77話 アイテムコレクター
俺は、サッとこちらを取り囲んでいる魔獣の群れの種類を確認する。
ほとんど初めて見るタイプだ。
アルカが作った魔獣のデータベースと照合開始。
えーと、まず陸上タイプから。
ホブゴブリン。
低級。見た目ゴブリンによく似ているが、体色が黄色っぽく体格も2メートル近くあり、大体成人男性と同程度だ。通常のゴブリンよりも1.5倍程度でかい。
オーガ。
低級の上位クラス。いわゆる鬼で、ホブゴブリンよりももっとでかく大体3メートル程度の体躯。灰色の体色に巨大な一本角を有している。
デュラハン。
こいつだけ中級だな。馬には乗ってないが、巨大な剣を持つ頭の無い鎧騎士だ。ただ、体格はオーガ並にでかいぞ。
他は10体以上居るのに、コイツだけ3体しか居ないな。
続いて空中タイプ。
ハーピー。
伝説上は顔から胸までが人間の女性で、翼と下半身が鳥と言われているが、こっちの世界では人間っぽい身体があるだけで女では無いな。
ワスプ。
まんま、でっかい蜂である。でも、あんまし虫っぽさを感じなく、蜂のロボットみたいな風体である。
ちなみによく見ると顔の部分だけ人間みたいな口がある。蜂にもちょっとしたトラウマがあるが、これなら比較的平気だな。
以上の5種。
だけども、その数は3桁以上にも及ぶ。
ううむ、ここまでの魔獣の群れっていうのもなかなか遭遇出来るものじゃないだろう。あれだ、雰囲気としては無双系ゲームのような感じである。あんな感じで画面……というか視界全体に所狭しと魔獣がひしめいている。
さて、アルカは一時的に別行動。ルークは人命救助及びゲオルニクスさんの遺体の警護。んでもってゲイルさんはダウン。フェイ嬢は現状敵か味方か判断つかないから、今は味方として勘定しない方が良いな。
という事で、久々のたった一人の戦いである。
以前だったら、これだけの魔獣に囲まれているという事実も、アルカが傍に居ないという事も恐ろしくて仕方が無かったであろうが、今は大した脅威も感じない。
これもアルカが言うところの、少しは強くなったおかげという事なんだろうか。
まあ、なんとかやってみるとしましょう。
さっきの戦いでは、ほとんど装備している新アイテムを使用しなかったから、テストも兼ねて色々試してみましょうか。
あ、でもその前に……
「戦う前に質問。君らの中で、まさか人間が変化しているとか、魂は人間だとかそういう奴って居ないよね? もしいたら、後ろの方で引っ込んでいてもらえると……」
「「「「グギァァァッ!!!」」」
俺の一番近くに立っていたホブゴブリンの集団が、血走った目で威嚇しながらこちらに襲いかかってきた。
……あぁ、さいですか。
一応、あんなクズみたいな騎士どもを有している国の事だから、人間を魔獣に変えたとかそういう人体実験をやっている可能性を考えたんだが……。
まあ、この際その事は考えないでおこう。魔獣相手に殺さないで勝つとか難しいし、今はただの魔獣だと思う事にしましょう。もしそうだったとしても、その時はその時……。後々あれこれ悩みそうだけど、今は無視しておこう。
よし、まずは一体一体相手するのも大変だから、一発大技で蹴散らすか。
新装備の一つである両肩のアーマーがカパッと開く。中から現れたのは、小さいながらも何重にも重なった風車である。
「ストームブラスト!!」
その言葉をきっかけとして風車が回転し、その風車の大きさからは考えられないほどの風が巻き上がる。
俺に飛びかかろうとしていたホブゴブリン達はその突風によって吹き飛び、後ろに居た他の集団を巻き込んで倒れていく。
勿論、このストームブラストはあくまで牽制用。魔獣を倒すほどの力は持っていない。
「トルネードブラスト!」
二つの風車の向きが変わり、発生した風が重なり合う。すると、それは巨大な竜巻へと変化する。真横に発生した竜巻が、魔獣の群れへとぶつかり、その風の渦に巻き込まれていく。
竜巻によって互いにぶつかり合い、風の刃によって身体を切り刻まれ、10数体の魔獣が早々に消えた。特に、外皮の弱いハーピーの半分近くを仕留める事が出来たみたいだ。
