我らの目的は、強き者と戦う事」
「そのために戦争を引き起こそうってか?」
「我ら獣族は、外の世界では活動を制限される」「多くの者と戦うためには、大きな争いが必要なのだ」
ハンター協会も獣王国には支部はないみたいだかんな。
獣族本来の気性の荒さとかもあるし、色々と制限させられてんのかね?
いやいや、だからって戦争起こしちゃダメでしょ。
「貴様らのような者達が現れるのを待っていた」「邪魔な椅子は掃除した。さぁ……」
「「存分に戦いあおうぞ!!」」
と、最後にハモった。
色々とあーだこーだ言っていたけど、要約するとただの戦闘狂じゃん。
まともに相手していられん。ここはとってとケリをつけて……
『先生』『レイジ』
と思っていたら、背後より声がかかった。
『赤と青……おあつらえ向きだな』『あぁ、まるで意識でもしてんじゃねぇかと思うぐらいだぜ』
二人の目に、ギラギラしたものが宿っている。
これは……スイッチが入ったな。
『先生ここは……』
「お前らがやるんだな。分かったよ、精いっぱいやれ」
俺は手にしていたフォトンエッジを仕舞うと、その場より一歩下がった。
と言っても、ここで戦いの結末を待つわけにはいかん。
相手が爆弾を持っている以上、解決は早ければ早いほどいいのだ。
「んじゃ俺は先に行くから、後から絶対について来いよ」
そう言うと、目の前に仁王たちより声が飛ぶ。
「待て!」「一番強いのは貴様だろう」「黙ってこのまま通すと思うか?」「この先に行きたくば、我々を倒していけ」
……どうでもいいけど、なんで律義に交互に喋る訳? そういうルールあんの?
「やだよ。なんでてめぇらのルールに従わなきゃならねぇんだ」
俺は舌を出して拒絶を示した。
まぁ、だからと言ってこのまま車両内を進ませてはくれんだろう。
……だったら、車両内以外の場所を通るか。
「じゃ、後でな」
俺はそのまま前方ではなく側面に向かって飛び出す。
当然、そのまま行くと車両の壁がある。
無論、壁に激突するために走ったわけではない。
俺は壁にある窓ガラスから飛び出したのだ。
そして、窓の外に飛び出した俺は、この車両の先……前方車両に向けて右腕のフックショットを打ち込み、ワイヤーを使って振り子のように移動したのだった。
その移動の最中、俺の目は気になるものを留めていた。
列車の屋根の上には、
その月影が、何者かと対峙していたのだ。
対峙しているのは、車内には収まりきらないんじゃないかと思うほどの巨漢の獣族。
ほんの僅かチラッと見ただけであったが、あの獣族からも相当な実力を察知出来た。
今のヤツも四獣奏とやらの一角か。
だとするならば、戦いの方も月影に託すしかあるまい。
なんでかって言うと、次の車両に辿り着いた俺の目の前にも、相当な強者の気配を持つ者が居るからだ。
流れ的に、コイツの相手は俺みたいだな。
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