第5話
美波はこの日を堺に、また学校を休み始めた。
今度は彼に疑いの目を向けてしまったからだ。
――くるみの自殺の原因はこいつだ
そう思ってしまう自分も彼も醜くて、目を逸していたかった。
そんなとき、美波に一通のメールが届いた。
『美波さんへ。突然の連絡ごめんよ。
あ、そうそう俺は君の親友、成瀬くるみの死因を知っているんだよ。もし気になっているのであれば一つ交換条件としようよ』
「……」
真っ暗な美波の部屋で、スマホの光だけが部屋を灯す。
光が漏れてしまわぬように、美波は布団でスマホを隠し、すぐにメールの返事を送った。
生きる希望を二つとも失ってしまった美波にとって、このメールは第二の救いの手でもあった。だからメールの相手が誰かわからなくたって、躊躇なんてするはずもない。
『交換条件って?』
既読は光の速さでつき、一分も待たないうちに返信が返ってきた。
『過去ので構わない。君と彼女のツーショット写真を送るんだよ』
「つ、ツーショット……」
『わかりました』
美波の答えはYes。こんなに有り難い話はない。この先もきっとこんなにいい話はやってこないだろう。
そんなことはどうでもいい、真実をすぐにでも目にしたくてたまらない美波は、メールの相手がなにか言い出すより前に尋ねる。
『だから、教えて下さいよ』
『それは―――――』
美波はスマホの画面を見て目元を緩ませた。
安心をしてしまったような、呆れてしまうかのような、そんな複雑な感情に美波は襲われた。
くるみの死因をやっとのことで突き止めた美波は写真を送ると同時に明日、学校に行くことを強く決心したのだった。
「おはよう!」
「おはようございますん」
「おはー」
教室には数々のクラスメイトの「おはよう」が飛び交っている。
廊下を早足で通り過ぎる美波は、そんな自分のクラスの教室になど目もくれず、隣のクラスの教室へと足を運んだ。
トントン
教室の扉を二回ほど叩き、満面の笑みである人の名を呼んだ。
「町下さん、いる?」
誰に聞いたかもわからぬまま、美波は隣のクラスの視線をただ集めた。
「え、いる、よ?呼ぼうか?」
少し重い空気の中、一人の女子生徒が気まずそうに美波に尋ねる。
正直、この空気感で美波に話しかける勇気があるこの女子生徒も中々だが―
――それを無視して教室に踏み入る美波も中々なものだ
美波に声をかけた女子生徒は唖然としたまま思考停止し、それ以外の生徒たちは美波の方へと視線をずらした。
美波はゆっくりゆっくりと足を前へと動かし、例の少女、町下の目の前で冷たい表情になった。
生徒たちは勿論、町下も状況が理解できずにただ美波に視線を向けている。
緊張が漂うこの教室は鋭い視線でいっぱいだった。
気遣いまだしてくれた女子生徒には無視をし、ただ無言で別の教室に入り込むなんてことをするやつが歓迎されるはずもない。
「ねぇ」
「……」
町下は怯えていた。気弱そうで地味な見た目をしていた町下はきっと、美波のことが恐ろしくてたまらないのだろう。
そんな町下にはお構いなしの美波。今度は町下の肩を軽く叩き、強く唇を結ぶ。
周りもどういった行動をとればいいかなんてわからないで、ただ美波を見詰める。
町下はクラスでも陰キャに属する人なので、生徒たちも会話だってまともにしたこともないし、友達だってなかった。だから、どうしようもできない。
――次の瞬間、美波な町下の座る椅子を蹴飛ばし、町下を床へと転ばせた
「え?大丈夫なの??」
「先生呼びに行く??」
「誰か、美波ちゃん止めてよ…」
生徒たちも動揺が隠せない。教室から退避する生徒もいれば、止めにいくか迷う男子もいる。
教室は混乱状態に見舞われた。
だけど、美波はそんな状況でもお構いなしだ。
「…返してよ」
美波がぼそっと何かを呟く。町下に聞こえていたかはわからない。
「…?」
「くるみを…美波の親友を返せ……!!!!」
そう、メールの情報だとこの少女がくるみを貶めたのだといっていた。
『町下という女が君の隣のクラスにいるんだよ。もしかしたら君も知っているかもしれない。まぁそれはさておき、簡潔に言うとそいつは成瀬くるみに恋をしてしまったことが始まりなんだよ。』
メールの相手はいった。町下がくるみに恋をし、くるみが嫌がるような行為を行ったと。
そんな嘘らしいこと、普通だったら簡単には信じたりしないのだろう。だけど美波は今、この情報しか信じるものがなかった。
「くるみに何をしたの…!!!!!」
叫び、暴れ、町下に殴りかかり始める美波を止める者はこの教室にはいなかった。
数分後、教師がやっとのことで美波を止めた頃には町下の頬は擦り切れ、髪の毛が何本か抜け落ち、腕からは引っ掻かれたような跡が残っていて、もうぼろぼろだった。
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