よっしゃよっしゃ。
続いて空の敵をもうちょい減らそう。
背中のアタッチメントに取り付けられていたバックパックが展開し、まるで赤い翼を思わせる装備が出現した。
見た目は翼っぽいんだけど、翼では無い。ジャンプブーツと併用すれば飛んでいるようにも見せる事も出来るけど、残念な事にこれ自体に飛行能力は無い。
これの本来の役割は……
「フェザーエッジ!」
目で空に居る敵を次々とロックオン。そして、ウイングに取り付けられている羽根型の刃……いわゆる手裏剣が自動的に射出されていく。ただし刃は実体ではなくエネルギーブレードである。だけどもこれが標的に命中すると……
空中からこちらを襲うチャンスを窺っていたハーピーとワスプにフェザーエッジが次々と命中していく。
そして、命中した途端にボンボンボン……と大爆発を起こしていった。
要は、追尾式ミサイルと同義のものである。でも、ファンタジー世界観でミサイルとか使いたくないよねって事で、このような形になりました。
ロックオンについては現状一度に30体までが限界。一度使うと、冷却処理に約10分間使用不能になっている。
まぁこれで全体の3割くらい減ったから、後は接近戦でもっと仕留めていくとしましょう。
フェザーエッジをバックパックに収納し、ゆっくりと目前の魔獣達へと歩を進める。
ここまでくると、さすがに魔獣達も警戒しているのか本能のままに襲い掛かってくるという事はないな。さて、こちらもどうするべきか……。
ファイヤーブラスト、ハードバスター、ブレイズアーム等の高火力武器は今の所封印しておこう。ほぼ廃墟だけども一応街中だ。二次災害で怪我人が出る恐れもあるしな。
となると、やはり接近戦か。ヒートブレードや高周波カッターでもって無双乱舞してもいいんだが、なんか味気もないし……。
「よし!」
決めた。こうなったら、子供の頃ごっこ遊びでやっていた格闘ゲームなんかの必殺技とかを実践してみるとしよう。
動き自体はデータとして頭に入っているし、スーツの力があればなんとかなるでしょ。
まず、ジャンプブーツでもって高く跳躍し、空中で身体を縦回転させる。空中で縦に高速回転とか、実際メダリストでもできねぇよと思っていたが、スーツとアイテムの力を使えば出来るもんなんですね。
そして、そのまま遠心力を利用して勢いをつけ、魔獣の群れの中心目掛けて落下。とりあえず、真下にいた一体のオーガに渾身の踵落としを食らわせた。ルクス戦では使用しなかったが、靴の裏と拳に電撃が付与される装備……エレクトロショックパーツが取り付けられている。
よって、電撃を纏った高速回転の踵落し……名付けてローリングサンダードロップが炸裂したのだ。
……当然、直撃を受けたオーガは完全粉砕され、真下にあった瓦礫の山は吹き飛び、ちょっとしたクレーターみたいなものが出来上がった。ついでに数体の魔獣も巻き添えで吹き飛んだ。……一応、周囲に生き埋めになったままの人とかの反応が無い事は確認済みだったけど、とんでもねぇ威力だこれ。もう使わないでおこう。
続いて傍に居たホブゴブリンの頭部を蹴り飛ばす。その蹴り飛ばした体勢のまま
有名格闘ゲームの特に有名な三大技の一つだが、俺の場合はスピニングダッシュとでも名付けるか。
他に3メートルはあるオーガの巨体を駆け上がるかのように頭部を蹴りあげてサマーソルトをやってみたり、残像が見える程のスピードで拳や蹴りの乱打を浴びせたりと思いつくままに技を披露し続けた。
結果、ほとんどの敵は一撃で沈んでいった。
さて、次はどうするか……威力がありすぎるのも考えものだな。
とりあえず適当に殴ったり蹴ったりを繰り返して魔獣どもを倒しながら考えてみる。
ホブゴブリンもオーガも特殊能力の無い人型タイプだから、特に気を付けるポイントが無いから楽だ。そんな事を思っていると、上空より敵意みたいなもんが放たれた。
危機察知能力でもってそれに反応し、放たれた物体をバリアでもって次々と弾く。そして、最後の一つを空中で掴み取って見せた。
……ぶっとい針だった。
