第27話 親友 2
「まぁ~、友加里ちゃんったら…私がまるで茜さんを虐めてるみたいじゃない」
そう言いながら私を追い越して、義母は玄関の中に入っていった。
私と違って友加里に対しては、声のトーンさえ違うことに改めて気付いた。
貴一郎と私の結婚が決まる前までは、友加里を貴一郎のお嫁さんにしたかったのだと義母から直接、聞かされたことを思い出した。
「相変わらず、大変ね」
玄関の小上がりに腰掛けて靴を脱ごうとする私の耳元で、友加里が囁いた。
友加里のつけた甘い香水の香りが、ふわっと漂ってきて、香水も何も付けていない私の躰を包み込んだ。
「友加里さん、相変わらずいい匂い…」
友加里から囁かれた言葉の返事を誤魔化すように、私は呟いていた。
リビングに入ると、テーブルに二つのティーカップが並べて置かれていた。
早くから友加里はこの家に訪れていたようで、カップに残された紅茶には湯気もたっていなかった。
「今日は飲み会じゃなかったの?」
朝、貴一郎が家を出る時にそう告げて行ったことを思い出しながら、友加里に問いかける。
友加里は満面の笑みを浮かべながら「ドタキャンしちゃった」と舌を出して笑った。
「まぁ、友加里ちゃん。ダメじゃないの!そういうのも仕事のうちよ」
「は~い、藤江先生がそう言うなら、遅れて参加します」
「そうね、その方がいいわ。校長や教頭の評価が下がりでもしたら、もったいないわ。あなた、優秀な先生なんだから」
「まぁ~、そんなこと言って下さるの…藤江先生だけですよ~」
リビングで繰り広げられる二人のやりとりを、私は上の空で聞いていた。友加里が来ると義母は何時になく嬉しそうだ。私が義母を持ち上げることをしないから、余計に嬉しいのだろう。
そりゃ、友加里のようにたまに会うだけだったら、義母が喜びそうな言葉を並べ立てることも出来るだろうが、私にとっては毎日のことだ。
そうでなくとも気を遣っているのに、これ以上おべんちゃらなんて言える訳もなかった。
「藤江先生、少し茜と話をして来てもいいですか?」
友加里がこう切り出した時は、多少のストレスが溜まってきた頃だ。
「どうぞ、ごゆっくり」と笑顔で義母は言った。しかし、夕食を作る時間に差し掛かっていて、私の方が気が気じゃなく時計を覗き込む。
友加里が帰った後、言われるであろう義母の嫌味を覚悟して、私は友加里と一緒に2階の階段を上がった。
「ね~、何でこんな怪我しちゃったの?」
必死で階段を上がる私を友加里は哀れむような眼差しで見ている。理由は貴一郎から聞かなかったのだろうか?それとも、慌てん坊の友加里が聞き損ねたのか…多分、後者だと思いながらようやく私は階段を昇りきった。
「取り敢えず部屋に入りましょ。話はそれから…」
私の言葉に素直に頷く友加里は、とても年上には見えなかった。
確か、友加里と出会ったばかりの貴一郎も「馬鹿な女がいてな」なんて友加里のことを話していたっけ…
でも、私は友加里に一目会った時から、貴一郎が言うような馬鹿な女なんかじゃないとすぐに思った。いわゆる計算高い女だと、私は見抜いたのだった――
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