後編 これから
チュンチュンチュン
俺は、早朝特有の静かな雰囲気の中、鳥の
今は、始発の電車もまだ走っておらず空気全体が青く澄み切った様な印象で思わず深呼吸をしてしまった。
ふー、はー、ふー、はー
まだ待ち合わせには早いので、しばらく公園の池の周りを歩いて時間を潰していると池の反対側から、妖精の国からやってきたかの様な女性がこちらに向かって来てそして声をかけて来た。
「ケンタさん♪ おはようございます♪」
「おはよう。シズカさん。今日も綺麗ですね」
最初誰だか分からなかったが、声を聞いてそれがシズカさんだと確信が持てた。だけれど
「それで、えぇと。その格好は?」
「あ、これ私の好きな漫画のコスプレなんですよ」
そう言って、シズカはその場でクルッと一回転をしてポーズを取った。
「どうですか?♪」
その姿は、とても綺麗で可憐だけれど。彼女は一つ勘違いをしている。俺は彼女を傷つけない様に言葉を選んでゆっくりと話しかけた。
「シズカさん、そのですね。コスプレは自宅からするものではなくて。会場でするのですよ?」
「えっ。そうなんですかっ!?」
「俺はやった事ないけれど。そうだと聞いてますよ」
「そ、そう、なんですね………もう着てきちゃいました」
「まぁ、今日はこのまま行きましょうか。時間もないですし」
しょんぼりしてしまったシズカを見続ける事が出来なくなった俺は、腕時計を見る振りをしてそう言った。
「はい。仕方ないですね。あ! それとケンタさんに言いたい事があったんですっ」
「はい、なんでしょう?」
「今日はその敬語をやめませんか? なんだか仕事をしているみたいで、遊びに行く気分になれません」
「それもそうですね………いや、そうだな。そろそろ行こうかシズカさん」
「さん付けも禁止♪」
その笑顔は、まるで子供の様であると同時にこれからの期待に胸をふくらませるている清らかな乙女の様に感じた。
(今日は、彼女の希望は出来るだけ叶えてあげよう)
「それじゃ、いこうか、シズカ」
「はいっケンタさん♪」
「そっちも、さんずけ禁止」
「うん。ケンタ♪」
敬語を使わなくなり、さんずけを取っただけ。その距離感がとても心地よく感じたんだ。
――それから電車に揺られ
コスプレをしてしまっているシズカさんが周りの人視線を浴びてしまい。彼女は萎縮してしまっていたが、なんとか和ませようと色々話しかけていると彼女は微笑んでくれる様になった。
そうすると、二人だけの世界に居る様でこのままどこかに旅立ってしまいたい。そんな気持ちを感じた。
――コミケ会場についた。
電車を降りて会場に向かうと始発から来た人がいっぱいですごい行列が出来ている。シズカは最初、戸惑っていたが周囲があまりこちらを見ない事に気付くと段々と落ち着いてきた。
しばらくすると、段々気温もあがり立って居るのも辛くなってくる頃合いだ。俺は持って来たカバンから、タオルと水が入ったペットボトルを取り出し彼女に手渡した。
「はい。タオルとお水」
「ありがとう♪ 私、コミケ会場がこんなに大変だと思ってなかった」
「まぁ、初めての時はそうだろうね。俺も友人に連れられて来た時はびっくりしたよ」
「その友人さんは男の人? 女の人?」
「男だけれど?」
「そっか。よかったぁ」
そう言えば、こんな美女に彼氏が居ない。だなんて事があるんだろうか? ふと気になってしまった。今まで浮かれていた気持ちが急にしぼんでしまった。
「なにか、ありました?」
「また敬語に戻ってるよ」
「あっ……何かあった?」
「いや、なにも……それより、次いこうよ」
気になった事を聞いてしまいたいが、もし『彼氏が居る』だなんて言われたら。この時間が色あせてしまう。そんな気がしてしまったんだ。
――二人して色々なサークル巡りをした。
俺が以前友人に連れられて来た時は、どのサークルで何を買うのかを指定されて回って行っただけだった。今回も自分の意思ではないのだけれど、シズカと回るコミケ会場は前回と違って色づいて見えた。
「あ、この本欲しいです! あ、こっちも!!」
「その本は俺も欲しいな」
「それじゃ、今回は私が買いますから、貸しますよ。もう荷物がいっぱいですし」
そう言いながらシズカは俺の手提げとカバンを見て眉を下げながら口をすぼめている。そんなしょんぼりした表情がまた絵になっている気がする。
「俺は今回、付き添いだからシズカ優先でいいよ。でも、もし貸してくれるなら嬉しい」
「えぇ。もちろん♪」
そんな二人だけの時間を過ごしているとカメラを持った男性に話しかけられた。
「あのっ! 一枚写真撮らせて貰っていいですか⁉︎」
「え、え? 私ですか!? ど、どうしましょうっケンタさんっ」
