第41話 貴族学院でもあの2人が絡んできます

「馬鹿だとは思っていたが、あそこまで馬鹿だったとは。それも兄妹そろって大馬鹿とは、フェリース王国もこの先が思いやられるよ」


部屋を出るなり、怒りを露わにするリュカ様。確かにリュカ様の言う通り、他国の王族に婚約を破棄しろとせまるなんて、非常識極まりない。


「とにかく、今日はもうジュリアは侯爵家に帰るんだ。これ以上王宮には置いておけない。僕が馬車のところまで送って行ってあげるからね。それから、ゴーン殿下が他国の王太子だからって、遠慮する必要は無い。イヤならしっかり断ってくれ」


どうやら私の態度が気に入らなかった様で、馬車に向かう途中にお叱りを受けた。


「ごめんなさい。もし私のお料理を気に入ってもらえたら、フェリース王国でもお店が出せたり、貿易が優位に進むのでは思ったのです」


「ジュリア、君の気持ちは嬉しいが、とにかくあの2人に貿易の話しをしても無駄だ。いいかい、これからは極力あの2人には近づかない事。わかったね」


「…はい、分かりましたわ」


私から近づかなくても、向こうから近づいてきたらどうするの?と言いたいが、きっとその時は軽くあしらえという事だろう。他国の王族に、そんな事ができるかしら?


「さあ、馬車に着いたよ。今日は疲れただろう。ゆっくりお休み。本当は送っていきたいのだが、生憎まだあいつらの相手をしないといけないから。ごめんね…」


そう言うと、私の額に口づけをして馬車から降りた。


「リュカ様、くれぐれもマリーゴールド殿下には気を付けて下さいね」


「ああ、分かっているよ。それじゃあ、また明日、侯爵家に迎えに行くからね」


馬車に向かって手を振るリュカ様。私も手を振り返す。なんだか今日は色々と疲れたわ。ゴーン王太子殿下といい、マリーゴールド殿下といい、本当にちょっと変わっているわね。


明日から貴族学院にも来るだろう。ゴーン王太子殿下は2年生だから、かかわりが少ないだろうけれど、マリーゴールド殿下は同い年だ。きっとクラスも一緒のはず。間違いなくリュカ様に絡んでくるだろう。


とにかく、私も気を引き締めて行かないと!




翌日、いつもの様にリュカ様がお迎えに来てくれた。


「ジュリア、おはよう。今日からフェリース王国の2人も貴族学院にやって来る。いいかい?あまり関わらない様にするんだよ」


「おはようございます、リュカ様。はい、分かっておりますわ。さあ、参りましょう」


リュカ様と一緒に、馬車に乗り込んだ。


「そうそう、これを」


リュカ様が渡してくれたのは、エメラルドのイヤリングだ。急にどうしたのかしら?


「君に似合うと思って。僕が付けてあげるね」


そう言うと、私の耳にイヤリングを付けてくれたリュカ様。


「ありがとうございます。大切にしますね」


思いがけないプレゼント。ちょこちょこ私に色々な物をプレゼントしてくれるリュカ様。今回もこんなに可愛いイヤリングを下さるなんて。それも私の瞳の色と同じ、エメラルドグリーンの宝石だ。


このイヤリング、私の宝物にしよう。嬉しくて、つい頬が緩む。


学院に着くと、2人で手を繋いで教室へと向かった。すると


「リュカ殿下。おはようございます。今朝一緒に登校しようと思ったのに、いらっしゃらないのですもの。あら…あなたと一緒だったの…」


リュカ様を見つけたマリーゴールド殿下が、嬉しそうにこちらに走って来た。相変わらず私を睨んでいる。


「申し訳ないが、僕は毎日ジュリアと登下校しているんだよ」


そう言うと、スッとマリーゴールド殿下から離れた。どうやらリュカ様は、マリーゴールド殿下が苦手な様だ。悔しそうに私を睨みつけているマリーゴールド殿下。


その後授業が始まり、改めて皆にマリーゴールド殿下が紹介された。そして休み時間。


「ジュリア嬢、君に会いたくて来ちゃった」


やって来たのは、ゴーン王太子殿下だ。また面倒な人が来たわね。


すぐさま私の元にやって来たゴーン王太子殿下。それを見たリュカ様が、私の腰をぎゅっと掴む。


「ゴーン王太子殿下は確か、2年生でしたよね。どうかされましたか?」


「どうしてもジュリア嬢に会いたくて来たんだ。制服姿、よく似合っているね。そうそう、私はこの国に来たばかりで、この国の事をよく知らないんだ。今日にでも、王都の街を案内してくれないかい?」


えっ?私が王都の街を?


「まあ、それはいいですわね。それなら、私はリュカ殿下に案内してもらいたいですわ」


すかさず話に入って来るマリーゴールド殿下。


「申し訳ございません。ゴーン王太子殿下、私は王都にはあまり詳しくはないので。もっと詳しい方に案内してもらってください」


「僕も王都の街にはあまり行かないんだ。そうだ、執事に案内させよう。王宮に戻ったら、早速手配をさせるよ」


やんわりと断りを入れた私を、リュカ様が援護してくれた。


「私はジュリア嬢に案内してもらいたいんだ。そういえば王都にも、君が開発したお菓子を食べられるお店があるそうじゃないか?そこを案内してもらえればいいから」


なぜか食い下がるゴーン王太子殿下。


「わ…わかりましたわ…でも、今日は忙しいので、また今度でよろしいですか?」


「ジュリア!!」


すかさずリュカ様から抗議の声が上がる。ごめんなさい、リュカ様、これ以上ゴーン王太子殿下をあしらう術は、私には持ち合わせていません。


「よかった。それじゃあ、明日はどうかな?」


「えっと…明日はちょっと…来週くらいなら…」


「わかった、来週だな。それじゃあ、私は次の授業があるから」


そう言うと、さっさと教室から出て行ってしまった。来週、ゴーン王太子殿下をお店に連れて行かないといけないのね…なんだか、気が重いわ…

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