第9話
その時、美波は――
「(美波、美波、美波、美波)」
美波は何かを自分に強く言い聞かせた。
息を切らしているのにも関わらず、それでもかというくらい足を動かし、夕日が空を染める中、全速力で駆け抜ける。
やっと美波が足を止めた場所はとある赤橋の上だった。高さも中々なもので、きっと落ちてしまったら死んでしまうだろう。
「(死ねば私の責任にはならない。今の美波には生きる意味のなにもない)」
美波は素早く橋の手すりにのぼって下を見下ろした。下では勢いが激しい川の水が流れている。所々に岩もあり、危険でしかないそんな川を繋ぐ橋の上から――
「結局、あの時死んでいれば……こんな気持にはならなかった。ごめんね、くるみ」
ぼそっと呟きながら、美波は橋から飛び降りた。
「待って!!!」
―町下だった
涙を流した町下は宙に浮かぶ美波の手をとっていた。なんとか一命を取り留めている美波だったが、町下の小さな体では今の状態が精一杯だ。
「え?」
「待ってください……。おいて、いかないでください」
「……!」
町下の涙が上から落ちてくると、自然と美波も涙が溢れ出してきた。大量の涙が。夕日が瞳を照らし、瞳の色が褪せていった。
この時初めて―――
―――もう一度やり直したいと思った。思ってしまった
町下は容姿通り非力で美波を橋へと上げることなどかなわない。筋肉がない細々しい腕はもう限界で、二人は少しずつ下へと下がっていった。
二人は共に川に向かって飛び降りる。手を繋ぐだとか、最後の言葉を交わすだとか、そんなロマンチックなことはない。だってこの二人は仲がいいわけなかったはうだからだ。
「(もし、もう一度美波の過ちをやり直せるなら――)」
「(今度は美波が―――)」
「はやく帰るよ」
「はい。今日は例のお菓子屋さん、行きますか?」
二人の少女は肩を並べ、他愛のない会話を交わす。どうやら片方の少女はお菓子屋に行きたいようだ。
「べ、べつにいいけど?」
「ふふ、行きましょうか」
もう片方の少女は少しツンデレ気質なようで、素直ではないようだ。
「俺もいれてほしいよ」
肌艶が良い少年が、二人の間に割り込んで来た。
「なら一緒に行きますか」
三人は道を歩いている。
靴の音がなっている。
風が見慣れぬ制服を揺らしている。
髪を揺らしている。
彼女が今日も、彼女たちとこの光景を見ている。
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