222話 アウラムの目的
「さて、これで晴れて十聖者が全員揃ったわけであるが、現時点でチーム・アルドラゴの者たちを追跡する手段は無い。それについては、技術開発部の者たちが全力で追跡方法を模索している最中だ」
皇帝の宣言により、場の緊張感が少し和らいだ。
ちなみに、元剣聖ジークは黒子のように存在感のない衛兵によって部屋より運び出された。
決して親しい間柄の人間ではなかったが、ああなった姿を見るとやはり憐れに感じるものだ。
「という事は、しばらくは待機かねぇ?」
この場での議題はこれで終了と感じたのか、ディオニクスがそんな言葉を漏らす。
すると、フォレストが口を開いた。
「私としては、いざ対応すると言っても、十人全員がまともに連携を取れるとは思いません。2~3人のチームで動いた方が得策かと思いますが」
「認めましょう」
皇帝の言葉に、フォレストは再びこちらを睨みつける。
「では、ルミナ君。君は私と行動したまえ。例の男について、詳しい話を聞く必要がある」
「……分かりました」
……だろうな。
チームで動くというのも、自分から情報を聞き出し、可能な限り先手を打ちたいという方便なのだろう。
気が重いが、この場合は仕方ないと思って頷く。すると……
「では、私も付き合おう。同郷同士、仲良くやりましょう」
ポンと肩に手を置いて、クロウが割って入って来た。
「……まぁよかろう」
断る理由もなかったのか、あっさりとフォレストも肯定する。
正直、むちゃくちゃ心強い。ルミナはクロウを振り向き、アイコンタクトのみで感謝を伝える。流石に立場として、声に出す事は
すると、新たに聖騎士として任命された男……エギルも追随した。
「であるならば、我々3人もチームとして別行動させてもらおう。
それと、皆に通告しておくことがある」
スッ―――と、エギルより威圧感のようなものが放たれる。
「チーム・アルドラゴとやらの一員……青い髪の女……この者だけは、殺傷して捕らえる事は許さん。必ず、無傷の状態で捕えよ。それが難しい場合は、私を呼べ。速やかに対処する」
その物言いに、残りの十聖者は眉をひそめた。……もとい、半数の十聖者だ。全く表情の変わらない者が三名居た。
しかし、このエギルという男、どういうつもりなのか。
青い髪の女……直接見た事は無いが、情報はルミナも知っている。
正直、気にはなっていた。何せ、彰山慶次がリーダーを務めているハンターチームで、歳が近いらしい美女なのだ。
どういう関係!?
と、本人がその場に居るのなら問い質したい気持ちでいっぱいである。
話を戻そう。
とにかく、チームリーダーを差し置いて、何故その女に執着する?
もしや、個人的な繋がりでも―――
そう思っていると、場の空気を読まないディオニクスが、茶化したように軽口を叩いた。
「ハッハッハ……新しい聖騎士様は花嫁探しの最中かな? 確かに、噂ではすげぇ美人らしいが―――」
「私の妹だ。……他に言う事はあるか?」
予想外な言葉が返って来た。
妹?
マジで?
写真があるわけでもないので、顔が似ているかどうか分からないが、少なくともあっちは青色の髪、こっちは赤色の髪で真逆。素直には信じられない情報だ。
「何故、貴卿の妹君が、アルドラゴのメンバーに?」
フォレストが、当然の疑問を口にする。
「幼いころに生き別れた妹だ。それ以上説明するつもりはない」
エギルは冷徹に遮断するが、とてもそんな勝手が許される空気ではない。何せ、アルドラゴのメンバーは謎が多く、今は少しでも情報が必要なはずだ。
が、それ以上の追求は許されなかった。
「それについては私が認めている。詳しい事情も私が既に聞いている」
「しかし、陛下……」
フォレストが食い下がるが、追及が認められることは無かった。
「時期が来れば、いずれ諸君らにも説明しよう。それは私が約束する」
「ぐっ……」
皇帝自らの口よりこう言われてしまえば、これ以上何も言える筈もない。
とは言え、ルミナ自身も自分の過去をベラベラ喋る事は嫌である。だから、無理に追及する気もなかった。
ひとまず、十聖者の緊急会議は無事……か、どうかはともかくして、終わりを迎えたのだった。
ルミナ自身は、これからフォレストへの厳しい事情説明とやらが待っている。
非常に気が重かった。
◆◆◆
『それで、これで良かったのかアウラムよ』
他の十聖者が退室し、完全に人の目が無くなった事を確認した後、エギルはやや脱力した様子で尋ねた。
「オッケーオッケー! これで、君たちも表立って動きやすくなったはずだよ」
満面の笑みでパチパチと拍手しながら、アウラムはエギルへと向き合った。
お芝居はこれで終わり。
立場上はアウラムがエギルの部下という形であったが、晴れて対等な協力者という立場へと戻った。
『何故、ここまで面倒な手順を取る必要がある? 貴様が作るという新たなチームで動けばよいだろう』
事実、エギルは既にアウラム個人のチームへとスカウトされている。今のような茶番を演じずとも、協力すると約束しているのだ。
「うん、正直ね、うちの十三冥者……そこへ十聖者の何人か勧誘するつもりなんだよね」
『ほう?』
「だけど、その前に十聖者は一度完全になくなってもらう必要がある。だから、一度ガチでケイたちとぶつかってもらってさ、潰れてもらう予定さ」
さらりととんでもない事を言い出した。
十聖者を潰す……その意味が分からない訳ではないだろう。
『いいのか? 奴らは帝国の最大戦力なのだろう?』
「別に構いやしないさ。僕は、都合が良いから帝国に居るに過ぎない。それは、君も一緒だろう?」
『無論だ』
「とはいえ、もうしばらくは動く事は無いだろうねぇ。後はケイたちがどう動くか……それを見極めてから活動方針を決めるかな?
