221話 新たな聖騎士・拳聖・剣聖
「チーム・アルドラゴの者たちに対応すると言っても、その具体案は? これから全員でその天空島へ向かいますか?」
フォレストが意見をするが、皇帝は静かに首を横に振り、隣に立つアウラムが補足する。
「いえ残念ながら、天空島は既に場所を移動して、元の場所には無いそうです。元の場所から動いてしまえば、僕の能力でまた転移する事は叶わない。
それに、あの土地で戦う事はリスクが大きい。あの土地は、生物の魔力を吸収する仕組みになっています。特殊な体質である拳聖卿ならともかく、他の十聖者の皆様は戦いにくい環境かと思われます」
なるほど、だから拳聖卿が選ばれたのかと納得する。
となると、自分がもし一緒に行動していたとしても、大した事は出来なかったかもしれないとルミナは思った。
「ではどうするというのですか? 奴らが次の行動に移すのを待つと?」
再度投げかけられたフォレストの言葉に、今度は皇帝も答える。
「当然網は張る。だが、こちらも相応の準備というものが必要だ。特に、十聖者の穴を埋める必要がな」
全員、円卓にポッカリと空いた二席に視線を向ける。
「しかし、聖騎士と拳聖の穴……早々に埋められるとは思いません」
「いや、問題ない。既に候補者は用意している」
その言葉に、ほぼ全員が驚いた表情を浮かべる。
特に、聖機士ディオニクスは手を叩いて笑い声を上げた。
「おっとこいつはぁ驚きだな。十聖者に比較しうる強者が一気に何人も見つかるとは……」
皇帝に対して乱暴な口の利き方ではあるが、この男は特例で認められているので問題は無い。
だが、確かにこの男の言う通りではある。
十聖者クラスの力を持つ人間が、早々に見つかるとは思えない。
まさか、アウラム氏がその一人ではあるまいな……と思ってルミナが視線を向けると、当人はふるふると首を横に振る。
……違うようだ。
だとしたら、誰が?
「以前から協力を打診していたのだが、今回の件でようやく了承を得た。では、入りなさい」
皇帝がそう言うと、後ろにあった大扉が開き、中から三人の人影が姿を現す。
「お初にお目にかかる。私は技術開発部“長官”……エギルだ」
一人は、まるで血の色のような赤黒い髪の色をした長身の男であった。
険しい顔付きをしているが、なかなかの
「そしてこちらは部下の……」
後ろに控えていた少女のような外見の二人が前に出る。
「オレの名は“ガナード”……そんでもってこっちは声が出せねぇんでオレが紹介しよう。……“オペラ”だ」
一人は短く整えられた髪を鋭く逆立て、右腕にやたらとゴツイ装甲が取り付けられた少女。
もう一人は視界が完全に封じられたアイマスクと耳が完全に覆われたヘッドフォンを身に着けた少女である。
二人とも、背丈も顔立ちも似ている。……ひょっとしたら双子なのかもしれない。
だが、気になるのはその年齢だ。
どうしても、自分よりもずっと若い……せいぜい12~15歳程度にしか見えない。
「ハッ! 笑わせるな! 男はいいとして、残りは二人ともガキじゃねぇか!」
ドンッと机を叩いて吠えたのは、調子を取り戻したらしき拳聖ジークであった。
まぁ確かに、見た目の事でどうこう言える立場ではないが、見ただけでは納得できるものではない。
「んだとコラァ! オレらだって、好きでこんなボディな訳じゃ―――」
ガナードと名乗った少女が憤るが、それを手で制するエギル。
すると、皇帝が一歩前に出て口を開いた。
「三人の能力は私が保証しよう。それぞれ十聖者の名に恥じない力を持っていることは確かだ」
決定権は皇帝にあり、言われれば従うしかないのであるが、心情的に認めたくないのはほとんどの十聖者の本心だっただろう。
「ですが、陛下の言葉だけで認めるわけにもいきません。本格的に十聖者総がかりで戦いを挑むのならば、互いに背中を預ける事になる。やはり、実力は肌で感じなくてはならない」
そう言って席から立ち上がろうとしたフォレストを聖機士ディオニクスが制する。
