第8話 『革命の世代』のミヤビ先輩は曜日交代制で動画を出す

 俺が見せたVtuberはキラリと同じ事務所の先輩。

 ファンからは『革命の世代』と呼ばれる二期生の一人で、『源ミヤビ』というVtuberだ。

 俺はこの人を参考にすべきだと思っている。


「ミヤビ先輩?」

「そう。この人の凄いところ同じ種類の動画を連続で上げないところにあると思う」


 源ミヤビの動画がズラリと並ぶ。

 並んでいるサムネの色がカラフルなので、すぐに違いが分かる。


「普通のVtuberは同じゲームを毎日配信してクリアするまでやるっていう人ばかりだけど、それだけ見ている方は飽きてくる。例えば、このVtuberを観て欲しい」


 他社のVtuberを見せる。

 悪い例として見せるが、この人が決して人気がないという訳ではない。

 登録者数80万人は超えている。

 かなりの大物だ。


「このVtuberはFPSの動画ばかり上げているよね。――で、他の動画を観ると――こんな風に再生数がガタ落ちだ」


 FPS系の動画はバズっているが、それ以外は再生数が20%以上も落ちている。

 この人にはFPS以外の動画は求められていないってことだ。

 それが個性だと言ったらそれまでだが、これはかなり危険な状態だと思っている。


「でも、同じ動画を続けて投稿するなんてみんなしていますよね?」

「そうだね。この人は極端な例だけど、視聴者はこのVtuberのファンが好きなんじゃなくて、FPSのゲームが好きなんだ。それにこのゲームは今人気のアプリだよね。もしもこのアプリの人気に陰りが出たら? アプリがサービス終了することだってあるかもしれない。リスクヘッジの為に同じゲームをずっと続けるのは危険なんだ」

「で、でも、このゲームアプリ三年は続いていますよ。それに他のFPSのゲームだってあるじゃないですか」


 人気がなくなったら、別のアプリでゲーム実況すればいい。

 そう考えているなら、それは甘い考えだと言わざるを得ない。

 どんなに繁栄したジャンルだっていつかは人に忘れ去られる運命だ。


「一時期、人狼ゲームが流行ったよね。動画だけじゃなく、地上波で芸能人がやるぐらい流行った。……でも、今は廃れたよね? どんなに人気でもいつかは衰退するものだ」


 Flash動画だって、夢小説だって、電波ソングだって過去の遺物と化した。

 組曲やフタエノキワミ、アッー! なんてインターネット老人会でしか語られない。

 悲しいけど、これが現実なんだ。


「好きなジャンルが認識されていない今でしかチャレンジできないと思っている。動画を投稿すればするほどファンの間でキラリ像が確立されるから、それまでに色んなジャンルのゲームをやっていきたいと思っている」


 上手くいけばあらゆるジャンルの動画が出せるので、ネタ切れに困らなくなる。

 だが、どれも中途半端な再生数の場合、キラリが潰れてしまう危険な手だ。

 ただ企業勢という後ろ盾があり、彼女に適性があるからこそチャレンジする意義がある。


「ミヤビさんの凄いところは、曜日ごとに何をやるか決まっているところだね。月曜日はアクションゲーム動画、火曜日はRPG動画配信。水曜日から木曜日は休みで、金曜日はお酒飲みながら雑談。土曜日は運動配信。日曜日は競馬実況っていう風に何曜日に何をするかを決めている」

「毎週そういう訳でもないですけど、確かにミヤビ先輩は曜日ごとに違うジャンルの動画上げてますね。多才というか、多趣味というか、あの人にしかできない動画の上げ方だと思います」

「まあ、月一動画上げていればいいっていうVtuberの人もいる中でこれだけ配信している人もいないけどね。多分、ミヤビさんが一番『ビサイド』の中で動画投稿頻度高いんじゃないのかな」


