4話─黒き英雄の戦い
「死ね、シュヴァルカイザー!」
「騎士団の皆さんは下がってください! 民間人の避難をお願いします!」
「分かった、武運を祈るぞシュヴァルカイザー!」
フィルは騎士たちを撤退させ、闇の眷属たちと対峙する。眼前にいる敵の数は八人。真正面から相手をしるには、少々多い数だ。
「奴を囲め! 全方位から同時に攻撃するんだ!」
「そうすりゃ流石のシュヴァルカイザーもひとたまりもないはず!」
「……はあ。自分から作戦をバラすなんて、アホなんじゃないでしょうか。なら……マナリボルブ!」
大声で作戦の通達をする敵に呆れつつ、フィルは右手を前に伸ばす。親指を除く四本の指先に小さな魔力の弾丸を作り出し、勢いよく放つ。
「ぐあっ!」
「げはっ!」
「ぐえぇっ!」
「うぐおぁっ!」
「これで四人……半分になれば接近戦も楽ですね」
「こいつ……! よくも仲間を!」
放たれた魔力の弾丸は、先頭を走っていた四人の敵兵の心臓を正確に貫き絶命させた。仲間たちを仕留められ、残りの四人は激昂する。
頭に血が昇り、連携もせずにバラバラに襲いかかっていく。フィルにとっては、これ以上倒しやすい獲物はいない。
「武装展開、
「返り討ちにしてやる! 死ねぇぇぇ!!」
魔力を用いて作り出した漆黒の剣を構え、フィルは残りの敵兵を迎え撃つ。最初にフィルの元にたどり着いたのは、剣を持った兵士だ。
「死ね、シュヴァルカイザー!」
「おっと……甘い!」
「なっ、弾かれ……ぐあっ!」
「くそっ、次は俺が相手だ!」
フィルは舞うような優雅な剣捌きで相手の武器を弾き落とした後、返しの一撃で首をはねる。そこに、長槍を持った二人目の闇の眷属が突撃してきた。
一定の距離を保ちつつ、鋭い突きを繰り出していくが、フィルにはまるで当たらない。連続ステップで攻撃を避けながら、フィルは敵の懐に潜り込む。
「長柄の得物は、集団戦でこそ効果を発揮するもの。一対一の戦いでは……」
「く、来るな! くる」
「懐に潜り込まれれば何も出来ない! はあっ!」
「ぎゃはあっ!」
「す、凄い。フィルくんってこんなに強いんだ……。何だろう、見てると凄く胸がドキドキするわ……」
相手の武装の弱点を正確に見抜き、心臓を一突き。瞬く間に、敵兵の四分の三を倒してしまった。残った斧を持った兵士と大剣を担いだ兵士は、ジリジリと後退する。
一方、戦いを見学していたアンネローゼは胸の高鳴りを感じていた。フィルの強さを間近で感じ、言葉にし難い感情を覚えているようだ。
「つ、つえぇ……やっぱり、俺らみたいな下っ端じゃシュヴァルカイザーに勝てるわけが」
「お前たチ、何をしていル? 一向に作戦ガ進んでいないデはないカ」
「! ガ、ガルチェイン様!」
「来ましたね。今回の侵略の指揮官が」
生き残りたちが尻込みしていると、彼らの背後から無機質な声が聞こえてくる。重い足音と駆動音を響かせながら、
鈍い銀色をしたクモの背中に、鎧を着た人の上半身が生えている。脚を動かす度に、関節から水蒸気が放出されていく。
新たな敵は、生身の生物ではない。キカイ仕掛けの戦士なのだ。
「お前がシュヴァルカイザーか。我ラ……ヴァルツァイト・テック・カンパニーに刃向かウ愚か者ハ」
「ええ。これはまた悪趣味な刺客が来たものだね。まあいいさ、いつも通りスクラップにするのみ!」
「やっテみロ。この私ハ一筋縄ではイかぬぞ! スパイダーリール!」
ガルチェインはクモの口からワイヤーを発射する。先端には槍の穂先のようなものが付いており、不気味な紫色の液体で濡れている。
「フィルくん、避けて!」
「これは……毒か!」
戦いを見守っていたアンネローゼは、異様な武器を見て思わず叫ぶ。その声は届かなかったものの、フィルの方も異変を察知して横に飛ぶ。
「避けたカ。惜しいナ、少しデも擦ればその装甲ごと溶かしてヤれたのだガ」
「腐食性の毒ですか……迂闊に近付くのは危険ですね。ここは戦法を変えるとしましょうか! マナリボルブ・カノーネ!」
ワイヤーを口内に戻し、ガルチェインは狙いを付ける。ワイヤー以外にも毒を付与する方法があるだろうと警戒し、フィルは遠距離から攻撃を行う。
左の手のひらを相手に向け、砲弾サイズの魔力の塊を作り出す。大砲を発射するかのように、魔力の塊を撃ち込む。
「フン、そんナもの当たるカ!」
「! わ、ワイヤーを建物の壁に! 動きの遅さを、ああやってカバーしてるのね!」
「……なるほど、自分の弱点は熟知してるわけですね。でも、必ず切り崩すチャンスはある……まずは攻略の糸口を見つけましょうか」
だが、ガルチェインはワイヤーを用いた高速移動で易々と攻撃を避けてしまった。アンネローゼが驚く中、フィルは冷静に相手を分析する。
「サーチアイ、発動。相手の弱点が必ずどこかにあるはず。それさえ見つけ出せれば、一気に倒せる!」
「何をゴチャゴチャと! お前たチ、見てイないで作戦ヲ遂行してコい! そこニいても邪魔ダ!」
「は、はいぃぃ!!」
部下たちを叱責しつつ、ガルチェインの猛攻がフィルを襲う。ワイヤーを利用して広場を跳び回りつつ、手のひらからもワイヤーを射出し攻撃する。
一方、フィルは左の瞳を輝かせる。守りを固めつつ、相手を観察していた。
(少しずつ見えてきた。相手はクモの口と両手から一本ずつワイヤーを発射してくる。多分、巻き取り機の都合で同じ部位から複数本の同時発射は出来ないんだ。それなら!)