チラリと上空を見てみると、ブーンという音と共に数体のワスプが旋回している。これの正体は、奴の針か。詳しく知らないが、ワスプは針を飛ばして攻撃したりも出来るようだな。
そういや、まだ空中の敵は殲滅しきれていなかったか。むき出しの後頭部を狙われない限りダメージは受けなさそうだが、上から狙われているというのはあまり気持ちよくない。先に上から攻めるか。
さて、アイテムを使用しない素手での攻撃で上空の敵を対処するとなると……
俺の頭に幼い頃にプレイした赤い帽子の配管工が主人公のアクションゲームが思い浮かぶ。……よし、これで行こう。
俺はジャンプブーツでもって跳躍すると、さっき俺を狙ったワスプをロックオンし、もう一度空中で跳ぶ。そして、そのワスプ目がけて落下しキック……いや、思いっきり踏みつける。渾身の力で踏みつけたので、ワスプの身体は粉砕された。続いてその踏みつけた反動でもってもう一度跳び上がり、更に別のワスプ目がけて落下。
踏みつけてその反動でジャンプ、踏みつけて反動でジャンプを繰り返す。
どうだ、無限1upである。まあ、現状は有限なんだけど。おかげで、ワスプは全部倒せたぞ。
よし、これで半分以上は消費できたな。
ただ、いい加減疲れて来た。体力的にはそうでもないが、やはりこれだけの敵に囲まれてひたすら倒すだけの作業というのは、精神的にしんどくなってくる。まとめてガーッと倒せる大技が使えないってのがネックというのもあるからな。
あぁもう、なんか考えるのも面倒になって来たから、残りは剣で倒すか……
……と思っていたら、接近する生体反応みたいなもんがレーダーに映る。こちらに敵意がある場合が反応が赤く表示されるとの事だが、それはなく緑表示のままだ。
何者―――
「レイジ―! 俺が来てやったぞ!!」
飛び込むようにやって来たのは、髪の毛は短く刈り上げ、左頬あたりに稲妻を思わせるタトゥーがあるヤンキー……ジェイドだった。
「顔は見えないが、レイジで間違いないよな。何か言え、ホラ」
ああ、そう言えばバイザーとフェイスガードが顔を覆ったままだったか。俺はバイザーを上げ、ジェイドに視線を合わせる。
「お前……なんで?」
「あぁ? だから、助けに来たって言ったろ。俺だけじゃなく他にも居るぜ」
ジェイドはニヤリと笑って背後を指し示す。
すると少し遅れて、ユウとヤン。続いてブローガさんまでやって来た。
え? マジで俺なんかの助っ人に来てくれたんすか? なんか嬉しさで口元が吊り上っているぞ。フェイスガードしていて助かった。
「つーか、もう結構減っているな。助けに来る意味もあんまし無かったか」
周りの様子を見て、ブローガさんが言う。足元に魔石がボロボロ落ちているし、地面に倒れてゆっくりと消えていく最中の魔獣とかも見えるもんな。
「いえ、さすがに数が多かったんで助かります」
本音である。大技が使えないせいもあって、それなりに疲れてきたところだったからな。何はともあれ助っ人は嬉しい。
「それにしてもアニキ凄いですね。これだけの魔獣を一人で相手してたんですか」
「でも、なんで街中に魔獣が居るんですか? 確か、帝国の騎士とかと戦っていたんじゃ?」
あ、アニキって呼び名まだ続いてたんですか。とは言え、今はゆっくりと説明している暇は無いからな。
そう返事しようと思ったら、
「おい、今は魔獣の殲滅が先だ。詳しい話は終わってから聞かせてもらうぞ」
ブローガさんが先に行ってくれた。その言葉に三人は頷く。
そして、残り50体程度は居る魔獣達を睨み付けた。魔獣達は、警戒しているのか一定の距離を保ったまま仕掛けてこないな。
「へっ! 今日は仲間の美人や子供はどうしたんだ?」
「いや、今は野暮用で外している」
「なら、お前の相棒は俺が担当しよう」
ジェイドが何故か嬉しそうに俺の隣に立つ。
そこへ、
「いーやっ! 先生の隣は私が立つんだ!! お前は引っ込んでいろ!!」
割り込む声がした。
というか、俺の事を先生と呼ぶのって一人しか居ないよな。
俺の右隣にジェイドが立ち、その反対側から声がした。視線を向けたら、やはりそこには見知った顔の女の子が立っていたのだった。
