232話 暴走特急
「ギャーッハッハッハッ! なんだか、凄っごく面白い事になってるよ!」
レイジたちの乗った大陸横断鉄道がハイジャックされた。
この情報を知ったアウラムは、それを聞くなり大爆笑したのであった。
同時に情報を聞いていたブラットは、ややひきつった顔で尋ねる。
「なぁ、これって本当に予定されていた事じゃねぇのか?」
「うんうん。今回はマジマジ。いやぁそれにしても、どんな確率でトラブルに巻き込まれてるんだって話だよね。いやぁ凄いわ」
「本当だな。どんな星の下に生まれてんだアイツ」
聞けば、これまでは目の前のアウラムの手によって強制的にこういったイベントなるものをねじ込まれていたらしい。
だが、それ抜きでこんなハイジャックなるめったに起きないイベントに遭遇するなど、とてつもない不運と言えよう。
……いや、この場合の不運はむしろハイジャックを起こした犯人たちの方かもしれない。
「だが、いくらテロリストだって言っても、アイツらが本気で対処したらすぐに終わっちまうだろ」
「うんうん。せっかく自然発生したイベントなんだ。ちょいと僕の方で脚色でもしたげようかなぁ。やっぱ、素人が作ったシナリオは原作者自ら、ちゃんと監修してあげなきゃ駄目だよねぇ」
と、アウラムの仮面の奥の瞳がキラリと光る。
それを見て、やはり不運なのはレイジたちアルドラゴの連中だとブラットは思い直すのであった。
◆◆◆
「さて、ひとまず状況を整理しよう」
俺は頭を抑えながら、室内に集まったメンバーを見渡す。
何やらワクワクした様子の吹雪に、それを苛々した様子で睨む烈火。
セルアはビクビクして部屋の隅で固まっている。
平常運転なのは
最後に
『ふふふ……これがモノホンの獣族さんなのですね。この方たちは明らかに敵さんですから、こちらの自由にして良いですよね? 獣族さんの中身は果たしてどうなっているのか……とっても気になります……』
「もごーっ! もごーっ!!」
「―――!!」
二人の闖入者……ことテロリストの獣族たちは月影の糸によって身動きを封じられ、口元も室内のアメニティであるタオルで塞がれている。
レーザーメスを手にした日輪の接近に二人とも涙を流しながら抵抗していた。……目だけで。
車内放送があってすぐに、この二人は俺たちの部屋に飛び込んできた。
まぁ、接近自体はテツが察知して分かっていたから、定番の「お前たちは人質だ大人しくし―――」と、完全に言い終わる前に御用となった。
「この列車は
『うおお、燃えるぜ! アルドラゴのアーカイブにあったよな、どっかの国の騎士が敵の傭兵軍団をばったばったとなぎ倒していくやつ! あのおっさんの動きがすっげえ格好良かったんだ!』
『騎士ではなくエージェントとかいうやつだ。まぁ確かに、妙に心が躍るしちぇーしょんではあるが、はしゃいでる場合でもないぞ愚弟め』
まぁそれは同感といった所だ。
あーだこーだ言った所で、人質を救出しつつ悪のテロリストと戦うっていうのは、ちょっと憧れの展開でもある。
だが、烈火の言った通り浮かれてばかりもいられない。
人質が存在して、その命が俺たちに掛かっているのは事実なのだ。
ここは慎重に行こう。
「本来なら、ここで捕らえた敵から情報を仕入れるべきなんだが……」
と、チラリと敵さん二人に向ける。
迫る日輪にガタガタと震えて、とてもまともに喋ってくれそうもない。
それに、ウソ発見器でも無い限り、話した言葉が真実であるという保証もない。
「じゃあ月影、頼む」
『承知』
俺の言葉に即座に頷いた月影は、室内の窓を開き、外へと飛び出した。
無論本当に列車の外に飛び出したのではなく、彼が向かったのは列車の屋根の上である。
そのまま屋根伝いに糸を伸ばし、各車両にそれぞれ広げていく。
なんでも、この糸は月影の視覚・聴覚に繋げる事が可能らしい。つまり、糸を通して各車両の情報を偵察する事が出来る。実に便利だ。
『ふむ、人質たちは我々の車両の次……食堂車にまとめて押し込まれているようですね。そして、テロリストの首領格らしき者は先頭車両に居るようです』
「奴らの目的とかって分かる?」
『では、会話をそのまま再現します。
……時間通りなら、乗客たちをひとまとめにした頃か。
無駄な抵抗をした奴が居なければな。
ふん、あんな富裕層の腰抜けどもに抵抗する気概のある者が居るものか。
だろうな。
おい、爆弾のセットはどうなっている?
第3車両にセット済みです。
ふっ……いよいよだな。
ああ、このまま
腰抜けの王国め。あんな魚どもと仲良くするなんぞありえん!
ああ、我らがその目を覚ましてくれる!
