80話 新生チーム・アルドラゴ



 そう言えば、自分の船……いや艦だというのに、空を飛ぶ姿というのを目にするのはこれで二度目だ。

 何度見ても雄々しき姿である。……思い返すと、真横と真上からしか見た事が無いな。上にも乗ったことがあるけど、じっくり見る暇は無かったし。

 あれがここに来たという事は、別行動中のアルカが上手くやったと言う事なんだろう。一ヶ月前のカオスドラゴン戦より飛ばしていなかったから、ちゃんと飛ぶか不安な部分もあったんだが、取り越し苦労だったか。


「先生後ろ!!」

「何?」


 ミカの声によってようやく気付く。

 振り返ると、そこには巨大な影……いや、倒した筈のデュラハンが立っていた。


「なんじゃこりゃあ!?」


 それを見て、この中で最も魔獣を見ている筈のブローガさんが驚きの声を上げる。

 そう。よく確認すると正確には倒したデュラハンでは無かったのだ。


 三体の倒したデュラハンが鎧を組み合わせて新たなデュラハン……と名称していいか分からないが、とにかく別の魔獣として復活したのである。

 復活したデュラハンは、背丈は通常と同じであるが、その胴体部からはまるで阿修羅のように腕が6本出現している。また、バラバラになった足の鎧を利用したのか、腰からは尾のような物まで確認できる。

 首が無いのは変わらないので、なんとも奇怪で恐ろしい外見の魔獣となっていた。


 ギギギ……と鎧を動かし、再生リボーンデュラハン(仮)がその六本の腕を持ち上げる。いつの間にか、その手には6本の剣が握られていた。復活する前にデュラハンが持っていた大剣とは違う、普通サイズの剣である。


 おいおい。こちとらスーツのエネルギー尽きかけているし、ヒートブレードは刀身が溶けちまっている。

 そんな状況で敵がパワーアップとかどんなイベントだこれ!!

 ここまでくると、倒されてもこうして一体の魔獣として蘇る仕組みだったのではと思わされる。帝国が作り出した魔獣という事だから、恐らくはそうなのだろう。


 とりあえず、急いで別の武器を……と、アイテムボックスへ手を突っ込んだ瞬間、上空より白いもやの塊のようなものが降ってきて、再生デュラハン(仮)へと命中する。

 その靄の塊が命中した途端、再生デュラハン(仮)の身体は白一色に染まり、6本の刀身がこちらに向けられる前に動きを止めた。

 あの靄は、冷気魔法だ。それによって、一気に全身が凍りついたのだ。


 これは冷気魔法……まさか……


『何やってるんですか、ケイ……じゃなかったレイ!! 全く、私が居ないと相変わらずダメダメですね!』


 聞き慣れた声がする。

 何処か嬉しそうな顔で空から降ってきたのは、やはりアルカだった。


「ダメダメって……まあ、助かったよ」


 他に武装はあるから死にはしなかったと思うが、アルカが近くに居ると分かると、安心感がドっと増すな。

 俺はアイテムボックスから高周波カッターを取り出し、アルカもアルケイドロッドを取り出した。

 そして、同時に目の前の凍りついたままの再生デュラハン目掛けて、カッターと鎌モードとなったアルケイドロッドを振り下ろす。

 再生デュラハン(仮)は縦に三分割され、今度こそ魔素となって空気に溶けていく。思えば、最初に倒した際にそれをきっちり確認していなかった。

 いかんいかんと俺は首を横に振る。体力と精神的な疲れ……それプラスアルドラゴに見惚れていたという事だ。意識が散漫になっているな。しっかりしろ、ここはまだ戦場だ!


 まぁ、今はアルカが居る。俺の足りない部分はアルカが補ってくれるだろう。それだけの信頼感がアルカにはある。


「せ、先生……」

「ん……どうした?」


 唖然とした顔でこちらを見ているミカ。何か言おうとしたつもりだったようだが、そのまま口を閉ざしてしまった。……むぅ、問い質すわけにもいかないが、何が言いたかったのだろう。


『リーダー!!』


 そう言ってガシャンガシャンと音を立てて現れたのは、ゴゥレム《タウラス》を着込んだルークだった。


「おう、そっちは大丈夫だったか」

「うん。爺ちゃんを連れ去ろうとした奴等は全部蹴散らしておいた!!」


 今のルークを見た事のないハンター達は一体何が現れたのかと騒然としたものの、俺が平然と話している様子を見てアレも仲間なのかと理解したようだ。

 そして、もう一人……いや、二人か。

 俺たちの元へ近づく人影があった。


「ゲイルさん……」


 フェイ嬢に肩を貸してもらってやっと歩いている状態のゲイルさんが、こちらへやって来た。

 長身の美青年と銀髪褐色の美少女の出現によって、また他のハンター達がざわめきの声が聞こえる。


 あぁうん。改めて見ると、やっぱエルフだけあってゲイルさん超イケメンっすわ。男から見てもドキッとする色気があるね。


「あの聖騎士やその仲間はもう去ったようだな」

「あ……いえ、俺……その事でゲイルさんに言わなくちゃ行けないことが……」

「いや、今はいい。とにかく、今は人手が必要だろ?」


 ライトニングボウを構えて、ゲイルさんはニヤリと笑う。


「え……人手?」

『レイ、さっきよりも魔獣の数が増えています』

「……は?」


 そこで俺は辺りを見渡してみた。

 あれ? これだけのハンターが総出で戦って、もう残りは10体も居ないと思っていたのに……いつの間にか俺が戦いを始める前と同程度の数に戻ってない?


