3話─戦乙女の誕生
次の日。ギアーズから貰った服に着替えたアンネローゼは、フィルと共に基地内にあるラボラトリーエリアを訪れていた。
ラボのあちこちに、シュヴァルカイザースーツのプロトタイプと思わしきフレームが積み重なっている。日夜、スーツの改良にいそしんでいるようだ。
「わあ、見たこともないものがいっぱい。フィルくん、ここは何をする場所なのかしら?」
「ええ、ここは僕が使っているシュヴァルカイザースーツ……正式な名を『インフィニティ・マキーナ』という強化外装を製造するための工房になっています」
「へー、あのスーツそんな名前なのね。もしかして、私もアレを着られるの!?」
ダブルシュヴァルカイザーが出来る、と期待し喜び勇むアンネローゼ。が、返ってきた言葉は無情であった。
「いえ、シュヴァルカイザースーツは僕専用にカスタムしてあるのでアンネ……様は着られません。代わりとなるインフィニティ・マキーナをこれから造ります」
「そっかー……でも、何だかワクワクしてくるわね!」
広い工房の中央にそびえる柱状の装置を見上げながら、フィルとアンネローゼはそんな会話を行う。話を終えた後、二人は装置に近付く。
柱の側にあるパネルをフィルが操作すると、扉が横にスライド中に入れるようになる。アンネローゼはフィルに促され、扉の中に入る。
「その中でじっと立っていてください。自動で身長や体型の測定をした後、スーツの製造が始まります」
「凄いわね……。学校でキカイについて学んだけど、そんな便利なことが出来るんだ」
「内部に満ちている魔力が、思考を読み取ってスーツをデザインを決定します。なので、どんなスーツを身に着けたいか考えておくといいですよ。ぼんやりしたイメージでもいいので」
「なるほど、分かったわ。さてさて、どんなデザインがいいかしら……」
扉が閉まった後、アンネローゼは目を閉じて思考する。どんな姿で戦いたいのかを。少しして、幼い頃の記憶がよみがえってくる。
(そういえば、子どもの頃は
幼い頃、メイドに買い与えられた一冊の絵本。神の使途たる聖なる乙女、バルキリーが邪悪なドラゴンを倒して囚われの王子を助け出す物語を思い出す。
天馬に跨がり空を駆けた、あのバルキリーのように。自分も自由に空を舞う騎士になりたい。そう考え、イメージが纏まった。
「それでは、始めますよ。スイッチオン!」
フィルがパネルを操作すると、インフィニティ・マキーナの製造が始まった。アンネローゼの身長や体型がスキャンされ、データが蓄積されていく。
それらとアンネローゼが抱くイメージを元に、柱の上部でスーツの製造が行われる。十分ほど駆動音を響かせた後、スーツが完成した。
『アンネ様、聞こえますか? スーツが完成したので、今から下ろします。そのまま装着するので、着心地を確かめてみてください』
『分かったわ、フィルくん。さあ、いつでもオーケーよ!』
そのやり取りの後、アンネローゼの元に完成したモノが降りてくる自動的に装着された後、扉が開いて出られるようになる。
ウキウキワクワクしながら、外に出るアンネローゼだったが……?
「って、何これ? ……ベルト?」
「はい。普段はそのベルト内にスーツが格納されているんです。バックルに取り付けてあるダイナモ電池を起動させることで、スーツが展開されます。……こんな風に!」
腰に取り付けられたベルトを見下ろし、戸惑うアンネローゼ。彼女にそう言うと、フィルはベルトに取り付けられた丸い水色の装置に触れる。
「ダイナモドライバー、プットオン! シュヴァルカイザー、オン・エア!」
「わあ……! フィルくんって、いつもこんな風に変身してるのね! とってもかっこいいわ!」
ベルトに取り付けられたダイナモ電池が作動し、一瞬にしてフィルの身体が漆黒の装甲に覆われた。手足や脇腹に金のラインが走り、目元には水色のバイザーが装着されている。
胸元には水色の輝きを放つダイナモ電池が付いており、内部で魔力が循環している。改めてシュヴァルカイザーの姿を見て、アンネローゼは黄色い声を出す。
「……と、まあこんな感じです。アンネ様も、スーツを展開してみましょう。どんな名前を付けるかはお任せします」
「名前……名前ね。うーん……よし、決めた! ダイナモドライバー、プットオン! ……『ホロウバルキリー』、オン・エア!」
アンネローゼは高らかに叫びつつ、ダイナモ電池を起動させる。ベルトからスーツが展開し、彼女の身体を包み込む。
そして、背中に天使の翼が生えた純白の鎧と、緑色のバイザーを備えた兜に覆われた姿になる。フィルが持ってきた姿見を見ながら、キャーキャー興奮する。
