第3話 彼との出会い 2
私は25歳の秋に大野貴一郎と結婚した。
貴一郎との出会いは、私が通う大学のバスケットボール同好会に、私の友達がバスケ同好会のメンバーを好きになり、私も一緒に同好会のマネージャーに収まったのがきっかけだった。バスケのルールさえ知らない私に、バスケのいろはを教えてくれたのが2歳年上の貴一郎だった。
教師を目指していた貴一郎は、教え方がとても上手く性格も穏やかで、年齢よりも落ち着いて見える人だった。バスケのことがなければ、私が好きになるタイプの人ではないのだが、丁寧な受け答えと真面目さが当時の私には新鮮でもあった。
また、志しているものが同じだったこともあり、私達の距離は自分達が思う以上に急接近した。
恋人としての付き合いがマンネリ化する頃には、上手い具合に貴一郎が職員採用試験に合格したりと、気持ちを切り替えるのには調度いい出来事が二人に訪れた。
だから、「結婚」を考えることも付き合いを続けていく上では当たり前のことで、5年もの交際期間はその選択を決定づけるものとなった。
しかし、いざ結婚となると私達の問題だけではなくなることを痛いくらい思い知らされたのだった。
「結婚したら、学校はお辞めになるのよね?」
貴一郎の両親に初めて会った時の母親の第一声がそれだった。
教師になることを夢見て、ようやく念願が叶い高校の教師になって3年経った時だった。
貴一郎との結婚で教師を辞めることなど考えたことのなかった私には、まさに青天の霹靂だった…
「教師は辞めるつもりはありません」喉元まででかかった言葉は、貴一郎の母親の威圧的な態度に呑み込まれ、言葉になることはなかった。
当時、貴一郎の父は小学校の校長の職に就いていたのだが、病気を患い退職を2年後に控えた時に療養に専念する為、依願退職したばかりだった。長い教師生活を支えてきた母親は、夫の功績を支えてきたのは自分だと自負しており、私が専業主婦になることを強く望んでいたのだ。
返事をする代わりに煮えきれない態度を見せた私に、追討ちを掛けるように母親は言葉を続けた。
「この結婚は茜さんが専業主婦になることが条件です。貴一郎の仕事を家で支えるのが妻としての役目なんですから。それが出来ないのなら、この結婚は白紙に戻します」
52歳だった義母は、当時はまだ言葉にも張りがあった。とても反論できる相手ではないと悟った私は、貴一郎との結婚の為に教師を続けることを涙を呑んで諦めたのだった。
大野家の嫁として私が家に入って三ヶ月がたった頃、義父の病状が悪化し入院を余儀なくされる事態となった。家の中が急に慌ただしくなり、義父を献身的に支えてきた義母にも不安が見え隠れし始めた。精神的にも追い詰められていたせいか、義母のストレスは当然、私への八つ当たりで発散されるようになった。…とはいえ、結婚したばかりで右も左も分からない私は、義母の心無い発言によってたくさんの傷を負った。
夫の貴一郎に相談しても「気にするな」と取り合ってもくれなかった。
そんな時だった…
高校時代の恩師である伊坂から「話がある」と携帯電話に着信があった。
私はこの現状から逃げるように、伊坂の勤める成宮高校へと足を運んだ。
そう、まさか私の運命を変える出来事があるとも知らず、私は成宮高校の門をくぐったのだった――
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