第18話 食卓は家族で囲むのが我が家の家訓(河野未来視点)
食卓を四人で囲む。
河野家の決まりの一つで、どれだけ忙しくてもなるべくみんなでご飯を食べる。
それが我が家訓だ。
私からしたら、本当に嫌な家訓だ。
「最近、帰って来るのが遅いんじゃないのか?」
私の前には仏頂面の父親が、卵焼きに箸をつけていた。
卵焼きに醤油をかけて食べている。
だしをちゃんと入れて味が付いているのに、わざわざ醤油を足しているのだ。
家族なのに私と味覚が合わないし、仲が良いとは言い難い。
「……バイトだから」
「なんでそんなに金が要るんだ? お小遣いじゃ足りないのか?」
どうしてこの父親は何かと詮索してくるんだろうか。
警察に尋問されている気分になる。
ご飯を食べている時ぐらいは、何も考えずに食べたいのに。
「彼氏でもできたんじゃないの……。バイト増やしたのだってデート代がいるんだよ」
弟が気怠そうに呟く。
最近は反抗期なのか昔よりか口を利かなくなった。
だが、父親に比べれば仲良しだ。
「彼氏だと、おい!! ここに連れてこい!!」
「何言ってるんだか。彼氏できたら即座に連れてくるのだっておかしいでしょう。デートやバイトぐらい未来の自由にしてあげればいいでしょうに」
「未来はまだ高校生だぞ!! 何かあったからじゃ遅いんだ!!」
父親は短気で、母親は穏やかな性格をしている。
二人とも性格が真逆なのに、よく結婚できたものだ。
母親は冗談っぽく、弟が二十歳になったら父親と離婚すると言っているが、眼は笑っていなかった。
母親は我慢するタイプだから、色々と父親に関してストレスを抱えていそうだ。
「私が高校生の時は、彼氏がいない時期なんてなかったぐらいよ。彼氏がいないなんて逆に心配だわ」
「え……? こ、子どもの前でそんなこと言わなくていい!!」
母親は娘である私から見ても綺麗だ。
若い頃はもっとモテていたに違いない。
父親が動揺している姿を見て少し胸がスッとした。
「いいか、未来。彼氏を連れてくるならまともな奴を連れてこい!! 将来の夢は公務員の奴を連れてこい!! ビジョンのない奴は安定した職業に就けないんだ!! 間違っても年の離れたフリーターなんか連れてくるなよ!!」
「別に誰と私が付き合おうと関係ないでしょ」
「関係ある。私は親だからな!! 子どもが間違った道を行くなら止める義務があるんだ!!」
父親は頑固な所がある。
自分が決めた事は絶対に曲げない。
頼もしいところもあるけど、たまには私の自由を許して欲しいと思う時がある。
息苦しいと思う時があるのだ。
「ご馳走様」
「こら、未来、逃げるな」
「――食べ終えたの」
「おい!! ちゃんと宿題してから寝ろよ!!」
「はいはい」
「はいは一回でいい!!」
私は席を立つ。
これ以上父親の話なんて聞くに堪えない。
なんで毎日毎日説教じみたことを言われないといけないんだろう。
勉強もスポーツも自分なりに頑張っているのに、それも認めてくれない。
父親から褒められた記憶はないかも知れない。
「…………」
逃げるように歩いていると、横目にガラス張りの棚が眼に入る。
中には表彰状やら小さいトロフィー、よく分からない野球選手のサインボールなどが入っていた。
私のピアノの表彰状もあった。
「はあ……」
私は部屋に戻るとベッドに沈み込む。
それから何をするでもなく、ベッドを軋ませる。
私がピアノを始めたのは、私がピアノを好きだったからじゃない。
父親が女の子らしい習い事をしろと言ったからだ。
一回、色んな習い事教室や塾などに引きずり回されるように見学に行った時があった。
――どこがいい? 俺はピアノの習い事がいいと思うけどな。
拒否権なんてなかった。
子どもながらに父親の期待に応えたいと思った。
本当は水泳とか、バレーとかもっと興味がある習い事があった。
でも、ピアノにするしかなかった。
ピアノはどれだけ幼い頃に習うかによって、その上手さは変わる。
小学生からでも遅いと言われるのだ。
それを知っている父親はピアノを習わせたかったのだ。
それから私は何年もピアノを習った。
ピアノの先生は厳しくて、弾けるまで家に帰さなかった。
私のピアノを他の生徒に聴かせて、みんなの前で馬鹿にした。
こんなピアノが弾けない人間は、みっともない人生を送るに決まっていると、謎の人格否定もされた。
それでも私はピアノを頑張った。
ただただ父親に期待に応える為に。
「――でも」
私にピアノの才能がないと父親が見切りをつけると行動は早かった。
父親はピアノを辞めるように言われた。
辞めた直後は嬉しかったけど、どこか胸にポッカリと穴が開いたような気がした。
それからしばらくして、家でテレビを見ていると父親に叱られたことがあった。
――お前がピアノ辞めたんだから、勉強を頑張れ!! もっと成績を上げろ!!
どうやら父親の中では、私がピアノを自主的に辞めたことになっているらしかった。
父親が強制的に私からピアノを取り上げた記憶を失くして、都合のいいように解釈しているらしい。
私は、
――お父さんが私にピアノを辞めろって言ったんでしょ!!
と、言ったけど、父親は、
――そんなことを言った覚えはない!! お前が諦めたんだ!!
と、譲らなかった。
私と父親のことだから、他に証人もいなく、この話は平行線のままだ。
モヤモヤしてきた。
こんなしょうもないことで悩んでいるのは、世界で自分一人だけなんじゃないかって思う時がある。
それが悲しい。
私は世界で一人きりなんだろうか。
誰かと繋がりたい。
だから私は沢山の人と繋がれるVtuberに憧れたのかも知れない。
「連絡来ないかな……」
今は配信ができない。
だから繋がれるマネージャーの連絡が来るのを、私は待っていた。
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