「おっと待ったフォレストちゃん。ここは俺っちが見極めようじゃないの」
そう言い、ディオニスは懐から鉄の塊のような物を取り出した。
それをポイと巨大な円卓テーブルの中心に向かって投げる。すると、鉄の塊はガチャガチャと音を立てて、質量を増やし……形を変えて、やがて巨大な人型となったのだった。
これぞ聖機士たる由縁である。
彼は、機械の兵器……特にゴーレムと呼ばれる人型兵器を扱う事を得意としている。
「さぁさぁエギルちゃんだっけ。俺っちのゴーレムちゃんが相手だよ。その力……存分に見せて―――」
だが、ディオニクスがその言葉を言い切る前に結果は出ていた。
ディオニクスがゴーレムと呼んだ鉄の巨人は、胴体から斜めに真っ二つとなり、そのまま円卓の上へと崩れ去った。
対してエギルはと言えば何やら剣の柄のようなものを振り払った体勢のまま、微動だにしていない。
そして、僅か一瞬であったが、この場に居た十聖者のほとんどは、何があったのかを理解出来ていた。
エギルが軽く払った剣の柄より、眩い光……レーザーが放出された。そのレーザーを剣の形に収束し、ゴーレムを斬ったのだ。
レーザーソード……まるでSFみたいな武器をエギルは簡単に披露してみせたのである。
「……まだ、何か確かめる事があるか?」
エギルがそう言って周囲を見渡す。
一瞬ではあったが、パフォーマンスは十分と言えた。誰も、文句を言う者は居ない。
「あーあー、俺っちのゴーレムちゃんがぁ。いいよいいよ、俺っちからは以上」
ディオニクスが両手を上げると、フォレストが話を先に進める。
「なるほど。では、残り二人の実力を確認させてもらおう」
「俺っちはもうやだよ! じゃあ、ビスクちゃん頼むよ」
ディオニクスが隣に座る女性に話を振ると、当の本人は露骨に嫌そうな表情を作る。
「えー? めんどくさぁ」
ディオニクスも相当礼儀がなっていなかったが、この女性も大概である。
……だが、仕方ない。
十聖者の中には、手に入れた強大な力の代償として、脳内をいじられている者も多い。
だから、特例として無礼な口の利き方は見逃されているのである。
「ほらほら、陛下の前でしょ。ちゃんとしなきゃ!」
「そんじゃ、これで……」
取り出したのは、鈍く光る赤い小さな石……聖石と呼ばれる魔道具だ。
「って、それって低級魔獣でしょ? ダメだよ。仮にも十聖者の試験なんだから、上級程度の魔獣用意しないと」
「えー? 上級ってすっごいレアじゃん。もったいない! ヤダ!」
「ビスクよ。代わりは用意する。頼まれてくれるか?」
皇帝の言葉に、ビスクはしぶしぶといった形で頷いた。
「あーもう! んじゃ、オルちゃん行っといで」
まるでガチャガチャで手に入るようなカプセル容器を取り出し、それをポイと放った。
中から現れたのは、二つの頭部を持つ巨大な魔犬……魔獣……いや、聖獣オルトロスである。
中身は魔獣となんら変わりないのであるが、帝国が従えし聖なる獣という設定なので、あれはあくまで聖獣なのである。
「んじゃ、オレの出番かねぇ」
と言って前に出たのは、ガナードと名乗った勝気な少女の方だった。
グオォォォォと牙を剥き出しにして威嚇するオルトロスであるが、対するガナードは平然としている。
そして、右腕の装甲部分をポチポチと叩く。すると、その装甲はガチャガチャと音立てて形を変える。
質量保存の法則はどうなったのかと問いたくなるほどの巨大な機械の右腕がそこ出現したのである。
「雷撃……行くぜオラぁ!!」
自身に向けて突進してくるオルトロスに向けて、ガナードは拳を振りかぶった。
魔犬の顔面目掛けて拳が突き出される。
そのインパクトの瞬間、思わず目を見張った。
打ち込まれたのは、ただのパンチではなかった。
拳そのものが腕より外れ、凄まじい勢いでオルトロスを5メートルは離れた後ろの壁へと叩きつけたのだ。
これは、世にいうアレではないか?
「ロ……ロケットパンチ?」
隣に座るクロウが思わず呟いた。
そう、あれはアニメとかでよく見る腕そのものが飛んでいくパンチじゃないのか?