「ククク、どうしたシュヴァルカイザー! 守ってばカりで勝てるト思っているのカ!」
「ええ、もう守りを固めるのはおしまいです。ここからは僕が攻める番だ! ハッ!」
「フィルくん、何をするつもりかしら? さっきまであんなに近寄らないようにしてたのに」
これまでと打って変わって、フィルは相手に突進していく。ガルチェインはニヤリと笑いながら、クモの口を開いた。
中では、巻き取り終わったワイヤーが発射される時が来るのを待っている。十分な距離まで相手が近付いたところで、ガルチェインが仕掛けた。
「今ダ! 死ねぃ、シュヴァルカイザー!」
「ふふ、待ってましたよ。その口を開く時をね! 武装展開、マナ・バブルガム!」
「む、おぉっ!?」
ワイヤーが発射されようとした、次の瞬間。フィルは急加速しつつ、クモの口内にネバネバした魔力の塊を放り込む。
アメーバのようなソレは、リールに絡み付いて動作不全を引き起こす。必殺のワイヤーを無力化され、ガルチェインは慌てふためく。
「オノレ、貴様何をしタ!?」
「ワイヤーを発射出来ないように、リールを止めさせてもらいました。これまでの攻撃頻度からして、一つの部位にリールは一つだけのはず。つもり、これでクモの口内にあるワイヤーは封じましたよ!」
「だかラどうしタ! 私にはまだ両手のワイヤーが」
「させませんよ! 武装展開、シュヴァルツシュヴェルト!」
両手からワイヤーを発射しようとするガルチェインだったが、それよりも早くフィルが連続攻撃を仕掛ける。鋭い斬撃で相手の両腕を斬り落とし、攻撃手段を奪う。
「バ、バカな……」
「これで終わりです! 奥義……シュヴァルブレイカー!」
「ぐ……ガハッ!」
大きく腕を振り、フィルはガルチェインを一刀両断しつつ相手の背後へ駆け抜ける。剣を振るい、刃に付着したオイルを飛ばすと同時に敵が爆発四散した。
それを見た闇の眷属たちは、指揮官がいなくては勝機無しと判断して敗走していく。
「に、逃げろ! ガルチェイン様がやられたらもう勝ち目がねぇ!」
「チクショー! 覚えていやがれ、シュヴァルカイザー! この借りはいつか返してやるからなー!」
先ほどの生き残りコンビもまた、捨てゼリフを吐いて逃げていった。危機が去った後、避難の途中だった町民や騎士たちが歓声をあげる。
「いいぞ、シュヴァルカイザー! おかげで町は守られたよ!」
「ありがとう、あなたは町と私たちの恩人よ!」
「偉大なる戦士、シュヴァルカイザー殿に敬礼! 今回も助けていただき、ありがとうございました!」
人々が拍手を送る中、フィルは照れ臭そうに頬を掻く。ふわりと空に浮き上がりつつ、騎士たちに声をかける。
「いいんです、皆さんが無事でよかった。残念ですが、僕に出来るのはここまでです。後のことは、騎士団の方々に頼みますね」
「はい、町の復興や怪我人の治療は我々にお任せください! 流石に、そこまで甘えてしまっては騎士の名折れですから!」
「また闇の眷属たちが現れた時には、必ず助けに行きます。では、僕はこれで!」
別れを告げ、フィルは空高く飛翔する。見学していたアンネローゼの元に戻り、彼女に声をかけるが……?
「どうでしたか? アンネ様……アンネ様? うわっ!?」
「すっっっっっごい感動した! フィルくん、可愛いだけじゃなくてこんなに強いだなんて! 私、もうずっと胸がきゅんきゅんしちゃって……もう大変なんだから!」
「ちょちょちょ、危ないです! そんな強く抱き締められたらバランスが……ああああ!!」
興奮冷めやらぬアンネローゼは、フィルを抱き締めながら翼をバッサバッサ振り回す。彼女を落ち着かせ、無事帰還するまで……フィルは丸々十分を要することになるのだった。
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