お、おい! どういう事だ!?
目的は身代金ではないのか!?
馬鹿め。そんなものに興味はない。
我らの目的は、もう一度戦いの火種を生み出す事だ。
一度目はどこぞのハンターとやらのせいで失敗したが、今度こそ大火を広げて見せる!
ああ、あの醜い魚どもは全て滅ぼしてくれる!
何を言っている! このまま列車が駅に突っ込めば、お前たちも死ぬのだぞ!
残念だが、俺たちは最後の車両に移り、そのまま切り離させてもらう。
あぁ、死ぬのは残念ながら貴様らだけだ。
まぁ最後の旅をしっかり楽しむんだな。
尤も、動けない状態で景色を楽しむ余裕もないだろうが。
ガハハハ……
………まぁ大体こんな感じですね』
な、なるほど。
まんま月影の声での再現だったが、内容は理解出来た。
途中に意見するような言葉が入ってくるのは、車掌さんとか列車の乗務員とかかな。聞く限り、動きは封じられて先頭車両に置かれているみたいだ。
「それにしても、突っ込んでそのまま爆弾で爆発させる気か……」
『なんて野郎どもだ!』
『しかも、自分たちだけ助かるつもりとか……許せん!』
烈火吹雪の二人が怒り狂っている。
感性はオリジナルの二人のままだから、実に人間らしくて俺としてはホッとする。
アンドロイド組はそういう所ちょっとドライだったりするからね。
「聞く限りだと、テロリストどもの正体は先月の残党っぽいな」
先月……つまりは、獣族と海族の間で戦争が起きそうだった頃、裏で暗躍していた組織があった。
その組織……というか、正体は獣族の過激派だったりする。
組織というほど大きくは無いが、それでも小さな火種が国家間の大きな争いへと発展してしまうほどに、この両種族間の因縁は根深い。
この作戦とやらが成功してしまったら、俺たちのした事が無意味になってしまうかもしれん。
……それは流石に避けたいところだ。
「言っちまえば、先月の戦いの後始末か……」
とは言え、これでまた戦争が勃発して「約束果たせてないじゃん。報酬は取り消し!」とか言われて、せっかく取り戻した仲間をまた奪われたらたまらない。
ここは本気で取り組むとしましょう。
「さて、色々あるがやる事は単純だ。
敵を全員倒して、列車を奪還する。
これだけだな」
敵の目的が
だとするならば、こちらがする事は決まっている。
『おっしゃシンプルでいいな!』
『うむ、先の戦いではあまり活躍できなかったから、先生に我々の戦いというものを存分に見せてやろうぞ!』
あ、思考が単純な烈火吹雪の二人はやる気に満ち溢れている。
それは良いのだが、ここは釘を刺さねばなるまいて。
「やる事がシンプルなのは間違いないが、今回はただ戦うだけじゃなくて、人質の命が懸かっている事も忘れるなよ」
『お、おう……そうだったな』
『考えてみたら、そういう戦いは経験が無かった』
そう言えばそうか。
俺も経験が豊富なわけではないが、守りながらの戦いは結構大変だ。
それに、これまでの戦い大きく違うのは、守る対象がいつもより多い事だ。
もし、一人でも命を落とす者が居たら、それは俺たちの責任となる。
それは、とんでもなく重い事だ。
出来る事なら背負いたくはない。
だが、やらねばなるまいて。
ここで事態の対処が可能なのは、俺たちだけなのだから。
俺は、パァンと両手で頬を叩いて気合を入れた。
うし、スイッチが入った。
後はやるだけだな。
「そんじゃ役割を説明する。
俺、烈火、吹雪の三人でこのまま先頭車両まで進む。
そんでもって
以上だ」
「え? アタシは別に守ってもらう必要なんてないけど……」
名前が出た事でセルアがおずおずと手を上げる。
「名目上は君の護衛なんでね。悪いけどしっかり守らせてくれ」
「う……わ、分かった」
何やらセルアがもじもじした様子で返事する。
「狭い車内での戦闘がメインだ。中・遠距離戦闘はなるべく避けろ。近接戦闘でも破壊力の大きい武器は使うな。特に、ブリザードブラスト、ボルケーノブラストは絶対禁止」
『う、うす……』
『中距離戦闘も厳禁となると……ヒートロッドも使わない方が良いな。という事は、あの新武装が遂に日の目を見そうだ』
烈火の瞳がきらりと光る。
かくゆう俺も、この狭い車内に置いてでかい剣を振り回すのは無理だろうと判断している。
という事は、あの武装を解禁する事になるだろう。
「それじゃ各自、役割は理解したな」
俺がそう言うと、月影、烈火、吹雪、日輪、黒鉄の五人はそれぞれ頷く。
さて、このメンバーにこれを言うのは初めてだな。
「チーム・アルドラゴ……じゃない、チーム・エクストラ+1、レディ……GO!」
さぁ、ゲームスタートだ。
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