『どうも、帝国の連中が去り際に例の聖石とやらをまた使ったようですね。完全にこの国を脱出するための時間稼ぎといった所でしょうか。……後、嫌がらせの意味もあるかと』


 ゲイルさんの隣に立つフェイ嬢が冷静に分析する。

 嫌がらせか……あの変態不死身騎士ならやりそうだな。


「わ、悪いけど……僕達もう限界だよ」


 セージさんが荒い息を吐きながら言った。

 同じように、ここに集まってくれたハンター達のうち、ブローガさん以外は肩で息をしている。確かに、もう体力の限界といった様子だ。そりゃそうだ。ハンターの仕事の中でも、これだけの魔獣の群れと戦う事なんてそうそう無いだろう。

 ミカとジェイドは立ち上がって武器を構えようとしているが、その動きはやはり鈍っている。このまま戦わす訳にはいかないな。


「皆ありがとうな。……後は、俺たちのチームがやる」


 俺はジェイドの肩を叩くと、当然ながら食って掛かって来た。


「後は……って、あれだけの数だぞ!? 素直に王国側の兵士や騎士団を待った方が良いだろ!!」


 ああうん。その方が良い事は事実なんだけどさ。

 王国側とあんまし関わりたくないから、やるならさっさと終わらせて帰りたいのよね。幸い、上空にアルドラゴが陣取っている今なら、王国側の騎士団も対処に困っている筈。

 もう、戦い方とか武器のテストとかは考えず、思いっきりぶっとばしちまおう。


「じゃあ、ゲイルさんは無理せずに狙撃に徹してください。フェイ……さんは、どうするんです?」

『私はこの場でゲイルさんを守りましょう。それならば、ルール違反にはならない筈です』

「あぁ、直接俺達を助けちゃいけないとか、そういうルールがあるんですね。それなら了解です」


 間接的にとは言え、手助けしてくれるのなら有難い。

 だったら、俺達はゲイルさんの事は心配せずに魔獣の中心に突っ込んでも問題は無いな。


 ……あれ。今の状況って何気にチームになってない?

 俺、アルカ、ルーク、ゲイルさん、フェイ嬢。

 色合い的にも赤・青・黄・緑・白と、まるで日曜の戦隊ものみたいなチーム編成だが、今の状況がなんだか嬉しい。さっき、知り合いのハンター達が助けに来てくれたのとは別の嬉しさだな。


「ようし、新生チーム・アルドラゴ! レディ・ゴー!!」


 俺が意気揚揚とそう言い放った後、小さな声でフェイ嬢が、


『私は違いますけど』


 と、注釈が入った。いいじゃんか別に。




◆◆◆




 レイジが言うところの新生チーム・アルドラゴの戦いが始まり、それを見た誰もが言葉を失った。

 この場にはもうレイジの知り合いばかりではなく、騒ぎを聞きつけた他のハンターチーム、生き残りの住民達、そして駆けつけた王国の兵士……騎士達が揃っている。

 その誰もが、ただ唖然とした顔つきでその戦いを見守っていた。


 まるで、神話の戦いの再現である。


 まるで猛牛を思わせる鋼の巨人が先陣を切り、ドシンドシンと大地を踏み鳴らして魔獣の群れへと突進する。

 同サイズのオーガを体当たりや拳の一発で粉砕し、飛びかかるホブゴブリン達を掴んでは地面に叩き付け、他のホブゴブリンへと投げつける。

 魔獣達が巨人に近づく事を恐れるようになると、巨人は大地に向けて拳を打ちこんだ。すると巨人の周りの大地は巨大なトゲのような形に隆起し、距離を取っていた魔獣達を串刺しにしていくのだった。


