第8話

「くるみを愛してるんだね、千早」


 美波はそう言ってから千早を見つめる。

 すると彼は目を逸し、右側に視線をずらした。





 次の瞬間、二人の前に田代廉が現れた。


「あっ、やぁ、みんなお集まりのようだね?」


 右の方からゆっくりとした足取りで神社の敷地に足を踏み込み、美波の方へと近づいてくる。



「あ〜轟さんだねぇ? 元気してた?最近学校も休みがちだけど…。僕も心配なんだよね、学級委員として。いや、友達としてかな?」


「……」


 彼はずらずらと言葉を並べていき、美波にどんどん迫っていく。


 そんな田代廉を前に、美波はたじろいでしまう。まだ人前で仮面を被っている彼を美波は見ていると、どうにも気持ち悪い気分になってしまう。まぁ、あんな言葉をかけたから尚更なのだが。

 


「ねぇ、聞こえてるのぉー?」


 美波がはっとしてから田代廉を睨みつけると、彼はニヤリと笑ってもう一度口を開いた。


「轟さぁーん」


 とても不気味の悪い笑みに、声に、目つきだった。

 彼はどんなに美波が軽蔑的な目で見たって、睨みつけたって、何んも変わりはしない。寧ろ、より一層気味の悪さを増していた。



「ねぇ、千早。何でこいつを。あのメールは美波だけじゃないの?」



「いや、俺はあのメールを君にしか送っていないよ」



「え、じゃあ…何で…」



「彼が勝手についていきたいと言ってきたんだよ。もう面倒だからつけれてきたよ」


 怠そうにした千早は美波にそう伝えた。美波は少し顔色を曇らせ、一度廉に目をやってから千早の方を向いた。



「よし、皆、聞いてほしいよ。あの子について少し話そうよ」


 千早の言うあの子、というのはくるみのことを指していた。きっと何かをしっているのだろう。美波は千早が何故罪を町下に被せたのか、何故ここに集めたのか、それが知りたくてたまらなかった。



「この際いっておくと、今回の騒動は殺人だと俺は思うよ」



「さ、殺人…?」


「ふぅーん」




「そう、君じゃないのかい?轟美波」


 千早の目は美波をとても疑っているようだ。いや、疑っているのだった。


 美波は試されているかもしれない。



 千早の放った言葉は美波の胸の深く底に突き刺さった。突然飛んできた疑いという名の矢によって、美波は心にひびが入ってしまったように思う。



「(疑われている? 何で? 美波が? 美波は何もしてないよ。美波は、美波は、美波は―)」


 美波はこの場から逃げ出した。逃げ出したらもっと疑われるとわかっていたのに、今自分のせいだとせめられるのが一番恐怖だった。




「どこいくのぉ?」



「いや、追いかける必要はないよ」



「え?」

 走るのに自信があった田代廉はすぐに美波を追いかけに行こうといていたが、千早は止めた。


 その後、田代廉の方を向いてから少し微笑む。



「きっとあの子の死因は誰にも突き止められないよ。だから彼女が悪者だとさせておかない? 田代。きっと彼女なら自主でも何でもしてくれるよ。あの子のためなら」

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