229話 活動再開
こんな形で、アルドラゴでは4人目の異世界人……ドワーフの少女ことプラムが新たな
クロガネことテツの件もようやくまとまった。
これで、かねてよりの計画を進める事が出来るのだ。
それは……チーム・アルドラゴとは別のハンターチームを活動させようという計画である。
理由は二つ。
一つ目は、シルバリア王国とアクアメリル王国の戦争回避の件が世間に漏れてしまい、俺たちチーム・アルドラゴが表立って活動出来なくなった。……今となっては、積極的にハンター活動する理由も無いのであるが、ハンターの情報網というのも
情報網の確保という面でも、ハンターを続けるメリットはある。
二つ目は、新人メンバーの経験値アップだ。
テツの初戦闘を見ても分かるように、単純に戦闘能力が高ければ良いという問題でもない。
その戦闘能力を活かすためには、やはり経験というものが必要不可欠なのだ。
単純に摸擬戦を繰り返していても進歩は遅い。
可能な限りの実戦を経験する。
自分自身の経験則から言っても、それがベストなのである。
チームメンバーは、新たな戦力となったアンドロイド組だ。
烈火、吹雪、マークス、ナイア、そしてテツだ。
更に、彼らには別の名前……俺の母国の言葉……日本語の名前を新たに授けることにした。
烈火、吹雪は元々漢字だから良いとして、授けるのは残りのメンバーである。
うーんうーんとかなり悩んだ結果、二人が属性系の名前という事なので、残りのメンバーも属性っぽい名前にすることにした。
ナイアは回復担当という事で、イメージ的には光属性。
光=太陽。
という事で、太陽をイメージした名前……
続いてマークス。
ナイアが太陽であるから、マークスは
月属性ってなんじゃい……とか思ったが、ゲームでは主に
悩んだ挙句、授けた名前は月影。そう、シャドー●ーン。
そして、テツには名前とキャラのイメージからそのまんま鉄……あえて漢字二文字で表すのなら黒鉄。
という事で、アルドラゴの番外チーム……エクストラ
一応のチームリーダーは月影・マークス。
烈火吹雪の方がアンドロイドとしては先輩ではあるが、AIとしては後輩であるから仕方ない。加えて言えば、元の人格であるミカ、ジェイドの二人にリーダー適正があるとは思えなかった。……申し訳ない。
そんな感じでチーム・エクストラの面々がハンターとして活動を開始して、約半月が過ぎようとしていた。
エメルディア王国内では十分名前も浸透し、うちらアルドラゴの再来とか言われているとかなんとか。
……再来も何も、うちの別動隊なんだけどね。
ちなみにDランクスタートで、今はあっさりとCランクに昇格している。
そういや、CからBに上がるには昇級試験があったなと思い出す。……あれでミカやセイジたちと知り合ったのだから、懐かしい思い出だ。
……で、肝心の俺は……というか、本隊であるアルドラゴは何をしているのか!?
活動再開しようとした矢先……出鼻をくじかれた!
