第7話 『海星キラリ』はVtuberに向いている
会議室Bに入った。
長机とパイプ椅子が複数あった。
会議室というだけあって広い。
次からはもっと狭い部屋を借りられたら借りよう。
広すぎて落ち着かない。
「えっ、と。まずは現状の確認からしたいと思います」
「はいはーい」
適当な返事だが一々相手にしていたら身が持たない。
叱らずに話をしていこうと思う。
「今出している動画が二本。一本目は挨拶。そして二本目は今後の方針についての相談配信でしたね」
「そう、ですね……」
口調が固くなった。
やっぱり、動画二本投稿が少なすぎるっていうのは自覚しているんだろうな。
「再生数はいいですが、これだけだと収益化ができません。つまり、今のままだとただ働きになります。なので、なるべく早く次の配信をしたいです」
「そんなの、私だって分かってますよ……」
登録者数がどれだけ多くても、動画数が少ないと収益できないような仕組みになっている。
動画が収益化されるという状況が近年爆発的に増加したせいで、まだ条件がコロコロ変わっているが、一定の総再生数が収益化の条件という決まりは変わらないだろう。
「二本目の動画でみんなの意見を聴いていたと思いますけど、何かしたいことはありましたか?」
「……あったら動画投稿してますよ」
「うーん……」
昔はVtuberが何をするかはブレブレだったが、今の時代やることといったらもうゲーム配信しかない。
問題はどのゲームを配信するかという話だが、それも正直決まっている。
流行りのゲームをすればいい。
上位の人気Vtuberはみんな同じゲームをしている。
それをただパクればいい。
みんなやっていることだ。
「人気のゲームをラインナップしてみたけど、どれかやりたいゲームはある?」
パソコンの画面を見せて聴く。
プロジェクターも置いてあったけど、わざわざ使うまでもないだろう。
人気のVtuberの動画を全て観る時間はなかったが、サムネイルやタイトルなどを調べてピックアップしたものを見せる。
「……何もやりたくないんですよね」
「好きなゲームは?」
「うーん。特にこれといってないんですよ」
「え? ない?」
Vtuberってゲーム配信か雑談配信がほとんどを占めると思うけど、好きなゲームがないとなると今後の活動に支障を来たす。
Vtuberになったのだから何か好きなジャンルぐらいはあるはずだが。
「全般的にどんなゲームもやりますけど、これが好きだって自信を持って言えるゲームはないんですよ。だから私……Vtuber向いてないんですよね」
どうやらすっかりやる気を失っているみたいだ。
だけど、
「え? なんで? めちゃくちゃVtuber向いていると思うけど」
「な、何言ってるんですか? 私の話を聞いてましたか?」
「聞いているよ。俺はそんなにこの業界のことは詳しくないかも知れないけど、好きなゲームがない方がVtuber向きだと思うよ」
キラリは驚いているけど、俺の考える理屈はそんなに難しいことじゃない。
考え方は至ってシンプルなものだ。
「好きなジャンルがあってそのゲームばっかりしていたらバチャ豚――じゃなくて、ファンは飽きると思うんだよね。だからゲームのジャンルに偏愛がない方がファンを喜ばせられるVtuberになると思う」
「…………!」
「だからキラリには才能はあるよ。俺が保証する」
「あ、あなたに保証されても説得力がありませんから」
「それもそっか!」
素直に自分の未熟さを認めるとキラリは鼻白む。
そんな反応されると思っていなかったという表情だ。
バツの悪い表情をすると、
「だけどありがとうございます。少し、自信が戻ってきました」
「うん! 良かった!」
殊勝なことを言ってくれる。
なんだ、思っていたよりもいい子みたいだ。
きっと、焦ってたんだろうな。
さっきの四期生の人達みたいに苛々しているだけかもしれない。
そうだよな。
思春期だったり、未成年だったりも原因かも知れない。
今振り返れば、俺も高校生の時ずっと苛々していたもんな。
気持ちが制御できないからこそ、大人の俺が落ち着いてどうにかしてやらないと。
「……今の会話で思いついたんだけど、先人で成功した人の例を見てみたいと思う」
会話する前は何の策も思いつかなかったけど、話している内に段々とアイディアが思い浮かんできた。
キラリから反対されるかも知れないけど、その時はその時だ。
どんどんアイディアを出してブラッシュアップしていこう。
「この人みたいに動画を上げるがいいと思う」
パソコンの中から該当する人を検索して、キラリに見せてみる。
今、キラリが参考にすべき人の動画の取り方とは――。
「動画のジャンルを曜日交代制にするのはどうかな?」
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