大学生の俺、本屋でアルバイト中にオタク美女がDQNに絡まれているのを助けたら 一夏の思い出が始まった
ケイティBr
前編 出会い
『私と一緒に行って貰いたい場所があるんですっ! 助けて貰えませんか? お金なら有りますっ』
『まぁ、まずは落ち着いて。どういう事か教えて貰えるかな?』
俺は、一橋ケンタ。大学最後のアルバイト生活に勤しみつつも就職活動をしようと考えていたある深夜の事だった。
いつもの様に本屋でバイトをしていると、店内で言い争いが起きていた。
「ヤメてくださいっ」
「良いから一緒に行こうぜぇ」
(本屋は本来、静かな空間であるべきなんだ。その静けさを乱す奴を俺は許さない)
放っておくと大事になりそうな言い争いをしている男女に声をかけた。
「お客様? 他の方に迷惑ですので………そう言った事は店外でしていただけませんか?」
「なんだぁ? テメェはぁ? 客に指図するのかこの店は、店長を出せっ」
どうやら、このお客様はお酒に酔っているらしい。こう言った手合いは、一度頭を冷やせば大抵なんとかなる。
他の店員と目配せをしていつもの様に対処する事にした。
「お客様、ここは本屋です。お買い物をされるのであれば、何をお探しでしょうか?」
「あん? 俺が探してるのは『運命の人』だよ。もう、見つけたから、あっち行ってろっ!!」
ふぅ、どうやら完全に酔っ払っている様だ。どこの本屋がそんなサービスをすると言うんだ。
大方酔っ払ったせいで、どこかの飲み屋と間違えてるだろ。
絡まれている女性の方を見るとメガネとマスクをしているせいで、顔が良く分からないがどこか人を惹きつける様な、そんな魅力を感じる女の娘だった。
それに、どこがとは言わないが体の凹凸もしっかり強調されている。
「こちらのお客様はそう仰られていますが、あなたはこの方にご興味はあるのでしょうか?」
「(フルフル)」
メガネの女性は首を振って否定している。突然の事でびっくりしているようだ。
彼女の意思は確認出来たので、酔っ払っている男性を追い払おうと声をかけた。
「わかりました。それでは、お客様は交番に行きましょうね♪ 今までの会話は録音しておりますので、ご安心を♪」
「はっ? 録音? な、なんの権利があってそんな事してんだよ!?」
俺は、制服のポケットに入っている先ほど録音中にしたスマフォを叩いてアピールをした。
「接客に間違いが無い様に記録させて頂いております」
「い、いや、そんな事はしなくていい。もう、酔いは冷めたから。そんな顔すんなよ。な?」
笑顔で接客しているつもりだったが、どうやら俺は少し嗜虐的な顔をしてしまっていたらしい。
「じ、じゃぁ、もう帰るから。そっちの姐ちゃんもじゃぁな。俺はなにもしてないからなっ」
そう言い残しつつ、酔っ払いは去っていった。
(ふぅ。帰ってくれた)
今日のお客様は比較的話のわかる方でよかった。ここは歓楽街に近い本屋で、たまに大騒ぎになりますからね。
ひと段落ついたので、アフターフォローの為に改めて絡まれていた女性に声をかける。
「大丈夫でしたか? お嬢さん?」
「あ、あのっ。お名前を教えて貰ってもいいですか?」
(どうして名前を聞いて来るんだろう?)
