第35話 前澤社長から与えられる罰

 父親の許しを得て、キラリのVtuber辞職騒ぎは一件落着――とはならなかった。

 ある意味、ここからが本番だ。


 キラリは解決したのだが、大人っていうのは問題が終わってからの事後処理というものがある。


 俺は前澤社長に呼び出されていた。


 カチンコチンに固まっていた。

 何故なら前澤社長が激怒しているからだ。


「今日はどうして呼ばれたのか分かっているかしら?」


 両手を重ねながら、重々しい口調で質問を投げかけてくる。


 これは、分かりませんなんて答えたら更に怒りが増すような質問の仕方だ。


「……ええ、推測はできます」

「言ってみてちょうだい」

「お説教……ですよね?」

「正解」

「そんなクイズ番組みたいなポップな言い方されても……」


 正直困る。


「どうして私が怒っているのか分かる?」

「うわー」

「何よ、うわーって」

「い、いいえ!! すいません!!」


 完璧に当てないと怒られる質問の定型文みたいなものを言われたから、思わず本音が漏れてしまった。

 そういう言い方はパワハラにならないのかな、今の時代って。



「俺がキラリの両親との話し合いの時に出しゃばったからですよね」

「そうね……」

「すいません。前澤社長には黙っているように言われたのに」

「うん、そうだけど、そうじゃない」

「え?」


 前澤社長が年齢不相応にむくれる。


「私はそんなに頼りにならないように思った?」

「い、いいえ、そんなことはっ!!」

「だったらもっと頼って良かったんじゃない? あなた、あの時一人でどうにかしようとしていたでしょ。それが私は嫌だったの」

「すいま、せん……」


 あの時は視界が狭くなっていた。

 前澤社長のことも忘れるぐらい、キラリの父親に食って掛かっていた。

 確かに、あの時の俺はどうかしていたかも知れない。


「我慢できずに口を出してしまいました。何か罰があるなら何でも受けます」

「罰って大袈裟ね……。今度からは気を付けて欲しいって釘を刺したかっただけ。今回はたまたま上手くいったけど、次はどうなるか分からないんだから。もしもキラリが飛びだしてこなくて、あのまま父親を激高させたままだったら、あなたに何かしらの処分を下していたかもしれないけどね」


 それはそうだろうな。


 あのままキラリの父親を怒らせたままだったら、訴えてやると憤っていたかも知れない。

 そうなったら、俺の身を守る為にも、前澤社長は俺のことを解雇する手段を取らざるを得なかったかも知れない。


 それを遠回しに忠告してくれているのだろう。

 優しいんだか厳しいんだか。


「でも、大声出していたのだって計算していたんじゃないの? キラリが飛び出してくるように」

「それは……覚えていません」

「そう……」


 覚えていようが、覚えていまいが。

 どちらにしても、そうですとは言いづらい質問だったな。


 この人、結構意地悪な聞き方するなあ。


「……そうね。説教するだけで終わらせようと思ったけど、せっかくだからあなたには罰を与えます」

「え?」


 本当に意地悪なこと言い出した。

 説教とか言わない方が良かったかな?


「漫画家目指していたんでしょ? 読ませて」

「――す、捨てました!! 自分の漫画なんて!!」


 一瞬、意識が飛んだ気がした。


 この人、わざとじゃないとは思うけど、俺にとって最悪の嫌がらせの方法を思いつきやがった。

 漫画家目指してたことなんて俺にとっては最早黒歴史だ。


 あの頃は俺は絵うめええええ。

 プロなんて雑魚。

 とかアホみたいなこと思っていたけど、今見返したら、俺の絵なんてゴミです。


 恥ずかしくて他人になんか見せられる訳がない。


 なんだろうな、こう。

 上手く言えないな。

 ただ、俺の漫画はゴミだったのだ。

 それだけは確かだ。

 プロの漫画と何が違うのかは明確に挙げることができない。

 それなりに上手い絵は描けていたんだけど、眼が滑るんだよな。


 内容も王道を勉強して、みんなに読まれるような作風で、今風の絵も勉強した。

 でも、それでもゴミだったのだ。


 俺はプロになれなかったから、自分の作品の悪い所を上げることすらできないぐらい漫画を理解してないんだよな。


 そういうことを漫画知らない人に言っても、余計に分からないんだろうな。


「じゃあさ、今から描いてみせてよ。どんな漫画描いていたか気になるから」

「も、もう漫画なんて描きませんよ」


 俺はたまらず逃げ出す。

 話も済んだことだし、ここにいたら実際に俺が漫画を描き続けるまで言っていそうだ。


「だって俺はもうVtuberのマネージャーですから」


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