さっきのレーザーソードといい、出る作品間違えてんじゃないかって感じがする。
「ああん! アタシのオルちゃんがぁ!!」
壁に叩きつけられたオルトロスの頭部は見事に潰され、そのまま魔素となって空中に消えていった。
上級魔獣を一撃で粉砕とか、実力も相当なものであるようだ。
「いいじゃないの一匹くらい。アンタ、コレクション凄い持ってるでしょ?」
「だって、赤色のオルちゃんって後二匹しかないんだよ!?」
「それでも二匹あんのかい」
そう、何を隠そうこの女……聖獣士等と呼ばれているものの、その実態はただの魔獣コレクターだ。
本人の実力は大したことないにも関わらず、手持ちの魔獣……もとい聖獣の力だけで十聖者の地位にたどり着いた。
とはいえ、個人が使役できる聖獣はせいぜい1~2体が限界。それなのにこのビスクなる女は、一度に100体使役することが可能なのだ。
十聖者に選ばれるだけあり、やはりぶっ飛んでいる。
「という事で、実力は理解出来た筈。異議のある者は居るか?」
と、皇帝が周囲を見渡すと、おずおずといった感じでディオニクスが手を上げる。
「あー……どうしようか迷っていたけど、一応口挟ませてもらうぜ。武器からして、そこのお兄さんが聖騎士。元気のいい方の女の子が拳聖。
……なのはいいとして、もう一人の子はなんなんだ?」
その言葉に、視線が最後の一人の少女へと向く。
確かに、気にはなっていた。
空席が二席なのに、現れたのは三人。明らかに計算が合わない。
だが、同時にほとんどの十聖者は予想つけていた。
「決まっている。……剣聖だ」
「!!」
その言葉を聞いてジークは思わず席から立ち上がった。
表情は絶望に彩られている。
「剣聖ジーク……貴公のルーベリー王国においての失態は既に聞いている。本来ならば即処分対象であるが、貴公の師と自身のこれまでの功績に免じ、ここで試験を行う。
この場において、この少女と戦え。見事勝利を収めれば、地位は不動のものとする」
その言葉に、やはりか……と納得する。
世界各国の要人が集まる場所において、無様に負けるという姿を晒したのだ。
強さを誇示しなくてはならない帝国にとって、あってはならない醜聞だ。
それであっても、正式な入れ替え戦が行われるだけ、かつての聖騎士ルクスよりはマシと言えた。
「……な、舐めんなよ。この剣聖ジーク様がこんな口のきけないガキに負けるってのか?」
「ついでに言うと、オペラは目も見えねぇぜ。ま、それでもアンタ程度の相手は務まるだろうよ」
ガナードの挑発に、ジークは激昂する。
「ふざけるな! ガキが……その首、落とされても恨むなよ!!」
そう言ってジークは腰に収められていた剣を鞘から抜き放つ。
かつて持っていた大剣ではなく、普通サイズの日本刀だ。
「ル、ルーベリーの際は、武器が悪かったんだ。この分身たる愛刀……スサノオさえあれば、あんな優男に後れを取るはずも無かった。……そ、その筈なんだ」
大層な名前がついているが、特に変哲の無い刀の筈である。尤も、かなりの高級品で武器の質そのものはかなり上等である。
「ああもう、いいからとっととやっちまいな。ほらオペラ、だって可哀そうとか言ってんな。この身の程知らずの坊ちゃんに現実分からせてやんな」
盲目の少女は「はぁ」とため息を吐くと、何やら筒状の物を取り出した。
「え?」
思わずルミナの口から声が出た。
何を隠そう、その取り出した筒はルミナにとって見覚えのある代物だったのだ。
いや、ルミナだけでなくクロウやフォレスト、果てはジークまでも見覚えのある物だったはずだ。
それは、横笛……所謂フルートなる楽器だった。ルミナ自身、吹奏楽部の友人が使っていた物を見た事がある。
まさか、フルートはあくまでも偽装で、中に剣でも仕込まれているのだろうか……と思っていたら、少女は素直にフルートを口に当てて演奏の構えをし出したではないか。
「おい、これは戦いの場だぞ! 舐めるのもいい加減に―――」
「舐めてんのはそっちだろ。もう始まってるぜ」
「あ―――?」
カランと音を立てて、ジークの手元から噂の愛刀とやらが床に落ちた。
何故、落としたのかと疑問に思ったジークが視線を手元に向けると―――
「あ……アァァァァッ!!?」
刀を握っていた筈の5本の指が、刀と一緒に床に落ち、血だまりを作り上げていた。
「お、俺の指……俺の指がぁぁっ!!」
「オラオラ、まだまだいくぜぇ」
言っているのは対峙しているオペラではなく、その隣に立つガナードなのであるが、とにかくオペラ自身も追撃の手は緩めないようだ。
フルートから旋律が流れるたびに、スパスパとジークの肉体に切り傷が生まれていく。
恐らく、本気になれば指を切断したときと同様に骨ごと斬る事も可能なのだろうが、致命傷にならない程度の傷で済まされている。……せめてもの恩情のようなものだろう。
……やがて、血を流し過ぎたのか、ジークはその場にバタリと倒れ伏した。
一応死んでいない。
「……で、とどめ必要か?」
ガナードが確認の為に皇帝陛下を窺うと、陛下は首を横に振って宣言した。
「見ての通り、新たな剣聖としてオペラを認める事とする」
オペラはフルートを仕舞って皇帝陛下に向き直ると、深く頭を下げた。
しかし、あれが剣聖でいいのだろうかという疑問は残る。確かに斬ってはいるけど、剣ではないし……。
まあ、皇帝陛下が剣聖と認めたのだから、自分が何か言う事ではないとルミナは思う事にした。
~~あとがき~~
随分と間隔が空いてしまってすみません。
夏ぐらいから、またしても体調に問題が出たりと色々ありました。
その影響で最近転職したりもして、環境に慣れるまで随分と時間がかかってしまいました。
また、細々とですが続けていきますので、どうかよろしくお願いします。
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