 同じく飛び出した赤い鎧の剣士と青い衣の魔術師……いや魔女は、抜群のコンビネーションでもって魔獣を殲滅していく。

 赤い剣士の剣の一振りで数体のホブゴブリンが一刀両断され、その背後で魔女が巨大な鎌のような物を薙ぎ払うと、同じような形で消滅する。

 二人はまるでワルツでも踊るように円を描きながら剣と鎌を振るっていった。

 互いに敵との距離が開くと、剣士は掌から光弾のようなものを、魔女は水で作った槍のようなもので中距離から敵を屠っていく。


 その二人を狙うべく空からハーピーとワスプが狙う訳だが、その群れも瞬く間にどんどん姿を消していく。

 それをやってのけたのは、崩れた時計塔の上で弓を構える青年だった。

 最も、構えてはいるが矢を射っている姿は確認できない。その瞬間を捉える事が出来たのは、ハンター達の中でもブローガだけであろう。

 青年が弓を向けている空に存在している魔獣達はどんどん姿を消していくし、その青年を狙おうとしている魔獣までも倒されていく。

 だが、青年が狙うのは空を飛ぶ魔獣だけだ。下手に地面の上を動く魔獣を狙うと、他のチームメンバーの動きを阻害しかねない。

 そんな青年を先に始末しようと、ホブゴブリンの集団が時計塔を目指していた。


 その時計塔の下にたたずむ一人の少女。

 このままでは少女が魔獣の餌食になってしまう! 事情を知らない他のハンター達が思わず駆け寄ろうとしたが、次の瞬間その動きを止める事になる。


 少女が一瞬にして銀色の狼へと姿を変えたのだ。

 銀狼は目に捉えられぬ程のスピードでホブゴブリンの集団へ接近し、その鋭い爪と牙で容赦なく切り裂いていく。

 その後も、青年に接近する魔獣はそれを守護する銀の狼によって殲滅させられたのだった。



 ミカとジェイドは己を恥じた。

 二人がかりでデュラハンを倒すのにあんなに苦労したのだ。それなのに、こんな戦いを見せられて自分達が同じチームで活躍できる筈もない。


 それに、新しいチームメンバーらしき青年と少女の力にも驚いたが、何より二人の目に映ったのは、レイジと共に肩を並べて戦うアルカの存在だった。

 正に阿吽の呼吸と言うか、互いに目配せすらせずに抜群のコンビネーションを発揮している。以前、レイジはアルカの事を最も信頼のおける相棒と称していたが、その言葉が何よりも証明していたのだと気づかされた。


 今の自分ではあそこには立てない。

 特にミカは思い知った。

 もっと……もっと努力しなくては。


「負けられない……」


 思わず口から言葉が漏れていた。

 レイジとアルカの戦いを見て、初めてアルカに対して敵対心というか対抗心みたいなものが芽生えた気がする。今までは、ちょっと前に会った獣族の少女が言っていたように、敢えて見ないようにしていたのだ。

 だが、今はっきりと認識した。

 強敵であるが、あれに立ち向かわなくてはいけない。その為にも、もっと強くならなくては! そして、もっとレイジの事を知らなければ!!


 人知れずミカがそんな決意をしていた時、一人のハンターが声を上げた。


「見ろ! あのドラゴンに動きがあったぞ!!」


 その声に反応してこの場の全員が空を見上げる。

 確かに動きがあった。

 今まで上空に留まっているだけだったドラゴンが、ゆっくりと降下を開始したのである。


 まさか、ここに降りるつもりか? 住民達は慌てて逃げ出し、ハンター達も警戒するようにそれぞれ構える。逃げた所で、あの巨体だ。あまり意味は無いだろう。

 それにしても、近づくとその巨大さがより実感できる。普通のドラゴンの3倍程度はあるのではないだろうか。

 そんな事を思っているとドラゴンの動きがまた止まる。

 ドラゴンの眼下には、あの帝国の騎士が倒したと言うドラゴンの死体があった。ひょっとして、あれが目的なのだろうか。

 やがて、折りたたまれていたドラゴンの腕のようなものが伸び、真下にあるドラゴンの死体を優しく持ち上げる。

 ぐったりとしたドラゴンの身体を落ちないように固定すると、再び天に向かって上昇を開始するのだった。


 それを見た王国の騎士達は、「あぁ……」と声を漏らし愕然とした顔つきとなった。

 ドラゴンの死体が手に入るのならば、王国側からすれば、これほどの被害を受けたとしても大金星だった筈だ。だが、実際は別ドラゴンが現れ、その死体を持ち去られていく。そのなげきようも理解できると言うものである。


 そして、豆粒ほどになるまで上昇したドラゴンは、凄まじいスピードで視界から一瞬にして消えたのだった。


「あれ……?」


 視線をまだ戦っている筈のレイジ達へ戻すのだが、そこには彼等の姿は無かった。

 魔獣達は確かに殲滅されていて彼等が戦っていた辺りには魔石がゴロゴロと転がっている。見れば、時計塔に陣取っていたあの青年や銀狼の少女の姿も無い。

 一体、どこに……?


「あぁ、アイツ等なら仕事は果たしたから帰るってよ。ここに居たら、面倒な事になるから逃げたんじゃねぇの?」


 ブローガの言葉を聞き、この場に居たほぼ全員が声を揃えて言った。


「なんじゃそりゃ!!」


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