「ケンタです。もう大丈夫ですよ。えぇと……」
「シズカって言います」
「シズカさん。良い名前ですね。ぴったりの名前だ」
シズカ「えっ。そうですかっ♡ 私にぴったりですか♡」
ケンタ「ん? えぇ、お似合いですよ?」
大人しそうな喋り方と外見に本当にぴったりだったので、思わずそう言ってしまってから気づいた。これじゃ俺がナンパしているみたいじゃないか……
そう気づいてしまって、お互いに無言になるとシズカさんは体をもじもじさせ始めて、やがてマスクを下げてそのピンク色で潤んだ唇を覗かせつつ俺に問いかけて来た。
「あの! ケンタさん私と付き合ってもらませんか!? 一夏でいいんですっ!! そうすれば!!」
覗かせた唇から紡がれた驚くべき内容に衝撃を受けつつも冷静な自分がいて
――いったい突然何を言い出すんだろう。吊り橋効果って奴だろうか?――
――どちらにしても一度、落ち着いて話を聞いた方が良いかもしれない――
と、落ち着いた返答をしようとした。けれど
「シズカさん、声が大きいですよ。詳しい話は休憩室の方で聞きますから、声を抑えて」
「あっ。すみません。私ったら」
そう言うとシズカさんは気落ちしてしまったが、俺の心の中はそれどころでは無かった。
(休憩室っていい方はないだろ! バックヤードと言って伝わるか分からないからそう言ってしまったが、女性を休憩室に誘うだなんて……シズカさんが気にしてなくてよかった……)
俺はシズカさんを先導して、本屋のバックヤードに向かった。途中、同僚のアルバイトにも軽く挨拶をしたが、なぜだかニンマリした顔でサムズアップしていた。
違うそうじゃないっ。
――二人で連れ立って、バックヤードの暗がりにやってきた。
目の前の錯覚かもしれないが、なぜかシズカさんの周りだけは、少し輝いている様に見えた。
「それで、シズカさんのお願いについて詳しく聞かせてもらえますか?」
「はい。お話します。それと先ほどは顔を隠したままで申し訳有りません」
先ほど、少し見えた唇が露わになって、マスクを外した事で頬のラインから首筋が見えて、思わず唾を飲み込んでしまった。
全体として、目鼻立ちが整っていつつもどこかスキのあるとても愛らしい女性が居た。
「もう一度になりますが。ケンタさん私と付き合ってもらませんか!? 一夏でいいんですっ!!」
「私と一緒に行って貰いたい場所があるんですっ! 助けて貰えませんか? お金なら有りますっ」
目の前の女性が、突然、一夏だけ付き合ってください。しかもお金ならあります。だなんて言われて動揺しないわけがない。
俺は、自分の心臓が高鳴るのを感じつつも出来るだけ冷静に声をかけた。
「まぁ、まずは落ち着いて。どういう事か教えて貰えるかな?」
「すみません。本当、私ったら。『思い込むと一直線』で、よく家族にも言われるんです」
「シズカさんが純粋な方だとはわかりました。けれど、どういう事なのか分からないので説明して貰えませんか?」
(しかし、同時に心配になってしまうな……)
――少しの逡巡の後、意を決したシズカさんは願いを語り出した
「えっとですね。ケンタさん。コミケって知ってます?」
「えぇ。知ってますよ。以前友人に誘われて行きました」
「そうなんですねっ! そうしたら今年の夏コミ一緒に行ってもらえませんか?」
「えーと。なぜ会ったばかりの俺にそんな事を?」
君みたいな人なら、誘えばすぐに誰かが来てくれるんじゃないか? 思わずそう問いかけそうになるのをなんとか自制しつつ、続きが語られるのをまった。
「私、さっきみたいによく男性に絡まれるんです。だから行ったみたいと思っていたコミケに行けないんだ。そう思ってました。けれど、今日ケンタさんに助けて貰って、この人となら行けそうだと思ったんです!!」
ちょっと早口で喋る彼女の姿と、ささやかな夢が微笑ましく感じ。夏コミに行きたいと言う夢を叶えてあげようと思った。
「わかりました。俺で良ければ協力しますよ。その一夏の夢を一緒に叶えましょう」
シズカ「ありがとうございますケンタさん♪」
感極まったのか手を握って来た彼女の手の温もりを感じつつ。
この時、俺はもう一夏の思い出以上のことを期待してしまったのかもしれない。
つづく
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あとがき
前後編で完結する短編です。
よろしければ後編もお願いいたします。
後編は翌日、朝6時に投稿されます。
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