 そんなミヤビさんであっても、週に四本、五本配信を上げるのがやっとだ。

 毎日配信動画を上げているVtuberなんて滅多にいない。


 それだけ消耗するってことなんだろうけど、月一でしか動画を上げていない人はどうやって生きているんだろうか。

 メンバーシップのお金だけで生きているんだろうか。

 それとも別にバイトもしているんだろうか。


 自分の勤める会社っていうことで『ビサイド』の公式HPに行ったら、採用条件に最低でも週三で配信すること、とあったのだが、それを守っているVtuberは所属タレントの半数にも満たなかったんだよな。


「ミヤビさんのように週四以上の動画を上げろとは言わない。ただ週二ぐらいは動画を上げて欲しいと思っている。やっぱり土日は上げて欲しい」

「土日の方が見る人も多いですもんね」

「うん。それに学校の問題もある」


 他のVtuberは動画配信に専念すればいいが、キラリには学校がある。

 学校の用事や行事などがあって、週二で配信するのもかなりの負担を強いることになるだろう。

 だが、それでも今のこの時期は配信して欲しい。


「新人の時は少しでも動画を上げて欲しい。最初の一ヵ月、二か月だけ頑張って認知してもらえれば、極端な話、後は月一配信でもいい。人気が出れば勝手に昔の動画を観てくれる人ができるはず。だから、今だけは頑張って欲しい」

「今だけ……」

「ほとんどのVtuberは最初だけ動画の頻度はあって、それからみんな落ちている。それでも再生数を確保できるのはひとえに、みんなから知られているからだよ」


 Vtuberが活動休止するなんて共通認識だ。

 心が病んでしまうからだけじゃない。

 動画投稿を毎日している心の強い人であっても、喉を傷めて病院に行く人が多過ぎる。

 だから多少休んでも問題はない。


「みんな箱推しだからこそ、キラリは最初だけ頑張ってもらえれば休んでもいい」

「箱推しって、『ビサイド』推しってことですよね?」

「そう。『ビサイド』の動画だったら全部観るって人が多い。だからまずは存在感を発揮して欲しい。後はみんな『ビサイド』っていうブランドが後からついてくるはずだ」


 話している内にキラリの表情が硬くなっていった。


「……それって私の実力じゃないみたいですね」

「そんなことない!! この『ビサイド』に入れたこと自体天才なんだから!! 今『ビサイド』の所属タレントの倍率なんて100倍以上だよ。倍率だけなら東大以上なんだから!!」

「…………! 別にそんなこと言われても嬉しくないですけど」


 とか言いながら、顔を赤くしている。


 んー。

 チョロいな。

 

 やっぱり若いと褒められ慣れていないんだろうか。


「それにこのミヤビさんは配信時間が短いのが特徴かな。ゲーム自体は一時間で、その後のスパチャ読みの時間が一時間から二時間。多い人は配信六時間以上とかやるけど、そういう人はすぐに動画投稿頻度が落ちるけどね」


 化け物は24時間配信とかするけど、それを毎日する人なんていない。

 長寿の動画配信者ほど無理はしないものだ。


 普通の人間の配信者だったら、動画を主にやってたまに配信をやってと、ちゃんとペース配分を考えた動画投稿ができる。


 ただ、Vtuberは配信オンリーという固定概念ができあがってしまったしな。


 動画投稿と配信を交互に出す新しいVtuberをしたいと事前に前澤社長へ提案したら秒で却下されてしまった。

 そういう実験は他のVtuberでやっているところだから、キラリにはできないとのことだった。

 残念。

 ただ、他のことなら実験的に試してもいいと御達しがあった。


「……色んなジャンルを日にち置かずに試してみるっていうのは一応考えてみます」

「ありがとう」


 手帳を開く。

 今日話す予定だったものを箇条書きしてまとめてあるのだ。

 内容を確認してキラリに話そうと思う。


「あと他にも動画を投稿することに関しての提案なんだけど」


 俺は『ビサイド』という事務所ではまずあり得ないことを提案する。


「スパチャ読みを止めて欲しい」


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