あぁ、その時が来たら君たちにも存分に働いてもらうからね」
と、部屋の隅で手持無沙汰にしている様子の二人……ガナードとオペラへと視線を話を振る。
『ケッ』
『………』
すると、二人はあからさまに嫌そうな顔をして顔を背ける。
その二人へと今度はエギルが声を掛ける。
『では、我らのラボへと戻るとしよう。行くぞ
「こらこら、せっかく名前を付けて上げんだから、ちゃんとガナードちゃんとオペラちゃんと呼んであげなさい。
というか、オペラちゃんはいいとして、ガナードちゃんは人格的には男だろう? なんでまた女の子のボディ使っているのさ」
『量産型No.3のボディを使用してマテアライズしたボディだ。外見まで設定する必要は無いと判断した』
そうなのである。
二人は、アークこと
今回、二人ほど戦力が欲しいというアウラムからの依頼で、駆り出された形になっている。
その際、ボディ自体はエギルの言う通り量産型No.3……通称白フェイのボディを使用している為、外見的にはフェイのものとほとんど変わらない形になっている。
せめてもの差別化という事で、ガナードは髪型を無理やり変え、オペラはアイマスクとヘッドフォンを付けている。
『ま、オレらもサポートAIだ。言いたい事はあるが、主を裏切るような真似はしねぇさ』
『当然だ。貴様らの役目は、私をサポートする事だ。本来なら、活動に必要ない疑似人格など作動させるつもりは無かったが、この男のたっての願いとやらで仕方なく作動させているのだ』
「そんな、ただ言う事ハイハイ聞くだけのロボットの何が面白いのさ。こういうのは、それぞれ個性が無いと物語って生まれないんだよ?」
『残念だが、私には必要ない』
冷たく遮断するエギル。
彼も元々はアルカやフェイと同様のアルドラゴの管理AIの一人。だが、同じAIにも関わらず他のAIに対する情というものは彼からは感じられなかった。
「まあ、僕も君には強要するつもりはないよ。ただ、君たちにはかつてのお仲間と戦ってもらう事になるよ」
『わぁってるよ。命令にはちゃんと従うさ』
『………(コクコクと頷く)』
その様子に、アウラムは満足そうに頷く。
「ならよろしい。じゃあ、今後ともよろしく頼むよ~」
『フン』
大きく手を振るアウラムをエギルたちは冷めた目で流し、自分たちの拠点へと戻っていった。
それ見送ると、アウラムは自らの顔に仮面を取り付け、自身の中心に魔法陣を描き、その場から消失……転移する。
空間跳躍……それがアウラムが目覚めた特殊能力であり、その使用には消費魔力が大きく、多用できないというデメリットがある。
……というのは、真っ赤なウソであり、明確なデメリットは存在しない。
いや、魔力消費が大きいのは確かであるが、彼にはそんな消費など微々たるものと判断するほどの膨大な魔力がある。
そして、転移したアウラムが現れた場所は―――
「ソウジ!」
豪華な内装が施された広い部屋。
その部屋の主である一人の少女は、身に纏っていた豪華な衣装を脱ぎ捨て、現れたアウラムへと勢いよく抱き着いた。
「やあ、ディーナ……ってうお!」
まるで
仕方ないとアウラムも抵抗せず、しばしの間濃厚な接吻を交わしたのだった。
「あんな他人行儀みたいな話し方……寂しかった」
「ごめんごめん。でも、今は仕方ないさ。“皇帝”とただのイチ研究員の恋なんて、認められるはずが無いからね」
「そんなもの……私の権限で―――」
「そんな事に権力を使う必要はないさ。いずれ、僕は皇帝となる。そうなれば、君は僕の妻だ。もう隠れて愛を育む必要もない」
「うん、早く……早く貴方に皇帝の座を渡したい」
「それには十分な根回しが必要な事は分かるだろ? 心配しなくとも、そんな遠い未来の話ではないから安心したまえ」
「うん、私ちゃんと待ってる。……待ってるから」
そう言って神聖ゴルディクス帝国皇帝……ディーナはアウラムの胸に深く顔を埋めるのだった。
これが、尊大に振舞っていた若き女帝の本当の姿である。
だが、残酷な事に今のアウラムの台詞は真っ赤なウソである。
アウラム自身に皇帝の座はこれっぽっちも興味は無く、ディーナを愛する気持ちというものも存在しない。
ただ、裏から帝国という組織を動かすのに都合がよいから、皇帝の恋人を演じているに過ぎない。
彼にとっては、全てが物語を動かすための舞台装置と配役に過ぎないのだ。
ただ、面白い物語が描ければいい。
それだけが、アウラムの目的なのだ。
(さぁてケイ、ちょっと小休止を挟んだら、いよいよゲーム再開だよぉ)
仮面の奥でにんまりと笑いながら、アウラムは天を見上げるのだった。
~~あとがき~~
新しいサポートAI組登場!
外見は白フェイのバリエーションですが、中身は熱血少年と文学少女になります。
いずれアルドラゴに戻るのかどうかは、本編の続きをお待ちくださいませ。
次回、視点は主人公組へと戻ります。
ちなみに、神たちとの戦いはまだ終わってません。……早く終わらせたい。
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