「すごーい! 本当にイメージぴったり! 特にこめかみにある羽根飾りとか、絵本のイラストとおんなじだわ!」
「ふふ、気に入ってもらえたようで何よりです。じゃあ、スーツに慣れるために軽く運動でも……」
微笑みを浮かべながら、フィルがそう口にした次の瞬間。ラボラトリー内に、けたたましい警報が鳴り響いた。それを聞いたフィルは、表情を引き締める。
「来ましたか。今回は少し間が空きましたね、珍しい」
「フィルくん、どうしたの?」
「招かれざる客……闇の眷属たちがこの大地に現れたようです。退治に行くとしましょうか」
新たな侵略者たちの到来に、フィルは真剣な声で答える。ヘルメットで顔は見えないが、きっと凛々しい顔をしているのだろうとアンネローゼはうへうへする。
「アンネ様はここにいてください。メインルームで博士と一緒に待機を」
「待って、フィルくん。戦うなんて無茶は言わないから、私も連れて行って! 間近でフィルくんの戦いを見てみたいの。色々学べる事も多いだろうし」
「……分かりました。でも、一つだけ約束してくださいね? 絶対に敵に手を出さないでください」
「分かったわ、約束する!」
「では、ステルスモードをオンにしておきますね。これで、相手からは存在を感知されずに済みますから。安全なところから見学していてください。では、行きますよ!」
「ええ!」
テーブルマウンテンの頂上へ出た二人は、それぞれの方法で空に舞い上がる。フィルは全身から魔力を放出し、アンネローゼは翼を羽ばたかせて。
『フィル、敵の座標を特定した。情報を送るから、いつものようにテレポートして向かってくれ』
「分かりました、博士。では、行きますよアンネ様。まだ上手く飛べないと思うので、その……」
「何かしら? フィルくん」
「て、手を繋ぎましょうか。その方が、はぐれなくて済みますし」
恥ずかしそうに口ごもりながら、フィルは右手を差し出す。アンネローゼは嬉しそうに頷いた後、少年の手を握った。
「ふふ、ちっちゃい手。スーツを着てるのに、温もりが伝わってくる……不思議ね」
「じゃ、じゃ行きますよ! では……テレポート!」
恥ずかしさを誤魔化すため、大声で叫びながらフィルはアンネローゼを連れテレポートする。招かれざる客たちが現れた地へと。
◇──────────────────◇
「建物を破壊しろ! 住民を町から追い出せ! 抵抗する者は殺して構わん! カンパニー繁栄のために全てを更地にするのだ!」
「おおーーー!!」
「そうはさせるか! お前たち、死んでも町を守り切れ! 奴らを追い返せ!」
「うおおおお!!」
ヴェリトン王国北東部にある田舎町、ラシェイ。のどかな町は、闇の眷属たちの侵略を受けていた。紫色の肌を持つ異種族たちが、町を破壊していく。
町に駐屯している騎士団が迎撃に出向くも、練度の差から次々と撃破されてしまう。このままでは、全滅も時間の問題だ。
「ぐあっ!」
「ぎゃああ!!」
「くっ、強い……! このままじゃ、町が……」
一人、また一人と騎士たちが倒されていく中、町民たちは逃げ惑う。中には、戦いに巻き込まれ怪我を負う者たちもいた。
「ハッ、安心しろ。お前たちの故郷は今日で綺麗さっぱり消える。偉大なる王、ヴァルツァイト・ボーグ様の栄華の礎の地になるのだ!」
「悪いけど、そうはさせないよ。これ以上町をこわすのは、この僕が許さない!」
一人の騎士がトドメを刺されそうになっている、その時。どこからともなく、シュヴァルカイザーの声が響く。
「この声は……! またしても我らを妨害しに来たか、シュヴァルカイザー!」
「おお、やった! 救世主が来てくれた!」
「これでもうあいつらに勝ちの目はないぞ!」
「どこでどんな破壊活動をしていようと、全て僕にはお見通しだ。一人残らず、ここで仕留める。覚悟するといい、闇の眷属たちよ!」
町の広場の上空に現れたシュヴァルカイザーは、そう宣言しながら地に降り立つ。ちなみに、アンネローゼは遥か上空から見学している。
双眼鏡を覗き込み、フィルの活躍を目に焼き付けようと熱い視線を送っていた。動揺する闇の眷属たちだったが、覚悟を決め武器を構える。
「くっ、そのセリフをそっくりそのまま返してやる! いつも貴様にしてやられてばかりだと思うなよ、シュヴァルカイザー!」
「なら、かかってくるといい。全員纏めて相手してあげるから!」
「なら容赦はせん! お前たち、かかれ! 今日こそ生意気なヒーローを血祭りにあげるのだ!」
「おおっ!」
アンネローゼが見守る中、シュヴァルカイザーと闇の眷属たちの戦いが始まった。
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