「いやぁ、悪りぃ悪りぃ。合流の件だけどさ、ちょっと待ってくんねぇかな?」
そんな言葉が、海族の神ムーアに交換要員の人質として囚われているヴィオ本人から伝えられた。
こちとら、海族の神からの依頼を達成し、ようやっと迎えに行こうとした矢先の出来事である。
通信機ごしではあるが、そんな言葉が伝えられた時はずっこけそうになったぞ。
『……事情の説明を要求します。こちらを貴女を救い出すために相当な苦労を要したのですよ。それを理解して言っていますか?』
ピリリとした空気でアルカが言葉を伝える。
うーむ、口元は笑っているが、額には青筋が見えるな。
「い、いやいやいやいや! そっちに帰りたくねぇとかそういう意味で言ってんじゃねぇぞ! 実は、こっちはこっちでやんなくちゃならねぇ用事が出来たというか……」
『その用事とはどういった内容ですか?』
「いや……その……修行?」
「修行?」
「ほら、アタシって体外放出系の魔法って苦手だろ? でも、取り込んだ雷の魔晶の力を自在に引き出せれば、そういった事も出来るかなぁって……」
確かに、ルーベリー王国での戦いにおいてヴィオは体内に魔晶を取り込んだ。
その後、その魔晶は正式に仲間となった後、ナイアによって体内より摘出され、本人の希望もあってゲイル同様に外科手術によって循環器に組み込まれた。
だが、あの戦いの時のように雷の魔法を放出したり、耐電させたりといった芸当は成功しなかったのである。
当人は別に急を要するわけでも無いし、のんびり習得するさと言っていた。
だから、時間が出来てその力を習得している最中だというのはおかしくない。
……おかしくないのだが……
「………」
『………』
俺とアルカは顔を見合わせた。
自分が言えた事ではないが、ヴィオは嘘が下手だ。現に今も、俺たちと目を合わせようとせず、焦る気持ちを隠すように頭をポリポリ掻いている。
どう考えても、自分たちに隠している事があるのだろう。
俺はハァと溜息をつき、改めてモニターの向こうのヴィオに向き直った。
「分かったよ。一応聞くけど、帰ってくるつもりはあるんだよね?」
「もちもち! 決まってんじゃんよ。野暮用済ましたら、一目散に帰るって!」
あ、修行じゃなくて野暮用って言った。
って事は、何かしらやるべき事が出来たって事か。
だとしたら、それを追求するのもそれこそ野暮というものだろう。
「じゃあアルカ、ヴィオに《カプリコーン》を渡して」
「え!? 出来たの?」
「こっちも暇していた訳じゃなかったからね。使用方法はいつも通り脳内インストールで済むから、有効に使って」
「ごめんよ! さっさと済ませて、さっさと帰るから!!」
「はい。じゃあ、待ってるから」
と言って、通信は切れた。
アルカはゲートの魔法を使って遠く離れた地に居るヴィオと空間を繋ぎ、新型ゴゥレムである《カプリコーン》を渡す。
このように、場所さえ特定できれば、ゲートの魔法によって遠く離れた場所でも行き来は可能。ただ、使用者であるアルカが行った事のある場所で、その座標を正確に記録していないとダメという条件はあるけども。
ヴィオが今滞在しているアクアメリル王国は行った事があるから、こういった芸当も出来るのだ。
逆に言うと、云ったことのない場所にはこの魔法では行けない。
つまり、元々の目的地としていた樹の国や、ゲイルが囚われている竜の国……そして、これから向かう予定であるフェイの居る獣の国にはどうあっても行けないのである。
それに、獣の神メギルは面倒な条件をつけてきた。
まぁこれに関しては追々説明するとしよう。
「はぁ……まぁた予定が狂っちまったな。どうすりゃいいんだ……」
俺は、艦長席にもたれながら天を仰ぎ見た。
視線の先にあるのは、アルドラゴの天井のみ。また、このぼーっとした時間が無駄に過ぎていくというのか……。
そこへ、ぬっと視界いっぱいに美しい顔が出現する。
アルカさんである。
「わぁっ!?」
『きゃあ! なんなんですか!?』
驚いて椅子から転げ落ちた俺であるが、腰を擦りながら理解する。今のはただアルカが黙り込んだ俺の顔を覗き込んだだけ。
それにしても、最近は良く不意打ちだとアルカにドキッとさせられる。
「いや、こっちがすまん。ちょっと考え込んでいた」
