第12話 お風呂はあまり好きじゃない(河野未来視点)
お風呂はあまり好きじゃない。
暇だからだ。
ジッと同じ場所にいなければならない。
音楽でもかけていると気分転換になっていいのだが、それをしていると同居人に怒られる。
お金を稼いで一人暮らしになったら、音楽を聴きながらお風呂に入りたいな。
私は暇つぶしの為にスマホをジップロックに入れて持ち込んでいる。
お風呂は嫌いだけど、健康の為に長風呂はしたいのだ。
ダイエットや美容にもいいとされる半身浴をしながら、スマホを弄っていると今日のことを思い出す。
「今日は大変だったなー」
謝罪文を流してから色んな人の反応が返って来た。
『何言ってんの? これ本当? 嘘じゃないの。もう信じられない』
『公式がそう言っているんだからそうだろ。というか普通に事務所で写真撮っただけだろ。俺は最初から分かっていた。踊らされたお前は馬鹿丸出し』
『誰だよこんなことで騒いでたやつ。つまんな』
『まあ、真実じゃない? 流石にこれでカップルとか無理がある。そもそも他のVtuberも同じような写真上げてるだろ? お前ら確認しろよ』
批判的な意見も多かったが、擁護する意見も多い。
被害は最小限で抑えることができたようだ。
みんなに迷惑をかけてしまった。
きっと、前澤社長だったり、ツルギ先輩だったり、あの新人マネージャーの人だって私が問題児だと思ったはずだ。
もう迷惑を掛けたくない。
心配も掛けたくないから早く動画を上げないと。
早く、早く。
そう思えば思うほど怖い。
誰かに相談したい。
だけど、誰にも相談できない。
家族にも友達にも相談できない。
――むしろ、頑張っているキラリの為に俺ができるのはそれぐらいなものだから。
そう言って私を励ましてくれたマネージャーの言葉を思い出す。
嬉しかった。
それ以外にもたくさん私の味方になってくれる台詞を言ってくれたし、それに私を痴漢から守ってくれた。
見た目は冴えないおじさんって感じだけど、たまには頼りになるかも知れない。
だけど、正直まだ信用ならない。
私のマネージャーを担当した人だって最初はまともな人に見えた。
それなのに裏切った。
男の人で普段からまともに私が話せるのなんて後は二人だけ。
父親と、それから、
「おーい。まだ入っているの?」
噂をすれば影というけど、これじゃ頭に思い浮かべたら影だ。
私がまともに話せる男の最後の一人だ。
「まだ入っているけど。どうしたの? 一緒に入る?」
「ふ、ふざけんなよ! もう入らないって」
バタバタと風呂から去り行く足音が聞こえる。
可愛いものだ。
年齢は近いが相手は年下ということもあって、色々とからかい甲斐がある。
世の中のあの子みたいだった良かったのに。
私はSNSを開くと、別のアカウントに変更する。
勿論、今日問題が起きてしまったアカウントではツイートしない。
だけど、一日一回は私の日常をツイートして、みんなの反応を貰わないと気が済まないのだ。
ツイートをすると私は立ち上がって風呂から上がる。
彼と一緒にご飯を食べないといけない時間だ。
ちなみに文章はみんなに反応してもらえるように、次のようなツイートをした。
『彼氏がお風呂まで来た。恥ずかしがってるけど、今日は一緒に入らないみたいだ。ちょっと前までは一緒に入っていたのに可愛い反応』
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