第46話 運命を感じた瞬間 4
義母は容赦なく「昔みたいに」を連呼した。
友加里と貴一郎が職場を通じて知り合った縁で、友加里が義母に華道を教えて貰うことになったのだと貴一郎から聴かされたことがあった。
義母が言っているのは、その当時のことなのだろう…
友加里の武勇伝的なエピソードは、貴一郎からよく聞かされていたので、会わずとも知っていたが、義母が友加里を気に入っていたことは、貴一郎と結婚するまで全くと言っていいほど知らされていなかった。
そこは、恋愛関係にあった私に心配をかけまいと、貴一郎が話しをしなかったのだと私は私なりに解釈していた。
「あの頃は友加里ちゃん連れて、食事に行くのが楽しみで…願わくば貴一郎の相手に…なんて、私の夢だったんだけどね」
義母の言葉が更にエスカレートし、私への完全なる嫌味へと変わっていく。
それを見兼ねたのか、友加里が絶妙なタイミングで笑い出した。
呆気にとられた義母は、「どうしたの?」と友加里に問いかけるも、友加里は暫く笑うことを止めなかった。
ひとしきり笑った後にニッコリと笑みを湛え、義母にこう言ったのだ。
「だって、藤江先生…貴一郎は運命の人じゃなかったから」
「運命の人…?友加里ちゃん、あなたってそういうこと信じる人なの?」
「そりゃ~、女ですもの。未だに信じてますよ。私の運命の人は誰なのかな~って」
少女のように笑う友加里を見ながら、私は一緒に働いていた頃の友加里の口癖を思い出した。「運命の出逢い、ないかしらね~」そう彼女は、耳にタコが出来るんじゃないかって言うくらい言っていたっけ…
当時の私は、友加里の口から出る「運命」という言葉が安っぽく感じられて、「あるよ、きっとあるから」なんて軽く返事をしていたことを思い返していた。
「ね~?茜。運命ってあるよね?」
突然、私に振ってきた友加里の口から出る「運命」は、やっぱり安っぽく感じられた。
しかも、心の準備も出来ていない私にすがるような目を向けられても、すぐには言葉が出てこなかった。
「まぁ、そういうのを信じるのが友加里ちゃんらしい可愛らしさって言うのかしらね。でも、茜さんはそういうのは信じないタイプなんじゃない?返事に困ってるみたいだから」
義母の言葉に私の胸がズキリとなった。
確かに今まではそうだったかも知れない…
「運命」なんてそうそう自分の身に起きることだなんて思ってもみなかったのだから…
しかし、「運命」を少なからず感じてしまった私には、義母の言葉に妙な反発心を抱いてしまったのだ。
「いえ、あると思います」
そう言ってしまって、私はハッと口を両手で押さえ込んだ。私の言葉に目の前にいる義母と友加里が驚いた顔をしたのが目に映ったからだった。
「ふぅ~ん…やっぱり運命ってあるわよね?茜」
「あ、…うん」
私の言葉に食いついてきた友加里が、私の顔を覗き込む距離が近すぎて私の返事は尻窄みになっていた――
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