第44話 なんでこんな事になっているの?
「ジュリア、あなたちょっとは自分の意見を言いなさいよ。ゴーン殿下の事、苦手なんでしょう。大体、王族だからって遠慮しすぎなのよ。今まで散々自分のペースで生きて来たくせに。一体どうしちゃったの?」
馬車に乗り込んだ瞬間、マリアナに怒られた。
「だって…相手は他国の王太子殿下なのよ。さすがに無礼を働くわけにはいかないわ…それに、理不尽な事をされている訳ではないし…」
「は~、あなたって人は。でも、そんなんだとあの嫉妬深いリュカ殿下が不安になるんじゃなくって?あの人、無駄に心配性だから…」
そういえばリュカ様!
「ねえ、マリアナ。リュカ様は大丈夫かしら?」
「多分大丈夫じゃない?きっとあの王太子があなたと2人きりで街に行きたくて、人でも雇って追い払ったのでしょう。たまたま私が帰るときに、あの光景を見つけて乗り込んだからよかったものを、もっと警戒しないとダメよ」
「そうだったのね。ありがとう」
「そうそう、あの時リューゴ様も側にいたのよ。リュカ殿下が気になるからって、追いかけて行ったわ。だからきっと大丈夫よ。ただ…あのリュカ殿下が、遅れてでもお店に来なかったのがちょっと気になるけれど…私たちの滞在時間が短かったから、間に合わなかったのかもしれないわね」
なるほど。でも、リューゴ王太子殿下が後を付けてくれたのなら安心ね。
「マリアナ、何から何まで本当にありがとう。あなたのお陰よ」
「何言っているのよ。今まで散々私に美味しい日本料理を食べさせてくれたでしょう。お礼を言うのは私の方よ。ただあの兄妹、お馬鹿で有名だから、正直何をやらかすか分からない状況なの。だから、十分気を付けて」
「ありがとう、分かったわ。私も気を引き締めるわ」
とにかく、私ももっとしっかりしないと。明日リュカ様に会ったら、今日はマリアナも一緒に来てくれて、何もなかったから安心して欲しいと伝えないと…
翌日
いつもの様にリュカ様が迎えに来てくれた。
「リュカ様、おはようございます」
「おはよう…ジュリア」
あら?今日は元気がないのね。一体どうしたのかしら?もしかして、昨日の事を気にしていらっしゃるのかしら?
2人で馬車に乗り込んだ後、早速昨日の事をリュカ様に報告する事にした。
「リュカ様、昨日は置いて行ったりしてごめんなさい。でも、マリアナも一緒に付いてきてくれたので、特に何もなかったので安心してくださいね」
「そうか…それは良かったよ」
なぜか力なく笑ったリュカ様。一体どうしたのかしら?
「あの…あのね…ジュリア…」
「あっ、馬車が停まりましたわ。さあ、参りましょう」
リュカ様の手を握り、馬車を降り教室を目指す。でも、なぜだろう。今日はやけに皆がこちらを見ている。人をジロジロ見るなんて、一体どういう教育を受けて来たのかしら?本当に失礼ね。
その時だった。
掲示板に群がる人だかりが。私たちが近づくと、皆スーッと場所を開けてくれた。一体何が掲示されているのかしら?
そこに掲示されていたものは…
「これは一体、どういう事なの…」
そこには“大スクープ、熱愛発覚、第二王子リュカ殿下とフェリース王国のマリーゴールド殿下は、密かに愛し合っていた”という見出し。さらに2人が抱き合う写真が掲載されていたのだ。ただ男性はリュカ様だが、女性の方は顔が映っていない。
「ジュリア、違うんだ。これには理由が…」
「リュカ殿下、お待ちしておりましたわぁ~」
やって来たのは、マリーゴールド殿下だ。
「あら、あなたもいたのね。リュカ殿下はお優しいから、きっとまだ言い出せずにいるのね。代わりに私が言うわ。ジュリア嬢、悪いんだけれど、この掲示板の通りなの。さっさと婚約を解消してくれるかしら?」
「違うんだ…ジュリア。これには…」
「あら、昨日あんなに愛し合ったのに、そんな嘘を付くの?目撃者もいるのよ」
「えっ?目撃者?」
ふと周りにいる令嬢や令息に目をやった。
「はい、確かにお2人が抱き合っている姿を見ました」
「私も見ました」
「僕も」
次々と上がる目撃者。
「適当な事を言うのは止めてくれ。確かに僕たちは…抱き合っていたかもしれない。でも、これには理由があるんだ」
「やっぱり、抱き合っていたのですね。申し訳ございません。頭の整理を付けたいので、しばらく1人にしていただけますか?」
リュカ様に頭を下げると、そのまま走り出した。
「待ってくれ、ジュリア」
後ろでリュカ様の声が聞こえたが、今は何も考えられない。気が付くと涙が溢れていた。私はそのまま待機していた侯爵家の馬車に乗り込んだ。
「ジュリアお嬢様。どうされたのですか?」
御者がびっくりして声を掛けて来た。
「ごめんなさい、ちょっと体調が良くないの。そのまま家に向かってくれるかしら」
「かしこまりました」
御者が急いで馬車を出してくれた。ふとこちらに向かって走って来るリュカ様の姿が目に入った。でも今は、どうしても会いたくない。
溢れる涙を止める事が出来ず、ただただ馬車の中で泣き続けたのであった。
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