第20話 事務所の収録室でJKリフレ
事務所の収録室を借りて、今日はリハーサルをやった。
だが、キラリはどうも元気がない。
最近、何か悩みがあるようにも見える。
「聞いているか? キラリ」
「ああ、はい、マネージャー……」
やっぱり心ここにあらずといった様子だ。
キラリはこれからが大事なのだ。
頑張って欲しい。
「リハーサルはやったから、次は本番だぞ」
「……はい」
頑張って欲しいが、やはり元気が出ないようだ。
やっぱり、久しぶりの配信が怖いんだろうか。
ついに配信をすることが決定した。
いきなり配信をするのも難しいだろうからと思い、事務所に相談してリハーサルした。
内容的には最初に軽くこの前のプリ炎上についての謝罪をして、特技であるピアノを披露するという流れだった。
リハーサル中はプロ根性を発揮して、しっかりと配信出来ていた。
でも、今はすっかり気が抜けているようだった。
今のままでもいいけど、少し心配だ。
「疲れているならマッサージでもしてあげようか?」
「え? いいんですか?」
「え?」
軽い冗談のつもりで言ったのだが、真に受けてしまった。
もしもお金があったらマッサージチェアを家に欲しいぐらいだけど、女子高生がマッサージなんているもんか。
肩なんてこるのかな。
「じゃあ、肩もみでもしようか?」
「はい! お願いします!!」
「お願いしますなんだ……」
「え?」
「いや、何でもない」
最近の若い子はスマホをやるから、自然と猫背になりやすいって聞くな。
そのせいで頭痛や肩こりになりやすいって聞くけど、そういう類の肩こりになってしまっているんだろうか。
だったら、マネージャーとして担当Vtuberのこりを失くしてあげたい。
「……んっ」
艶めかしい声が漏れる。
何だか悪いことをしていないのに、罪悪感が……。
そもそも今日の格好も絵面的にヤバイんだよな。
学校帰りにリハーサルをしたせいで、キラリは制服を着ている。
そしてスーツ姿のアラサーが制服姿のJKの身体を触っている。
これ、下手したら通報ものですね。
チラチラと扉の辺りに視線を送る。
誰か入ってこないだろうな。
ここで入ってきたら、自分の担当Vtuberに手を出していると勘違いされそうだ。
「い、いい、気持ちいいです……」
「そ、そっか。意外に肩こってるな」
魘されるように言葉を発するキラリ。
目を瞑って顎を上に上げている姿は、まるでキスをせがんでいるようだった。
「…………」
俺は無言で目を逸らす。
変な気持ちになったら駄目だ。
キラリだって、俺のことを安パイだと思って――いや、マネージャーとして信頼してくれているんだ。
俺が勘違いしてどうする。
最初は痴漢扱いされたのに、こうして自分の身体を触らせてくれるぐらいには信頼してくれたのだ。
何も考えずに自分の手に全神経を集中させるのだ。
「ん、ん、いい!!」
何がいいのかなー。
……いや、駄目だ。
これは巧妙な罠だ。
引っかかったら冷たい飯を食う事になる。
「あっ、ちょ、ちょっと強い、かも知れないです……」
「ご、ごめん……」
肩を揉んでいた指の力を緩める。
思わず力が入っていたようだ。
危ない、危ない。
あ、
「――あ」
ゆさゆさと揺れる胸が視界に入る。
小さいかもしれないけど、俺が力を入れるたびに揺れるその胸に釘付けになる。
ゆさゆさ。
ゆさゆさ。
も、もう無理だ。
これ以上は気恥ずかしさで耐えられない。
「そ、そろそろいいかな」
「えー。もっとやってくれてもいいですよー」
マッサージのお陰で気持ちが良すぎて変なテンションになっているな。
滅茶苦茶可愛らしく甘えてくる。
頭を俺のお腹ぐらいにぶつけてきて、ぐりぐりしてくる。
その体勢のままだと胸見そうなんですけど。
「指が吊りそうだからもうおしまい」
「それじゃ、今度は私がやりますよ!!」
「えっ、いい、そんなの」
「いいから、いいから座って下さい。お礼ですから」
無理やりに座らせられる。
相手は俺の担当Vtuberだ。
しかも、日本でも有数のVtuber事務所である『ビサイド』の新人だ。
そこらのアイドルよりも人気がある彼女にマッサージなんてさせられない。
だが、マッサージをされると、
「うわっ、気持ちいい……」
俺は立ち上がる意思を根こそぎ奪われてしまう。
気持ち良すぎる。
マッサージって、こんなに気持ちいいものだったか?
マッサージなんてされる機会なんてないから忘れていたけど、これはハマる。
JKリフレとかいう商売がこの世の中に生まれる訳だ。
しかも俺は無料で、それも大人気の女の子にされるがままになっている。
こんな夢見心地になることがあるんだろうか。
「お客さん、こってますねー」
「あー」
気持ち良すぎて適当な相槌しか打てなくなっている。
変な呼び方をされても気にならない。
永遠にこの時が続けばいいのに。
「お客さん、髭ジョリジョリですねー」
「おい、どこ触ってるんだ」
せっかくいい気持ちだったのに、俺の顎を触り出した。
男と接することがないので珍しいんだろう。
男嫌いの設定どこいったんだ。
「お、おい!!」
顎に触るだけでは飽き足らず、俺の腰辺りにまで手を伸ばしてくる。
逆セクハラだろ、こんなの。
俺だってキラリほどじゃないが、過去の経験から異性には抵抗感があるんだが。
「大丈夫ですかね、私……」
振りほどこうとしたが、その弱弱しいキラリの声に俺は静止する。
後ろから抱きしめられたまま、俺はポツリ、ポツリと呟くキラリの言葉に耳を傾ける。
「配信日、次の金曜日なんですよね?」
「ああ、もう予告もしたからな……」
SNSで告知をした。
もう逃げられない。
ここで逃げたら、また非難の声が大きくなる。
それに、逃げ道を用意しているとまたズルズルと配信日がズレてしまう。
だから告知をしたし、それをキラリも了承してくれた。
だが、覚悟が揺らいでしまったんだろうか。
「SNSには批判の声もありましたよね?」
「少しだけだ。活動を続けるなら絶対にああいう奴等は増える。無視すればいい」
「でも――」
俺は手を伸ばす。
ビクン、と怯えたようにキラリが身を竦める。
もしかしたら手を跳ね除けられるかもしれない。
そんな予感がしたけど、そうはならなかった。
「大丈夫。キラリはできる。本当に辛い時はまた俺に言えばいい」
俺はキラリの髪に触ってクシャリと撫でる。
嫌な顔はされなかったし、手を弾くこともなかった。
だから、また撫でる。
「俺がちゃんとキラリの本当の声を聴くから」
SNSには、無責任なアンチコメがある。
配信日には匿名のアンチがどこからともなく湧くだろう。
だけど、そんな言葉なんて気にしないで欲しい。
俺が絶対支えるから。
キラリの声はちゃんと傍で聴くから。
「ありがとう。マネージャー」
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