第6話
美波はしばらく学校に行くのを停止されてしまった。
理由はわからない。自分の罪を認めていない美波にとってこの期間は本当に長い。
美波はただ夢中に町下を傷つけてしまったことなんて微塵も後悔していない。自分が正義だと思っていたから。
美波は―
美波は―
美波は―
美波は今回の騒動で町下への思いが消えることがなかった。
「町下、お前はもう轟美波に関わるな」
「…はい」
教師は町下を職員室に呼び出し、美波への接近を禁止するように伝えた。
「気をつけて帰れよ」
「はい、失礼しました」
「あ!町下〜たまたま会っちゃったねぇ」
「……」
美波は待ち伏せをしたり、おかしな手紙を下駄箱に詰め込んだりと、嫌がらせをした。
ついにはハサミで髪を勝手に切ったり、壁に頭を打ち付けたりと、美波は止まらなかった。
「はぁ…はぁ…………ゴホッ」
町下は息を切らし、咳をこみ、血混じりの痰をはいたりしていた。でも、涙だけは町下の瞳から溢れ出したりはしない。
そしていくら町下が辛そうにしても、美波も同じくらい辛い気持ちでいっぱいだったから、その手が止まることなんてかなわなかった。
「美波だってね、こんなことするつもりじゃないの。あんたのせいでもうあの子は帰って来ない」
「………」
ずっと町下は黙っている。否定もしなければ肯定もせず。ずっと。
―だけど、今日は一味違った
「轟さんは本当に成瀬さんを大切にされているんですね」
久々に聞いたその町下の声は温かかった。決して美波の心が温かい気持ちになった訳ではない。けれど、なぜか美波の心は揺らいでいた。
町下の笑顔は嘘偽りのないものだった。
頬についた擦り傷も、ばっさり切られた後ろ髪も、全てが美波がしたことであり、その笑みだって美波のためにあった。
「…私、ここを離れることになりました。だから――」
「―さようなら」
町下はまた笑っていた。だけど、先程の笑みとはこれまた変わっている。
この笑みは美波の怒りを倍増させてしまうような笑みだった。上から目線のような、人を小馬鹿にしたようなそうな表情。
だったが、美波はそこにはあえて触れずにこの場を立ち去ろうとしていた。
立ち去ると思いきや、一度足を止め、引き返し美波は町下の頬をパチンと叩いた。
「美波は貴方を許さない」
そう言葉を残して美波は走って行ってしまった。
その時の美波がどんな気持ちで町下の頬を叩いたのかはわからない。けど、やっぱりメールの相手を少しは疑うべきだと美波はあの笑みを見て気付かされた気がしたのだ。
次の日、美波はメール相手をブロックし、これ以上関わるのをやめた。
その人は写真なんて集めて何をしたかったのだとか、町下のことを暴露して何のためになったとか、疑問は数え切れないほどあったけど、美波は深く追求などしなかった。
だって――
メール相手の正体の突き止め方がわかったから。
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