第42話 リュカ様に怒られました
休憩時間になるたびに、なぜか私たちの教室にやって来るゴーン王太子殿下。マリーゴールド殿下も、負けじとリュカ様に絡んでは、軽くあしらわれている。
まだ午前中なのに、なぜかものすごく疲れてしまった。休憩のたびにゴーン王太子殿下が来るため、いつもは面倒な授業の時間が、今は唯一の安らぐ時間になっている。
そうこうしているうちに、お昼休みに入った。きっとまたゴーン王太子殿下とマリーゴールド殿下がやって来るのね。2人と一緒にご飯を食べるなんて、なんだか憂鬱だわ。そう思っていたのだが…
お昼休みに入った途端、ものすごいスピードで私の元にやって来たリュカ様に腕を掴まれ、そのまま教室を出た。マリアナやマリーゴールド殿下が何か叫んでいたが、そんな事はお構いなしだ。
向かった先は、校舎の裏側をさらに奥へと進んだところ。
「ここまでこれば、きっとみんな追ってこないだろう」
どうやらゴーン王太子殿下やマリーゴールド殿下はもちろん、マリアナ達にも来てほしくない様だ。
「ジュリア、一体君は何を考えているのだい?あれほどゴーン王太子殿下には近づくなと言ったよね。それなのに、街に行く約束まで取り付けるなんて」
いつも通り笑顔を向けているが、目が笑っていない。この顔、相当怒っているわね。ここ数カ月、ずっとリュカ様と一緒にいるのだ。リュカ様の事なら、大体わかる。
「ごめんなさい。私も断ろうと思いましたのよ。でも、あんな風に詰め寄られたら、さすがに断れませんわ。それに、相手は他国の王太子殿下ですし…」
「だからって、君がゴーン王太子殿下のいう事を聞く必要は無いんだ。そもそも、他国の王族の婚約者を誘うなんて、非常識極まりない。本来なら、抗議を行ってもいいくらいなんだ」
そう言われても…
「ジュリアは押しに弱いところがあるからな…とにかく、当日は僕も行くからね。きっと、マリーゴールド殿下も来るだろう。あの2人には一刻も早く、僕たちの事を諦めてもらう必要があるんだ。わかっているね?ジュリア」
「ええ…わかっていますわ。でも、マリーゴールド殿下は諦めますでしょうか?かなり強引な方だとお見受けできますが…」
「彼女には今後も僕がはっきりと気持ちを伝えるから大丈夫だ。問題はゴーン王太子殿下だよ。ジュリア、君はもしかして、ゴーン王太子殿下に気があるのかい?」
なぜそんな話になるの?どちらかと言えば、苦手なタイプだわ。
「滅相もございません。私はゴーン王太子殿下の事を、そんな風に思った事はありませんわ」
「それは本当だね?とにかく、これ以上彼には近づかないでくれ!わかったね」
「はい…努力します」
そうはいっても、あの強引なゴーン王太子殿下から逃げられるかしら?正直自信がないわ…
「さあ、話しは終わったし、そろそろ食事にしようか。いつもマリアナ嬢に邪魔されていて、中々2人で食事が出来なかったからね。今日はゆっくりと2人で食べよう」
「はい、そうしましょう。そうそう、今日はリュカ様の好きな唐揚げと、ポテトサラダを作ってきましたの」
「それは本当かい?嬉しいな。早速頂くよ」
リュカ様が唐揚げを口に放り込んだ。
「やっぱりジュリアが作る唐揚げが一番おいしいな。こっちのポテトサラダも絶品だ。特にこの、マヨネーズ?と呼ばれる調味料が、本当に美味しいね。毎日食べたいぐらいだよ」
「ありがとうございます。私もマヨネーズは大好きなのです。そうだ、唐揚げにかけても美味しいのですよ」
お好みでポテトサラダにマヨネーズを追加できる様に持ってきていた分を、唐揚げにかけて手渡した。
「唐揚げにマヨネーズか。見るからに美味しいそうだね」
早速口に入れたリュカ様。
「これはうまい!マヨネーズと唐揚げは絶品だな!こんなおいしい食べ方があったなんて、これは病みつきになりそうだ」
そう言って、次から次へとマヨネーズ付きの唐揚げを口に放り込んでいくリュカ様。口にはマヨネーズが付いている。その姿を見たら、笑いがこみ上げて来た。
「リュカ様、口にマヨネーズが付いておりますわ。少しじっとしていてください」
ハンカチを取り出し、リュカ様の口を拭いた。なんだか子供みたいね。
「ありがとう、ジュリア。なんだかこういうの、いいね」
そう言って、リュカ様が恥ずかしそうに笑った。確かにこういう平和で和やかな雰囲気が、なんだか妙に落ち着く。こんな穏やかな時間が、ずっと続いて欲しいな…
リュカ様の笑顔を見て、そう願わずにはいられなかったのであった。
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