第3話

 美波が警察に通報をすると、警官たちはすぐに到着した。



 救急車の音が街に響き渡る。

 自殺した彼女はもう二度とこの世に現れないと告げられた。わかっていた結果でも悔しくて、辛くて、悲しかった。






 翌日、美波は学校を休んだ。その翌日も、その翌日も―


 廉は学校へ行っているのだろうか。それすらわからないまま、美波は部屋で引き篭もり、布団を被りこんだ。




 あぁ、確か、美波はくるみの葬式にすら参加しなかった。



 今までの人生でここまで辛い思いをしたことはなかっただろう。

 例え凄く辛かったのだとしても、美波は醜い自分を曝け出すかのような行動をとってしまった。


 辛いからって逃げて行動を起こそうとしない美波は本当に弱い人間なのだ。






「美波ちゃん、大丈夫??」


 母は心配してちょくちゅく様子を見つつ、美波が元の状態になるのを待ってくれていた。


 しばらくすれば学校の先生から電話もきていたらしいが、美波は決してその電話を受け取らなかった。


―美波は二人の期待には答えられない





 今にも死にたい気持ちで毎日を自分の部屋で過ごしていた。


 きっとあの瞬間に廉が現れなかったら、美波は本当に自殺してしまっていただろう。



 今生きているのも彼へのためなのかもしれない。命を救ってくれた、いつも優しい、頼りになる、そんな廉により一層惹かれている自分がいるのだろう。






「おはよう、轟さん」



「お、おはよう、」


 半月後、やっとのことで美波は学校に行くと、いつもの廉の姿がそこにはあった。優しく微笑み、あいさつをしてくれる彼の姿が。


 廉はもう気持ちを切り替えてしまっているのだろうか。何事もなかったかのような風に見えて美波には少し寂しく思った。







 一日の授業が全部終わり、皆が部活や帰宅のために教室を出ていく頃、美波はくるみの席だった机に触れた。

 もう匂いも、温かさも残っていない、きっと葬式のときのくるみだってそうだったのだろう。




 美波は酷く後悔をした。自分が弱かったことに、彼女の辛さを分かち合ってあげれなかったことに、葬式へ行かなかったことに。



 もし葬式に行けていれば冷たくとも、彼女の肌に触れることが出来たかもしれなかった。

 最後の別れもできたはずだ。



「(それなのになんで…でも今の美波には…!)」






 そう、美波はこの瞬間、自分の役目に気がついた。




―くるみへの贖罪をしなくては


 美波は償うための贖罪、「自殺の死因」を探ることにした。



 くるみはいじめだってされていなかったし、いつも毎日が楽しそうで、それが幸せそうだったように少なくとも美波には思えた。





 美波はくるみの親友だったからこそわかってあげられなかったのかもしれない――



―きっと、そうだよね? くるみ

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