『いえ、別にいいですけど。ところで、エクストラチーム……月影より通信が入っていますよ』
「おっと! 何か進展でもあったかな?」
何の気なしに通信を開いてみる。
すると、彼の口より現在の状況を打破できる情報が入ったのだ。
◆◆◆
『こちらの依頼を引き受けたい』
エメルディア王国王都オールンド。最早馴染みとなった受付嬢に対し、月影は依頼書を手渡した。
馴染みの受付嬢―――シャリィは、眼鏡をかけなおしてその依頼書に目を通す。そして、困惑した顔つきで月影を見上げたのだ。
「えーと……この依頼は内容の割に報酬が乏しく、長い事放置されていたものですが……本当に受けるのですか?」
『はい。むしろ、この依頼こそ受けたいのです』
「ですが……これは他国へと渡る護衛依頼になっています。現Cランクであります皆さまでは、国外を移動して依頼を果たす資格はありません」
そうなのだ。
基本的にギルドに登録したハンターは、その国内のみでの活動しか許されない。その範囲外の活動が認められるのは、Bランク以上の資格を持つハンターに限られる。
もし、以外の方法で国外活動をしようものなら、ランクは最低ランクからやり直しになってしまうのだ。
つまり、現状Cランクハンターであるエクストラチームでは、国外での活動は認められない。
だが……
『その件ですが、仮にBランク以上の資格を持つハンターと合同依頼ならば、引き受ける事も可能だとルールブックに書いてあったはずです』
「え、ええ……確かにその通りですが……でも、現在このギルドでBランク以上のハンターと言うと……」
残念ながら存在しない。
このギルドで一番有名なBランクハンターであるブローガは、現在ルーベリー王国に滞在しているし、他のハンターたちも他国に散らばっている。
つまり、この依頼をエクストラチームが引き受ける事は不可能であるのだが……。
「いや、その依頼……俺が合同で引き受けよう」
ギィィと扉を開けた音と同時に声がした。
この場に居た多くの者が声の主に視線を向け、向けたと同時に驚愕する。
そんなはずが無い。
この場にこの者が現れるはずが無い。
着込んでいた衣服も違う。纏っている迫力自体もかつてこの国に滞在していた頃に比べて圧倒的に違う。
だというのに、特徴的な髪の色と一見すれば少年のようなこの顔は見覚えがあった。
あぁ……間違いない。
この男こそ、最短期間でAランクにまで到達し、
今や世界で最も有名なハンターであるその人―――
―――チーム・アルドラゴのリーダー……レイジがそこに立っていたのだ。
「俺が彼らと共に合同で依頼を受ける。ならば、何の問題もないだろう」
今や時の人である男の登場によって、ギルドは騒然となる。
その依頼とは、この街に住むとある獣族の少女からの依頼であった。
自分がかつて住んでいた獣族の国……シルバリア王国のとある村へ向かうための護衛。それが依頼内容となる。
どうしてこんな依頼を彼らが引き受けるのかという疑問はあったが、ルール上は何の問題もない。
期待の新星ハンターチーム、エクストラとチーム・アルドラゴの合同依頼が決まったのである。
◆◆◆
海の国アクアメリル王国内、某所。
「やぁやぁ、話は無事に終わったよ」
「ふむ、良かったのか? 詳しくは聞いていないが、そちらも面倒な様子らしいが……」
「歓迎できるわけでもないが……これでも義理を重んじる
「ふむ、ならば良しとしよう。……だが、すまんなヴァイオレット」
「………」
「なんだ、その形容のしがたい顔は?」
「いや、アンタが謝罪の言葉って、初めて聞いたなって思ってさ」
「……謝罪をしたのか、この俺が……」
「無自覚かい? そりゃあ、なんとも変わったもんだねぇ」
「……いや、もしかしたら奴との戦いのせいで、メモリーの底にあった人間時代の感情とやらが復元されつつあるのかもしれんな」
「へぇ、レージとの戦い影響ってやつかねぇ。まぁ、良い事じゃないのさ」
「……お前も、随分と変わったな。いや、俺と行動していた時が無理をしていたのか?」
「まぁ、アレもアタシの一面さ。
んで、アタシに用ってのはなんだい?
……シグマの旦那」
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