「シズカがその気があるのなら、少し離れたところで撮影しようか。もちろん俺も付いてるから安心して」
「はいっ。ケンタさんが居れば安心です♪ お願いしますねっ♪」
「ありがとうございます! それじゃポーズお願いしますっ」
「ポ、ポーズだなんて……」
「あっ、その表情良いですね! 頂きましたっ! とても良いです!!」
俺は少し離れた所でそんなやりとりを眺めていた。今日は本当に色々なシズカの表情を見れた事に幸せと少しの心の棘を感じている。
「はうっ。そんな事ないですっ」
「いえ、とてもいいですよっ。もう何枚かいいですか?」
「はい。大丈夫です」
「それも、いいですね! 頂きましたっ!!」
小さくガッツポーズを取る姿も可愛くてカメラオタク君も俺も癒された気がする。
「ありがとうございますしたっ。写真は送りますね! SNSやっていますか?」
「SNSやっていません………」
「俺やってますよ。交換しましょう」
「僕のIDはこれです。今日はありがとうございましたっ」
そう言いつつ、彼は去って行った。終始、丁寧な対応の人だったな。心配の必要はなかったのかもしれない。
「あの、俺もいいですか?」
しかし、これで終わりかと思ったら次々と、カメラを持った人が押しかけてきた。
――どうやらまだまだ、撮影会は続きそうだ。
それからは俺たち二人はサークル巡りが出来なくなり、初めて一緒に行った夏コミは終わった。
「お疲れ様。今日は楽しかったね」
「お疲れ様でしたっ。今日は本当にありがとう♪」
二人で電車で帰る時にシズカと隣に座ったけれど彼女はとても疲れていた様で、ウトウトと眠ってしまい。頭が俺の肩に乗っかってしまった。
声をかけようかとも思ったが、その姿がとても愛らしく、まるで絵画の様で、簡単には触れてはイケナイ物の感じてしまった。
そんな夢の様な時間も過ぎ去り。俺たちは最寄駅に戻って来てしまった。夢の国から帰ったばかりの登場人物かの様な消失感を感じつつ別れの挨拶をする。
「今日はありがとうございましたっ! とても楽しかったです!!」
「俺も楽しかったよ。シズカさん」
なんだか、また敬語に戻ってしまった。 ――それが、もう一夏の思い出の終わりを表して居るかの様でとても寂しくなった。
お互いを見つめ合いながら、何かを言い出そうとして言い出せない。シズカの瞳の奥に吸い込まれそうな感覚を味わいつつ自問自答する。
(俺ってこんなに臆病だったのか。すぐに言葉に出来ない事がなんだか、とても歯がゆい)
やがて意を決して彼女に想いを伝える事にした。
「以前、君は『思い込んだら一直線』と行っていたけれど。それは俺も同じだったらしい」
「え?」
「今は、シズカ。君のことが好きだ。付き合って欲しい。一夏の思い出じゃ嫌なんだ」
「あ、ありがとう。嬉しいぃ。私もそう思ってたっ」
彼女は瞳に潤ませつつこちらに近づいてくれた。それを優しく抱きとめてる。
(この娘に触れても良いんだ。そんな関係になれたんだ)
そんな気持ちを感じていると、彼女は今日の気持ちを伝えてくれた。
「本当は、迷惑なんじゃないかと心配してたの。今日、大変だったでしょう?」
「迷惑なんかじゃないよ。とても楽しかった」
「それはどうして?」
「君と一緒だったからだよ。今までで一番楽しい時間だったと思う」
「よかったぁ。それじゃ、今度は冬コミも一緒に行ってもらえますか?♪」
「もちろんだ。一緒に行こう」
「ふふ、とっても楽しみだね♡」
これからも二人で色々な夢を作って行きたい。そう思った。
おわり
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あとがき
ホメテノバス様向けのシナリオになります。
楽しんでいただけたら幸いです。
今後の予定として
幽霊物
ヤンデレ義娘
塩対応幼馴染
ヤクザ顔
ボクサー物
ハーレム物
社畜が振られたら人生好転した
ツンデレ部下
が納品済みなので順次公開されていきます^ ^
それでは今後とも宜しくお願い致します。
面白かった!と言う方は是非
☆、フォロー、いいねをお願いいたしますっ。
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追記2022-06-09
動画の方がメンバー限定動画になったみたいですので、
現在、無料では見れなくなりました。
再生数はそこまで伸びてなかったですが……んー。
聞くのが怖くて、よく分かりません(;・∀・)
大学生の俺、本屋でアルバイト中にオタク美女がDQNに絡まれているのを助けたら 一夏の思い出が始まった ケイティBr @kaisetakahiro
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