「ああミカ、君も来たのか」
まさか、こんなに早く再会出来るとは思わなかったぞ。……正直、色々あったせいで存在を忘れていたのは事実なんだが、この状況で来てくれた事は素直に嬉しい。
「せ、先生! 私は……」
「なんだてめぇ! ここは女の来る場所じゃねぇってんだ! お前の方こそ引っ込んでいろ!!」
頬を紅潮させて何か言おうとしたミカの言葉を遮って、ジェイドが怒鳴る。
すると憤怒でミカは顔を別の意味で真っ赤にし、怒鳴り返した。
「お、女だと!? お前も見た目で女を弱者だと決めつける男か! 先生の知り合いかもしれないが、聞き捨てならないぞ!!」
「うるせぇ! 大体、先生先生っていつから弟子になったってんだ。俺は、コイツがハンターデビューした時からの付き合いだぞコラ」
「デ、デビュー時代からの付き合いだと!? ま、まさかお前も先生の事を……ふ、不潔な!!」
「て、てめぇ! 絶対何か勘違いしてやがるな! おいこら、こっちの話を聞きやがれ!!」
なんか、俺そっちのけで盛り上がっていらっしゃる。
二人とも性格は、強気で思い込みが激しく、そして打たれ弱いタイプだかんな。戦友のように意気投合するか、
でも、何気に息は合っているし、このままコンビ組んでもいいんじゃね? とは思うな。
「あの……一応僕達も居るんだけど」
申し訳なさげな声に、背後を振り返る。
そこに居たのは、チャラい感じの優男と2メートルはある巨漢の男。ミカと同じチームの二人……セージとドルグだった。
セージはキョロキョロと辺りを見渡し、
「あの……アルカさんは居ないんですか?」
と尋ねてきた。
「ああ、今は野暮用で別行動中だ」
と言うと、あからさまにがっかりとしてみせる。そんなに会いたかったんだろうか?
「そうですか……そりゃ残念。それにしても、さっき遠くから戦いを見させてもらいましたが、凄まじかったですね。あれも魔道具の力とやらですか?」
「まぁ、そうだな」
そう答えてから気付く。
ん?
ちょっと前までは目立った魔道具……っていうかアイテムは使ってないぞ。主にアイテムを駆使して戦っていたのは、最初期の戦いだ。って事は……
「お前、ほぼ最初から見ていたな」
俺の指摘に、セージはビクッと身体を震わせる。そして、目を逸らした。
恐らく、俺の力を観察するつもりだったな。それで、いい加減劣勢になったら助っ人に来て恩を売るとかそういう魂胆だったんだろう。
まぁ結果的に劣勢にはならなかったし、それよりも先にジェイド達が現れたから急いで飛び出したって所か。
「まぁそう怒るな。しばらく様子を見ようって言ったのは俺も一緒だからな。まぁ、このままだと全部倒されちまうと思って飛び出したのは事実だが」
ガハガハとブローガさんが窘める。
アンタも共犯かよ!
「す、すみませんレイジ君……」
ペコリと頭を下げるセージ。怒るつもりもないが、随分としたたかな奴だと思う。
「いや、別に良いよ」
今更見られて困るものでもないしな。俺がそう言うと、セージは顔を明るくさせて言葉を繋げた。
「しかし本当に凄まじい戦いでした。色んなアイテムは次々に取り換えて……正に、アイテムマスターと言った所でしょうか」
「いーや、コイツの場合、アイテムコレクターって所じゃねぇか? なぁ」
と、ブローガさん。
アイテムコレクター……か。なるほど、マスターって言う程使いこなせている訳でも無いから、コレクターは正しいかもな。
俺も遂に異名持ちって事かな。なんか嬉しいぞ。欲を言えば“赤い~~”とかそういう異名が良かったが。
未だ口喧嘩を続けているジェイドとミカ。そしてブローガさん、ユウ、ヤン、セージ、ドルグ。
俺が知り合ったハンターチームが集結したって事か。
さっきまで一人で戦っていたせいか、今の状況が凄ぇ嬉しい。何か、この国でハンター活動していた事が無駄じゃなかったと思えるな。
さて、これだけ仲間が居たらなんとかなるだろう。
最終ラウンド再開と行こうか!
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